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第四話 暗闇と絶望の中で…


……ぽたっ…ぽたっ


俺は頬にあたる小さな冷たい刺激で目を覚ます、しかし体は衝撃や痛みで思うように動かない。周りを見渡す。何も無い、ただただ暗闇が続いている。


「ああ、そうだ俺たちは佐伯の手によって落とされたんだ...」


周りを手探りで調べる、周りは水浸しだ。落ちていく中で途中に生えていた木や、滝によって勢いが弱まったのだろう。


辺りを這いずりながら手で探ってゆく、水の中に暖かな感触が手に触れる。温かい水が流れている方に這ってゆく。魔法は使えないが、魔力は使える。魔力を掌に出して少しの明かりを確保する。

そこで見たのは、


「……っ!!」


大量に水に混ざった血だった。恐る恐る俺は血の流れてくる方に向かって、魔力をかざす。そこには橋田がいた。

しかも、落ちた時に尖った岩で腹に穴を開けた状態で。


「う、…おぇええ」


あまりにも無残な姿に俺はその場で吐いてしまう。もう少し俺の落ちる場所がズレていたら、同じようになっていた事に恐怖する。


俺はいっしょに落ちてきた莅戸芽のことを思い出し、魔力で周りを見渡す。ちょうど橋田の反対側にたおれていた。莅戸芽のところに這う。首に手を当て生きていることを確認する。俺は安心するとともに、魔力が切れ意識が朦朧とする。魔力は適正魔法を使わず、そのまま使用すると普段より大量に消費してしまう。


(ダメだ、俺がここで意識を失ったら誰も助からない)


魔力がなくなり腹が減る。暗闇に慣れ始めてきた目で、食べられるものがないか探す。近くに一本の木が、岩の割れ目から生えていた。


(今食えるものはこの木しかない、とりあえず何も食べないよりはマシだ。)


木には実がなっていないので、幹にそのまま歯を立てる。硬すぎて歯が軋む。が、かなりの時間かじりつきやっとの事で幹に歯が刺さる。すでに歯茎からは血が滲んでいる。血の味を噛み締めながら、かけた木片を食べる。


「ぐわぁああああ」


食べて飲み込んだ瞬間、体全体が悲鳴をあげる。全身を引きちぎられるような痛みに叫び声をあげながら、耐える。耐える、耐える、耐える、耐える、耐える、耐える、

身体の奥底から這い上がってきている痛みに……耐える。



やがて、痛みが少しずつ引いていく。


「はぁ、はぁ、はぁ、」


俺は息切れしながら、倒れ伏す。落ち着きを取り戻す中身体に異常がないか確かめる。


「腕は…動く、脚は…動く、…………なんだよこれ………俺が落下で受けたダメージもすべて回復してやがる。」


そう、全て回復していたのだ。落下のダメージも魔力も全て。


立って、歩くが痛みがどこにもない、それどころか以前よりも動きやすくなっていた。


ーーーちゃぷんーーー


その瞬間、俺の顔に衝撃が走り、視界が反転する。


「な…ん…だ……」


すさまじい勢いで俺はぶっ飛ばされながら、衝撃が来たほうを見る。


そこには、硬く丸い尻尾を持ったワーウルフがいた。

俺はその尻尾に当てられて吹き飛んだ。


ワーウルフはコボルトの進化種で、全てにおいてコボルトの三~十倍のステータスを持っている。


ワーウルフは吹き飛んだ俺に飛びかかる。同時に鋭く尖った爪で襲いかかる。俺はそれを何とか転がって回避する。しかし、完全な回避とはいかず、背中を大きくひっかかれてしまった。


俺の回避するスピードが痛みと、慣れない戦闘の疲労で極端に落ちる。

何度が回避するもすぐ捕まる。


再びのし掛かろうとする。

今度は回避しきれず下半身を抑えられる

俺はどうにか逃げようと全力で上半身を捻ったり、腕を振ったりするがあまりにも力の差がありすぎて、相手になっていない。


腕を振っている最中に手元に小岩があるのを見つける。


「オラァ、これでも喰らえ!」


その岩を掴んで、ワーウルフの鼻にたたき落とす。

いくらワーウルフだろうと、鼻に当たるダメージは完全には防ぎきれない。


「ギャン!! ギャン!!」


ワーウルフが悲鳴をあげながら俺から離れていく。

しかし、俺は抑えられていた下半身に血が回らず、激しい痺れに襲われる。


(このタイミングでしか距離を取れないのに!!)


「グルルルゥゥ」


ワーウルフが怒っている。よっぽど、自分より格下の相手に負わされたダメージが屈辱的なのだろう。


(おら、何度でものしかかってこいよ!また鼻をぶっ叩いてやる!)

その瞬間、


ブンッ

グチャ


ワーウルフの岩石のような尻尾が振り下ろされる。

岩を持っている方の俺の腕が潰される。

ワーウルフも危険だと感じたのだろう。だから先に潰した。


「ッッッッ!!」


痛すぎて声にならない叫び声が上がる。

ワーウルフはそんな俺を見て完全に、焦りがなくなっていた。ワーウルフの中で俺は、自分にダメージを負わせる敵から、ただの餌になったのだろう。


今度は確実にワーウルフに抑え込まれる。

上半身が抑えられる時に、潰れた腕に爪が食い込み完全に腕がちぎれる。


「ッッッッ!!」


再び激痛が走る。

意識を失って楽に死なせてはくれない。意識を失ってもなくなった腕の幻肢痛と、ワーウルフの恐怖で再び意識が呼び起こされる。


ワーウルフが口を開ける。そこには太く鋭い牙と、大きく開いた真っ暗な穴がある。


俺は何も出来なく死ぬのを悔しく思いながら、自分を飲み込もうとしているワーウルフを睨む。


飲み込まれるという初めての体験に、全身に力が入る。

自然と魔力が熾る。


「クソォォオオ!!」


目を閉じて叫ぶ。


瞼を挟んで目に赤い光が指す。


「グラァァァオオオオ」


身体を押さえつけていたものがなくなり、軽くなる。

いきなりのことで何が起きたのかわからない俺は、恐る恐る目を開ける。


そこには、喉の奥から炎と煙を出すワーウルフがいた。


(なんだ…これ…莅戸芽がやったのか?いやあいつは目を覚ましていないってことは、俺がやったのか?)


俺はワーウルフのほうをじっと見る。

ワーウルフは苦しそうに叫びながらもがいている。


少し経つと、ワーウルフは口を開けているが声と、煙りが出ていない。火傷して喉の溶けた部分がくっついたのだろう。

呼吸をしようとも喉がくっついているし、運よく鼻も潰してある。ワーウルフは酸素欠乏症になる。同時に肺の中には大量の煙が入っている。そんな状態では、どんな生物でも生きていけるわけがない。


ーーーズンッーーー


ワーウルフが重々しい音を立てて倒れる。


「……倒…した…のか?」


俺は自分を狙った敵が倒れるのを見て安堵する。手をついて起き上がろうとする、が、腕が無いことを忘れていて腕の傷口から地面に転ぶ。


「ッッッッッッハッ!!」


傷口から落ちたことで激痛を伴い呼吸が一瞬止まる。


(やばい、このままだと出血多量で死ぬ!!せっかく生き延びたのに死んでたまるか!!)


そう思い、怪我やダメージが治る木の幹の近くまで行く。前回かじった幹がめくれたところに行き、再び幹に歯を立てる。


途中からなので幹はすぐに取れる。ある程度噛んでから、幹を飲み込む。


「ぐわぁぁあああ!!」


目が覚めて、幹を初めて食べた時と同じ痛みが俺を襲う。俺は度重なる激痛と戦闘の疲労で、今度こそ完全に意識が持っていかれた。


(さすがに、もう耐えきれない……)



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