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こうかい

作者: ピーター

 なぜ。なぜ。なぜ。自分自身への問いかけが頭の中で連呼する。

 作品を公開したとき、ふと得体の知れない不安や恐怖に襲われるのはなぜだろう。


 長年抱え込んでいる苦しみは一体どこから来るのか。その真相を、今まで隠し続けてきた。だが、今回は真相を打ち明けようと思う。正確に言えば、打ち明けなければならない事情がある。

 というのも、ある些細な出来事がきっかけで自暴自棄に陥り、それを見ていた知り合いの方々に不快な思いをさせてしまった自責の念からである。


 十月某日。Twitter上で開かれた「第三回わーんらい」という企画に、僕は読み手として参加した。

 企画当日にお題が発表され、そのお題を基に参加者は〆切時間内に短編を書く。その後、公式アカウントから短編が一つずつ公開されていく。ただし作者名が記載されていないので、誰が書いたのか全くわからない。

 参加者と読み手は、短編を読んで誰がどの短編を書いたのかを当てる。手がかりとなるのは短編の文章、そして参加者の第一印象くらいだ。


 先述の通り、僕は読み手として参加した。全ての短編が公開された後、正解が発表されるまでの間、必死になって短編を読み、回答用紙に答えを記入していった。

 ところが、短編を読んでいくにつれて、僕は劣等感に苛まれていった。嫉妬からくる劣等感だった。数時間という短期間で、素敵な物語を執筆できる参加者の才能が羨ましいと思ってしまった。


 異能バトル、SF、アクション、恋愛、ホラー、ファンタジー。どの作品も同じ一つのお題から書かれたとは思えない位、魅力的な作品ばかりだった。

 〆切までの間に、どのようにして登場人物を生み出し、ストーリーの構成を考えていったのか。考えずにはいられなかった。


 そんなことを考えている内に、自分は物書きを名乗ってよいのかという気持ちが芽生えてしまった。俗に言う自己否定だ。

 物語を生み出すのに必要な経験や引き出しが少ない。ましてや文章力がない。そんな自分が小説など書ける訳がない。自らを卑下してしまった。


 暗い感情を抱えた僕は、なろうで公開していた連載中の小説を非公開にした。

 今まで時間をかけて書いた未完成の物語が、とてもつまらないだと思ったからだ。ここで筆を折ろうとも考えた。そしてTwitterで吐き捨てた。


『わーんらいの文章を見てると、僕が公開していた小説がちっぽけに感じる。だから非公開にして正解』


 今思えば、とんでもないことを呟いてしまったと思う。わーんらいに参加していた方々に対して非常に失礼な投稿だったと後悔している。

 この呟きを見たフォロワーの方々から反応があった。卑下するのではなく、自らの成長に活かしてほしいと願う声。そして、僕の作品は決して劣るような存在ではないと励ます声があった。


 フォロワーの方々がいなかったら、今頃この文章を書くことはなかった。改めて書くことの楽しさを知ることができた。そう断言する。

 だからこそ、僕は悔い改めるために過去を打ち明ける必要がある。冒頭で語った苦しみの正体。それこそが自らを卑下する原因となった「心の闇」なのだから。




 今から数年前。中学生だった僕は、学校で同級生と仲良くすることがどうしてもできなかった。当時の僕は、コミュニケーションの取り方を全く知らなかった。教室では、いつも一人だった。そして妄想の世界に浸っていた。学校に居場所なんて存在しないと思った。

 そんな僕が創作を始めるきっかけとなったのはインターネットで偶然見つけた「にじファン」という二次創作投稿サイト。かつて小説家になろうに存在していたサイトだ。そこで僕は二次創作に出会った。


 ただし、二次創作に対する、今の僕と過去の僕の捉え方は異なるものであった。ゲームやアニメ、漫画などのキャラクター、およびテレビ番組の企画を使って物語を作ることは許される行為だと思っていた。

 今となれば、それは間違いだと言い切れる。創作物の悪用を防ぐために公式側が二次創作を禁止しているケースがある。仮に禁止していなくても、多くの場合は黙認している状態である。

 そんなことを、過去の僕は知らなかった。公式から借りているんだという感謝の気持ちが微塵も無かった。自分が書けば、それは自分の物になるんだと思い込んでしまった。


 軽い気持ちで、僕は人生初となる二次創作を投稿した。今の僕から言ってしまえば、その作品は余りにもお粗末な物であった。

 作者兼主人公である僕が、既存のゲームやアニメ、漫画のキャラクターと共に学園生活を送るという内容だ。こんな物語、よく書けたものだ。作者が主人公の時点で物語が破綻している。きっと現実の学校よりも、理想的な学校に通いたいという強い願望がそうさせたのだろう。


 当然ながら、こんな作品はなかなか注目を集めることがなかった。もっと多くの人に見てもらいたい。認めてもらいたい。現実世界での寂しさを埋めたいと、心が欲していた。

 そこで僕は、ある行動に出た。作品に登場させるキャラクターのリクエストを募集することにしたのだ。そうすれば自然と作品に注目が集まるのではないかと考えたのだ。


 予想通り、募集を見た他のユーザーから数々のリクエストが届いた。リクエストに応じて、そのユーザー、または既存作品のキャラクターを登場させることにより、作品の注目度が徐々に高まった。

 知らない作品に登場するキャラクターは、インターネットで得た知識だけを参考にして登場させた。もしかしたら原作とは異なるキャラになってしまったのかもしれない。


 リクエストをしてくれた方から、コメントで面白い、登場させてくれてありがとうと言ってもらえるのが一番嬉しかった。これからもリクエストに応えていこうと思った。

 しかし、募集に頼ってしまった僕は、ある問題に遭遇してしまう。それは、あるユーザーが現れたことだった。


 そのユーザーのことを、ここでは黒鼠(仮名)と呼ぶことにする。

 最初に出会ったとき、黒鼠は「自分と◯◯◯(とあるアニメの主人公)を出してください」というコメントを寄せてきた。その要望通り、僕は黒鼠とアニメの主人公を登場させた。


 すると、黒鼠は大量のリクエストを送りつけてきた。多くのキャラクターを登場させて欲しいとお願いしてきたのだ。

 そんな過剰なリクエストに対し、僕は反論せずにリクエストを受け入れてしまった。あの時の僕は馬鹿だった。黒鼠から嫌われてしまうことを恐れて、断ることができなかった。


 いつの間にか僕の作品には、黒鼠がリクエストしたキャラクターで溢れてしまった。次々と増えていくので、ストーリーが進まなくなってしまった。何を書いていたのかさえ、自分でもわからなくなってしまった。

 結局、僕の作品はお蔵入りとなった。軽はずみなリクエスト募集が裏目に出てしまった。


 その後、黒鼠は度々他のユーザーとトラブルを起こすようになった。活動報告に複数のユーザー名を書き込み、誹謗中傷したのだ。それだけでなく、「死ね」を連続で書いたコメントを投稿したり、挙げ句の果てにはメッセージを連続で送りつけるといった暴挙に出た。強制退会となったのは言うまでもない。

 ネットのマナーがなっていなかった黒鼠。今の僕だったら間違いなくブロック機能を使ったことだろう。だが、過去の僕は甘かった。ユーザーと仲良くすることで、作品の注目を浴びたいという下心があったからだ。それ故に黒鼠を拒絶することができなかった。




 にじファンが閉鎖し、小説家になろうを退会した僕は、ノベルゲームが作れるアプリで作品を作るようになった。そして、もう一度なろうに登録しオリジナルの作品を書くことにも取り組んだ。作品を作る上で、過去の出来事から無闇に募集はしないよう心がけてきた。

 だが、注目されたいという欲求だけはどうしても捨てられなかった。ノベルゲームは注目されても、小説は注目されなかった。単純に小説家になろうが広過ぎるだけだったのかもしれない。だが、わーんらいに参加していた、あの時の僕は才能がないと思ってしまった。これこそが、自らを卑下してしまった真相である。


 今後、自らを卑下しない。そう誓うために、この文章を小説家になろうに記す。

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