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2day:【かなしい背中】

朝陽に誘われて、俺はゆっくりと目を開く。

目の前には、可愛らしい少女の顔が、すぅすぅと寝息をたてていた。

俺は大きな欠伸をしてから、立ち上がり、体を振るわせた。

視線を窓の外に向けると、眩しい景色が目に映る。

俺はもう一眠りしようと、顔を伏せ、目を閉じた。

夢に誘われていく・・・その時だった。

ジリリリリリリリッ!!!

突然、鳴り出す目覚まし時計。

あまりにうるさく、俺は驚き、体をビクリと反応させた。

こんなに大きな音の目覚まし時計に、少し苛立ちを募らせた。

そんな時、俺はふと彼女に視線を向けた。

さきほどの寝息が聞こえてくる。

―――・・・ノーリアクション・・・。

目覚ましは一体、何の意味があるのだろう、と思いながらも、小さな鳴き声で彼女のことを呼び続けた。

すると、あんな大きな目覚ましでも起きなかった彼女は、ゆっくりと目を開く。

俺の顔を見ると、寝ぼけたような声で、頭を撫でながら話しかけてきた。

「お〜はよぅ〜・・・クぅ〜ロぉ〜・・・うゅ〜・・・」

柊はそう言うと、ふらりと体を起こし、大きな欠伸をした。

そして、ふらりと立ち上がり、ふらつきながらも制服に着替えを始めた。

―――・・・!?

彼女は服を脱ごうとしている。

俺は今、猫だ。

しかし、同級生の男子生徒でもある。

俺は元人間で、柊の・・・友達だ。

―――のぞきは・・・駄目だよな。

多少の迷いはあったが、ベッドの上で背を向け、俺は丸くなった。

柊は俺を気にするはずもなかったが、俺は柊を気にしてしょうがなかった。

俺は小さなため息をついた。




柊は朝食を簡単に済ませると、かばんを持って靴を履いた。

俺は彼女の足元で、座っていた。

すると、柊は俺の頭を撫でながら話しかけた。

「んー、どうしたの?クロも学校行くの?」

俺は返事のつもりで鳴いた。

すると、柊は「うーん」と考え込む。

「学校に猫を連れてっちゃ、智実に怒られちゃうしな〜」

―――・・・確かに俺も困る。

お互いに言葉の通じない、二人の脳内会議が数秒の間、開かれていた。




「おっはよー!!智実ー!!」

「おはよう、美琴・・・どうするのよ、それ?」

「いいじゃんよー、教室に連れてくわけじゃないんだし」

結局、俺は柊についていくことにした。

柊の中では、一応校門までということらしい。

無論、俺もそのつもりだが。

とりあえず、俺は柊の足元について歩いていた。

二人が楽しそうに話しているのを、俺は彼女の足元で見ていた。

柊とクラス委員長は、なぜかいつも仲良い。

なぜか、二人はいつも一緒で、いつも二人に俺はいじられていた。

二人の性格から、俺はまさに“飴と鞭”とはこういうものだと、身をもって実感していた。

歩きながら、ふと欠伸がこぼれた。

すると、その様子を見ていた柊は、クスッと微笑んだ。

隣を歩いているクラス委員長は、何となく怒っているような気もした。

そんな(かのじょ)はスルーして、俺は柊の笑顔に対し、鳴き返した。

すると、彼女は嬉しそうに俺を抱き上げる。

そして、そのままギュッと抱きしめた。

「うぅー!!可愛いー!!」

「そんなことしてないで、さっさと行こ?」

クラス委員長がそう言うと、柊は「あ、うん」と返事をかえし、俺をゆっくりと床に下ろした。

「じゃあ、学校行ってくるからね」

俺は喉をゴロゴロと鳴らし、返事をかえした。

彼女はクラス委員長と一緒に、校門をぬけ、校舎の中へと入っていった。

俺は陽だまりの中で丸くなり、小さな欠伸をした。




『ちょっと、そこのアンタ。起きなさいヨ』

俺は眠ってしまったらしく、誰かに声をかけられていた。

顔だけ起こし、声のするほうへ向いた。

すると、一匹の茶猫が俺を見ていた。

『アンタ、見かけない顔ネェ?』

俺は固まったまま、それを見ていた。

―――なんだ、これ・・・?

とりあえず、言いたいことを意識して、鳴いてみた。

『青パジャマ、赤パジャマ、黄マジャマ』

『何噛んでんのサ?頭大丈夫?』

―――話せんのか・・・猫と・・・。

俺は小さなため息をこぼし、また眠ろうと顔をふせた。

すると、突然、体に痛みがはしり、飛び起きた。

猫パンチを食らったようだ。

『痛ぇな。何すんだよ?』

『アタイが話しかけてやってんのに、無視とは何事ヨ?』

こいつはどうやら、猫の世界では御偉いらしい。

俺は小さな欠伸をしながら、体を起こすと、そいつは俺の顔をジッと見つめだした。

そして、そいつはフッと笑った・・・気がした。

『アンタ、けっこういいオスじゃないカ』

―――そんなの嬉しくもない・・・。

とか、心の中で思いながらも、あえて声には出さないでおく。

どうやら、このいかにも姉御系のこいつは俺にいろいろと教えてくれるらしい。

『アタイのことは【エリー】と呼びナ』

それが説明の第一声だった。

それに続き、この街について・・・は長いので、省略しておく。

とりあえず、このエリーという猫に会ってしまったら、挨拶しておくこと。

それは守らなくてはならないらしい。

『あとは、何か手伝ってほしいことがあったら、アタイを呼びナ。助けてやるからサ』

『あ、あぁ・・・』

そういうと、そいつは俺に背を向け、歩いていった。

最後に少し振り返ると、一言こう言い残していった。

『アンタ・・・気に入ったヨ』

―――・・・は?

猫に気に入られても、俺は人だということをわかってもらいたかった。

しかし、それを言ったところで信じる人、いや猫すらいないだろう。

まぁ、助けてくれるらしいから、俺はもう別に何でもよかった。

機会があれば話してみようと、俺は思いながら大きな欠伸をして、日向で丸くなった。




とても心地よい温もりを感じる。

目が覚めそうになったが、それに誘われるように、また夢へと戻されていった。

その間際、小さな欠伸をして、眠っていった。




俺は病院のある一室にいた。

誰かが椅子に座っている後ろ姿が見えた。

その背中は、非常に冷たく、悲しそうに見えた気がした。

ふと、背中の向こうに、誰かがベッドで寝ているように見えた。

この悲しい背中の持ち主は、その人の手を掴んでいるようだった。

それを見ていた俺は、急に胸が苦しくなった。

何かがモヤモヤとうごめいている嫌な感触。

猫なのに、ふと冷や汗を掻いた気がした。

俺の喉から、何かがこみ上げてきた。

それを一気に、俺は吐き出した。

一匹の猫の鳴き声が、病院の廊下に轟いた。




さきほどの心地よい温もりから、勢いよく慌てるように飛び起き、少し距離をとった。

そして、喉をゴロゴロと鳴らし、威嚇した。

「どうしたの?怖い夢でも見たの?」

その温もりは、俺にそっと問いかける。

俺は冷静に辺りを見回した。

すると、そこは柊の家の玄関だった。

柊はしゃがみ込んで、俺を再び抱きかかえた。

「もう大丈夫。ウチが一緒だから、ね?」

―――・・・あぁ、何だろう・・・とても温かい・・・。

俺は優しく鳴いた。

すると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。

今、俺はとても満たされていた。

これ以上を望まない。

ただ、こうしていられればいい。

柊の腕に抱かれて、俺は彼女の部屋へと向かった。

部屋の中に入ると、俺はベッドへゆっくりと降ろされた。

そして、またしても、ある意味修羅場が訪れた。

「ふぅ〜、疲れたぁ〜」

そういうと、彼女は制服を脱ぎだした。

俺はとっさに丸くなり、力強く目を瞑る。

―――はやく寝てしまえ・・・。

ここで、あることに気づく。

―――・・・ね、猫なのに・・・寝すぎて寝れない・・・。

喉をゴロゴロと鳴らしながら、唸っていた。

すると突然、彼女もベッドに横たわり、盲目の俺を抱きしめた。

彼女の温もりは、服を着ているのかどうかの判断を狂わせ、俺を誘惑する。

俺は意を決して、距離をとって目を開いた。

すると、普通にパジャマ姿だった。

ここでやっと一安心した俺は、小さなため息をついてから、ベッドの上に戻り、彼女の側で丸くなった。

俺の黒毛が優しく撫でられると、ふとゴロゴロと鳴き声がこぼれた。

柊はクスッと笑い、そのまま静かに寝息をたてはじめた。

俺もそれに誘われるよう、夢の中へと入っていく。

こんな心地良い中で、俺は再びあの夢を見ることになるなど、思いもしなかった・・・。




・・・なぜ悲しいのかもわからない・・・(あくむ)を・・・。





ここらへんから、ややシリアスな感じになってきました。

僕の小説ではお決まりとも言える“夢”。

この作品は、結構期待できると思いますので、是非最後までご覧ください。

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