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番外編 第四話 久藍タクミちゃん4

 

 不慮の事故により性別が逆転してしまったタクミ。

 そんな彼女となった彼は今――――


 「はいはいショウさん、次はこれこれ♪」


 レンの手には女性用の服が握られており、タクミが現在着用している服装は先程まで着ていた男物の服ではなく、可愛らしい花柄の模様が散りばめられている黒いワンピースを身に纏っていた。

 そんなタクミは羞恥心の余り、顔を赤くしながら俯いていた。


 「も、もういいでしょ…」

 「だめだめ! 次はこの服着てもらうんだから!!」


 レンはタクミの頼みを却下し、次に着せる予定の服をちらつかせる。

 もうすでに二十分近くタクミは着せ替え人形扱いを受けていた。レンはもちろん、ミサキも今回は乗り気であったためいつもの様にレンを諌める事はしなかった。

 だが、さすがにタクミの恥ずかしがる姿に罪悪感を感じて来たため、ミサキが興奮気味のレンに言った。


 「レン、そろそろいいでしょ。さすがにこれ以上は……」

 「え~、ミサキだってノリノリだったじゃん」

 「うっ…でも……」


 ミサキはちらりとタクミに目を向け、それにつられてレンも視線を動かした。

 二人の視線の先には瞳を潤ませながら頬を染めたタクミがこちらを見つめていた。


 「も、もういい…でしょ?」

 「「(うっ…可愛い!!)」」


 そんな彼の姿に思わず二人の胸はキュンと来る。

 しかし、同時に少しやり過ぎてしまったと反省する二人。レンもさすがにこれ以上はやめた方が良いと判断し、手に持っていた洋服を一先ず下ろす。

 レンが洋服を下ろした事で、タクミはとりあえず一安心する。


 「しょ~がないなぁ。ま、ちょっと遊び過ぎたかも…ごめんねショウさん」

 「い、いいですよ。じゃあ私の服返し「それはダメ!!」何で!?」


 セリフの途中で却下され、さすがに不満を口にするタクミ。

 

 「せめてそのワンピースの可愛い姿は目に焼き付けさせてもらうよ! じゃないと納得できません!!」

 「いやいや、もう充分に見たでしょ!?」

 「でも…似合ってますよショウさん」

 「ミサキさんまで!?」


 二人にそこまで言われてしまえば正直この服も脱ぎにくい。

 しかし、正体が男性である自分からしたら可愛いだの似合っているだの言われてもあまりうれしくは感じない。乗り気な二人には悪いがタクミにとってこの状況は地獄でしかなかった。

 だが、ようやくそんな地獄から解放されたタクミ。未だにワンピースの姿のままではあるが……。


 「あっ…もうこんな時間じゃん。私今日はこの後に少し用事があるんだよね」

 「もしかして、孤児院に……」

 「おっ正解、よく分かったね。このあと顔を出す約束してんの」


 レンはそう言うと立ち上がり、二人に別れの挨拶をしてミサキの部屋の扉を開ける。

 

 「じゃね~ミサキ、それにショウさん、楽しかったよ。あっ、ショウさんその服は帰るまで抜いじゃダメですから!!」

 「理不尽!!」


 ビシッとタクミに指を突き付けてそう言ったレンは心底楽しそうな顔をしていた。

 

 ……正直、女性相手とはいえ殴りたくなったタクミ。


 こうしてミサキの家から出て行ったレン。

 ミサキと二人きりの状況となり、普段の自分ならばともかく女性と変わり果てている今の自分にはとても居座りずらい状況であった。

 その時、タクミはミサキのベッドの上に置いてある一つの人形に目が留まった。


 「あ…」

 「ん?ああ、これはタクミ君から貰った物です」


 ミサキはタクミの視線に留まったそれを手に取ってタクミに見せる。

 それは兎のぬいぐるみ。以前、初デートの時にタクミが買った物だった。

 ミサキは手に持ったぬいぐるみの頭を愛おしそうに撫でながら言った。


 「タクミ君との初めてのデートの時に彼から貰ったプレゼント……私の一番の宝物です」


 ミサキのその言葉にタクミの頬は僅かに高揚した。

 ミサキの目の前に居る少女が実はその彼氏さんだとは思いもしない彼女はショウに嬉しそうな顔でそう告げる。


 「不思議だなぁ…」

 「えっ?」

 「なんだかショウさんと居るとタクミ君と一緒に居る様に錯覚してしまうんです。だからこんな話も普通に出来ますし」

 「(そりゃ…本人ですから)」


 内心で苦笑しながらタクミはそう思う。 

 すると……ミサキはタクミ、いやショウに自分の胸の内に秘めている小さな悩みを話し始めた。


 「ショウさん。私…タクミ君と一緒に居てすごく満たされています。でも……時々不安になるんです」

 「不安、何がですか?」

 「……私が…タクミ君と釣り合っていない事実にです」

 「!?……どういう事?」


 タクミの言葉にミサキは寂しげな顔をする。

 そして、彼女はショウへと語りだした。自分がタクミと一緒に居る際に感じる想いを……。

 

 ミサキの部屋には先程までとは一転し、重たい空気が漂い始めていた……。




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