?day:【醒めない夢】
・・・“夢”・・・夢を見ている。
それは朝陽を忘れた夢。
夜が明けることのない・・・いつまでも醒めない夢・・・。
〜*〜*〜*〜*〜
大切な人がそばにいた。
私の手をギュッと握ぎりしめている。
彼の温もりが、手から伝わってきて、とても温かかった。
でも、なぜか悲しそう・・・。
手に涙が落ちた。
【・・・大丈夫だよ・・・大丈夫だから泣かないで・・・】
そう言ってあげたかった。
でも、声が出ない。
二人だけの四角い部屋の中、とても静かだった。
静寂な空気が漂っている。
できることなら、大切な人と一緒に泣きたかった。
でも、涙も流せない。
虚ろな瞳が、ただ空気を見つめていた。
“あの時”から、もうどれくらいの時間が経ったんだろう。
四季の風に誘われて、時間は少しずつ流れていく。
・・・春・・・。
【まだほんのり冷える風に、温かな陽射しが心地いい季節】
・・・夏・・・。
【雪の冷たさを忘れ、傘からのぞきこむ青空が透きとおる季節】
・・・秋・・・。
【少し涼しくなり、紅葉が辺り一面に舞い落ちる季節】
・・・冬・・・。
【雪の訪れを告げ、街が白一色に染まる季節】
誰もが、流れる景色の中を生きている。
なのに、私だけ止まった景色を眺めていた。
この四角い部屋の中で・・・ただ一人・・・。
でも、待ってくれる人がいた。
【・・・これで目が覚めて、最初に目が合うのは・・・きっと、きみだね・・・】
〜*〜*〜*〜*〜
・・・夢・・・夢を見ている。
黒い猫さんが、ウチを足元から見上げている。
可愛らしい瞳が見えた。
でも、その奥に深く哀しい何かが映っているような気がした。
ゆっくりと抱き上げた。
それに合わせて、ゴロゴロとこぼれる鳴き声が、とても愛らしかった。
ギュッと抱きしめてあげる。
とても温かかった。
でも、この温もりが、愛らしさが、夢なのかと思うと、すごく怖かった。
いつになれば、この夢は醒めてくれるのか。
ウチは、いつまでも夢の中を、彷徨い続けていた。
〜*〜*〜*〜*〜
朝陽に誘われて、眩しい陽射しに目が覚める。
ウチは、ゆっくりと体を起こし、「うぅーっ」と背伸びをした。
ふと、視線を落とすと、一匹の黒猫が寝息をたてていた。
ウチは小声で呟いた。
「おはよ、クロ」
そう言って、そっと黒い毛並みを優しく撫でてあげた。
すると、クロはゴロゴロと満足そうに喉を鳴らした。
ウチは、返事してくれるクロが大好きだった。
でも、ウチの大切な人じゃない。
ウチのそばに、きみはいない。
少し寂しい気はしたけど、こうして夢から醒めたことに、ホッと一安心した。
ふと時計に視線を移す。
いつもより少し早く起きてしまった。
まだ、目覚まし時計が鳴っていない。
ウチは、それが鳴る前に止めた。
クロが起きちゃうからね。
立ち上がり、制服に着替え始めた。
そして、朝食をつくって、食べて、その頃にクロが起きてきて、足元にやってきて、頭を撫でてあげる。
時間が迫ってくると、かばんを持って、またクロがそばにいてくれて、靴を履いて、家を出た。
「行ってきま〜す」
ウチの声に続いて、クロが鳴き声を家に響かせる。
そして、家を後にした。
こうして始まるクロが加わったウチの毎日。
毎日が楽しいこの生活に、ウチは満足していた。
・・・でも・・・ほんの少しだけ不安だった・・・。




