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第九話 新たなピンチ

何日か経って、干し肉と木の粉をかなりの数をように出来た。待っている間にワーウルフの革鎧と亀みたいなやつの甲羅を使って急所を最低限守れる装備を作った。


そして俺たちは今、落ちてきた空間から出て下の階層に繋がる少し急な坂を降りているところだ。下に繋がるこの場所は、2メートルぐらいの縦幅で余裕があるけど横幅が50センチぐらいしかなかった。


足場はかなり悪いが莅戸芽はスイスイと降りている。俺は腕が片方ないので自然魔法で向い風を起こして安全性第一で向かっている。


「あとどれくらいで下につくと思う?」

「さぁ?結構降りてきたからあと少しじゃないか?」

「確かめられない?」

「自然魔法の風でなんとなくの探査はできるけど出口に敵がいたらこの狭い道で戦わないといけないぞ」

「ん、それは面倒」


そんなことを言いながらも、俺は常に自分たちの前後10メートルを自然魔法の風と、光魔法の周りを照らしてる光の反射で周りを警戒している。


光魔法はかなり便利だが、戦闘になると今はあまり使えない。小学校などでやった虫眼鏡で光を集めて、火を起こす実験を応用して攻撃に生かせないか試したが、相手にダメージを与えるための光の量が多すぎて、魔力をほとんど持っていかれてしまった。なので今は索敵と周りを照らす程度しかできない。


「はぁ、結構長いな」

「うん、飽きてきた」

「少し休憩するか」


降り始めて数十分が経つのに先が見えない。

魔力も半分より少なくなって、いざという時に魔法が使えなくなると困る。木の粉を使えば元に戻るが、あれは緊急時になった時や怪我をした時に使うために、頻繁に使用するのはできるだけ避けたい。


「はい、干し肉と水」

「ありがと」


そういえば、ここに来てから肉と水、それと木しか食べてない気がする。栄養的に心配になるがきっとあの木のおかげで大丈夫なんだろう。マジであの木たちには感謝と尊敬しかないわ。さすがっす。


「自然魔法って地面も利用できるよね?」

「ああ、それがどうした?」

「それで探索すれば、敵に気づかれないんじゃない?」

「!!その手があったか、今まで風しか使ってなかったから他を考えてなかった」

「ん、抜けてる」

「早速やってみるか」


自然魔法を使い、地面に意識を寄せる。

地面に魔力を通して、今進んでいる方向に魔力を向ける。


(ん?なんだ、なにか動いている?)


魔力を流した先の遠くで何かが動いているのがわかった。


(だいたい、200メートルぐらいか)


距離感をなんとなく掴んで、魔力の密度を上げてから流す魔力を増やす。


「…なにか近づいてくるぞ!たぶん魔物だ」

「地面の中から?」

「ああ、通した魔力を辿って近づいてくる!」

「戻る?」

「いや、進もう。ここにある程度の魔力を固定して、少しの時間ここから魔力が流れるようにするから、前に進んで広い空間に出るまで走る」

「ちなみにどれくらいの距離?」

「さっき魔物がいたのが200メートルくらいだからそれ以上だ!」


残っている魔力の半分をその場に固定して、前に進む。

魔物のスピードは俺達が走るのと、だいたい同じくらいだ。


固定した魔力から自分に情報が入ってくる。


固定した魔力から魔物まであと100メートル。

自分たちまで75メートル。


「莅戸芽、少し屈め。風で浮きながら移動する」

「ん」


相手は地面の中を動いているので、スピードは落ちるが移動している時に振動や音でバレないようにするため、風でで浮きながら移動したほうが安全だ。


固定した魔力まで50メートル。

自分たちまで15メートル。


地面を掘りながら進んでいる音が聞こえる。

魔力の情報は位置が分かるだけで魔物の姿までは、伝わらない。


地面を掘り進める凄まじい音が地面から自分たちのいる空間に響き渡る。

遂に魔物とすれ違う。

どうやらバレなかったみたいだ。

魔物が通り過ぎてから莅戸芽とアイコンタクトを取って確認しあう。


「バレなかったみたい?」

「だな、こんな狭いところで戦闘になりなくないからな」


固定した魔力から伝わってくる。

固定した魔力まで0メートル。


固定していた魔力が潰れる。

その瞬間、


ズズズズズズズズッ


重い音が洞窟の空間の上下左右、全方向から鳴り響き洞窟が崩壊し始める。


「やばい、全力で逃げるぞ!」

「うん」


俺は木の粉を少し飲み、痛みを伴いながら体力と魔力を強制的に回復させる。


「ぐっ、魔法をかける」


そう言って、今自分ができる最大の魔力で追い風をつくる。


走り始める。

感じたことのないスピードが出る。

景色が一気に通り過ぎる。

洞窟の壁の窪みや出っ張りは早すぎて目に止まらない。

今まで通ってきた道がどんどん崩れていく。


前は、暗くてほとんど何も見えない。

魔力は移動に使っているため、光は最低限しか照らさない。




数分か数十分か、必死に走り続けて洞窟の崩壊が止まる。


「はぁはぁ、ようやく落ち着けるか?」

「ん、さすがに連続で起こりすぎてて疲れた」


莅戸芽は口調には出てないが、顔を見るとかなり疲れている。俺は体力よりも魔力を使い過ぎて枯渇気味になっている。


「ほら、これ飲め」

「わかった」


俺は莅戸芽にも木の粉を渡し、お互いに回復する。


「やっぱり痛くてこれ苦手」

「そういうなって、これで俺たちは助かってるんだから」


ーーーザァァァァーーー


「なんだ?遠くから水の音が聞こえる」

「……違う、水がこっちに流れてきてる」

「なんでだ、魔力ではそんな反応なかったのに」

「どうする?」


木の粉で回復したばかりの魔力を再び無理やり捻り熾す。


「とりあえず、俺が全力で壁をはる。莅戸芽は俺に木の粉を壁を作っている間に口に入れてくれ」

「わかった」


火魔法で空気を膨張させて少しでも、水の到達を遅らせる。

水魔法で薄い氷の層を何枚にも重ねて壁を作る。

自然魔法で後ろで崩れている洞窟の岩と、その場にある地面を隆起させて支える柱と壁を作る。


「はい」


莅戸芽から木の粉を俺の口に入れてもらう。


続きを作る。

光魔法で超高密度の光のエネルギーを込めた球を自分の横に一つ作る。


「木の粉を!!」


再び木の粉を飲ませてもらう。

闇魔法で自分に『狂鬼化(きょうきか)』を付与する。これは全体的なステータスを底上げできる魔法だが、強くかけすぎると理性がなくなり暴走状態になってしまう。


「くる!!」


水が到達する。

膨張した空気は水で冷やされて徐々に元に戻っていく。

何層にも重ねた氷の壁は、十数秒耐えたが亀裂がはいってくる。

岩の壁は氷よりは耐えたが水の勢いが強すぎてどんどん削られていく。


「莅戸芽もう一度粉を!!」

「いくら何でも連続は危ない!」

「ここで死ぬよりはマシだ!!もうこれしか後がない!」

「……わかった…」


粉を飲ませてもらう。

身体が急激な変化によって悲鳴をあげる。


「ぐっ、まだだ」


壁が全て崩れていき、迫りくる水が見える。

回復したばかりの魔力で、水魔法と光魔法を行使する。

水魔法で凸凹レンズのような水の膜を作る。

次に、光魔法で自分の横に作った光のエネルギーの球に働きかける。


水の膜目掛けて、光の球からエネルギーが発射される。

水の膜に光のエネルギーが到達する。

凸凹レンズのような水の膜に光エネルギーがあたり、一点にエネルギーが凝縮されてレーザーが発射される。


レーザーは一瞬で迫りくる水に到達して、莫大な熱量とエネルギー量で水を蒸発させていく。


(よし!このままいけば!!)


洞窟いっぱいに広がったレーザーが水をどんどん蒸発させて押し返してきている。


……ピシッ


俺は状況がだいぶ良くなって油断していたので、周りの岩にヒビが入り始めていることに気づかない。


「っ!!危ない!!」


ドンッ


「えっ」


莅戸芽が俺を押す。

ヒビが入ったところから水が流れ込んでくる。

水が莅戸芽の背中にあたる。


「莅戸芽ぇ!!」


莅戸芽をよく見ると水の当たったところからジュゥゥという音が聞こえる。


「まさかこれは!!」


俺は流れてくるそれに向けて保存用の肉を投げる。

肉がゆっくりとだが確実に溶けていってる。

流れ込んでくるそれは強酸だった。


「莅戸芽離れろ!!」

「ダメ、今離れたらみんな死ぬ」


ワーウルフの革鎧のおかげで直接莅戸芽に害はないがいずれ革鎧もすべて溶かされる。


(くっ、どうすれば!)


ビキィッ


洞窟の壁が一気に崩れて、俺たちは強酸に飲み込まれる。


(クソッ、一か八かだ!!)


木の粉の入った袋を口にくわえる。

莅戸芽の着ていた革鎧を破り捨て、莅戸芽に抱きつく。

俺は発動しっ放しだったレーザーを止め、レーザーに余ったエネルギーでぎりぎりくっついたふたりを覆えるサイズのバリアをつくる。


(何とか、耐えてくれ!!)


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