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第十四話 最愛による魔力操作

エウテルペから力を貰い、灰利の身体には人間の腕に龍の鱗がついたような腕になっていた。その腕は、人間の腕と同じサイズだが龍の膂力を持ち、黒曜石のような黒い鱗が肘から手の先まで綺麗に並んで生えている。


「腕、どう?」

「違和感はない、だが余り自分のモノという感覚がない。新しくつけられた何かを動かしているみたいだ」

「義手みたいな?」

「それに近いと思う」


腕が新しく生えたのは良かったが、まだ腕と身体が馴染みきっていない。


「たぶん、これから使ううちに慣れていくだろう」

「ちょっと待って、手に入れた新しいスキルで治るかも?」

「そう言えば、どんなスキルなんだ?」

「『魔力混一』のスキル。魔力の流れを見ることが出来て、ぶつかったりまったく別のものに魔力を混ぜたりして、一つの魔法にしたり一時的に魔法を物に付与したりすることができるみたい」

「それはすごいな、魔法主体の俺としては羨ましいスキルだ」


このスキルは、かなり強い。火、水、自然、光、闇、どの魔法も合体させて使うには、繊細な魔力操作と魔力の調整が必要になる。しかし、『魔力混一』のスキルさえあれば相反する光魔法と、闇魔法の混合魔法を使えるようになる。そのうえ、スキルのおかげで魔力を調整せずに魔法を混ぜれるので、他の魔法を使えるようになる。


「これを腕と身体に使って、馴染ませていく」

「信用してない訳では無いけど……俺の身体はそれを使っても大丈夫なんだよな?」

「大丈夫だと思う?」

「なんか、語尾に?がついていた気がするんだが!」

「気のせい」

「わかった、わかった、それじゃあお願いするよ。お前のことだ、俺に余計な気回しとかしてミスるなよ」

「ん!」


穂澄の元気な返事を聞き、俺は少しの覚悟を決める。いくら力があったり、魔法が使えたりするからといって、身体を弄られるのは怖いのだ。


「よし、始めてくれ」

「安心してまってて」


穂澄の手が俺の龍の腕に、添えられる。長いしこれからは『龍腕(りゅうわん)』と言おう。


穂澄がスキル『魔力混一』を使う。


穂澄は、龍腕に宿っている龍の魔力を俺の中の魔力と混ぜて、まったく新しい一つの魔力を作り出そうとしている。


俺の魔力が、動かされる。自分で魔力を使う時に動かすのと、他人に自分の魔力を動かされるのでは感覚が違う。


(なんか、むず痒いな。それに変な感じだ)


穂澄は慣れてきたみたいで、俺の中の魔力を俺の上半身の中で循環させる。

ある程度、魔力が操作できてきたら次に、龍腕の魔力を循環せさようと、穂澄の意識が移動する。

龍腕の魔力に、『魔力混一』を使う。

魔力が動かされる感覚はない。


「どうしたんだ?」

「この魔力、とんでもないジャジャ馬…」


穂澄の様子を見る限り、スキルを使っても魔力が暴れ回るような感覚で、上手く制御できないようだ。


何回か龍腕の魔力を、少しずつ動かそうと挑戦してるうちに、コツが掴めてきたみたいで、魔力の動かしかたが、大きくなっていく。


「もうちょい」

(やっぱり、馴染んでないと言っても、既に俺の腕なんだし、変な感覚がする。むしろ、俺と違う魔力を俺の中で動かされるから、最初の時と比べられないぐらい、変な感じがする。正直いって、かなりやばい)


そんなふうに思っているうちに、龍腕の魔力を循環させることに成功したようだ。


「あとは、この二つを少しずつ近づけて、混ぜてくだけ」


俺の中にある二つの魔力が、龍腕と左肩の部分で混じりあっていく。時々、二つの魔力がぶつかり離れてはくっつきを繰り返している。


俺の中の魔力が、完全に龍の魔力と混ざり始める。

龍の魔力が、俺の魔力に似てくる。

俺の魔力と龍の魔力、二つが合わさった魔力が遂には、俺の身体に馴染む最適な質になり、身体の方にも魔力が馴染んでいく。


(弄れている時はむず痒いけど、馴染んでいくと気持ちがいいな)


穂澄が脂汗を浮かべながら、どんどん馴染ませてゆく。


「……もう、少し」


なんだか、嬉しくなってくるな。俺のために一生懸命になっている、女の子がいるってのは。そしてそれが、最高の恋人である穂澄なのだから。


今まで感じたことのない魔力が、身体に入っていく。


(これが龍の魔力か、凄まじいな)


龍の魔力が、腕から肩、胸、腹、足の順で馴染み渡る。


「はい、今日のところはこれで終わり」

「え、」


せっかく、魔力が馴染んできて心地よかったのに、なんでだ?


「いっきに動かしすぎて、龍の魔力が暴れそう」

「そうなのか」

「ん、灰利の魔力はいい感じだけど」

「なら仕方ないな」

「毎日少しずつ、調整していく」


まあ、毎日こんな気持ちになれるならいいかな。

よし、だいぶ良くなったし魔力を使ってみるか。


俺は魔力を熾し、光魔法を使おうと体外に魔力を放出させようとする。が、出てきた瞬間魔力が弾けて散ってしまう。何度か試してみるけどうまくいかない。


「ありゃ?」

「たぶん、混ざりきってない魔力がぶつかってる」

「つまり俺はこれから数日間、魔力を魔法を使えないってことか?」

「そう」


俺は地に膝をつき、ショックを受ける。

だって、魔法主体の俺から魔法を奪ったら何もできないよ。恋人ができて、その当日のうちからヒモとか、情けなさすぎるだろ。


「少しずつ」

「はあ、そうだよな。魔力が馴染むまで腕を動かして、違和感なく動かせるようにしよう」

「そう言えば、灰利のスキルは?」

「言ってなかったな、俺のスキルは『魔力纏燐(まりょくてんりん)』だな」

「どんなスキル?」

「シンプルで、魔力を纏う。纏った魔力は、自分の身体から離れない限り自由に扱える」


今すぐ使いたいけど、無理だしな。

単純スキルだとは思うが、考え方と練習次第でいろいろ応用ができそうなスキルだ。例えば、魔力を纏った状態で魔力を圧縮して装甲にするのもありだ。相手の魔法が当たる前に、纏った魔力を変質させ無効化するのもありだ。etc……


思考に耽っているうちに、腹が減る。


「それじゃあ、今日はここら辺で飯にして寝るか」

「ん、また同じ布団」

「残念ながらそれは無理だな。布団自体がないから」

「あ…」


その後、肉を食べてから、二人で横に並んで寝た。


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