第七十一話 夏休み最後の試練!!
夏休み八月二十七日、いよいよ夏休みも終了間近となって来た今日この頃。そして今日はレンの自宅である赤咲家には三人の人間が集まっていた。
赤咲家のレンの自室にはその部屋の住人赤咲レンが床に正座していた。そしてその彼女の後ろでは友人、久藍タクミが床に座っているレンに哀れみの目を向けている。
そして・・・・・・正座しているレンの前には腕組をして仁王立ちしている親友、黒川ミサキが立っていた。
「・・・・・・・・・・」
無言でレンのことを見つめて、否、睨み付けているといった方がいいだろう。普段の彼女からは想像できない程、今のミサキはレンだけでなくタクミも内心少し恐ろしく感じていた。
炎系統の魔法使いでなく冷気の魔法使いではないかと思うぐらいに今のミサキから放たれる威圧感は冷たいものであった。
そして・・・・・・彼女がゆっくりと口を開いた。
「ねえ、レン」
「は、はい・・・・」
ミサキの言葉にびくびくと反応しながら恐る恐る返事をする。
「あなた確か、一学期の終業式が終わった後、私に言っていたよね。宿題なんて暇な時に片付けるって・・・・・・」
「は、はい」
「もう高校生だから今までの中学時代とは違い泣きついたりしないって、言っていたよね?」
「はい・・・・言っていました」
レンは冷や汗を掻きながらミサキの言葉に答えていく。
「そう・・・・じゃあ今、あなたの残っている宿題の量は何かしら?半分近く残っているように見えるんだけど・・・・」
「そ、その・・あの・・・・」
ミサキが怒り心頭の理由、それは夏休み終了間近にもかかわらずレンが宿題を溜めこんでいたからである。中学時代三年連続で泣きついてきたレン。そして今年もまた、結局ミサキに泣きついてきたのだ。
「レン・・・・私はレンの親友だよ。だからあなたが困っているなら力になりたいと思うけど、さすがに今回は・・・・・・ね?」
「す、すいませんでした」
今はとにかく謝る事しかできないレンは必死に謝る。勿論レンに原因はあるのだが、さすがに彼女が不便になって来たタクミはミサキを諌めようとする。
「まあミサキ、気持ちはわかるが少し怒りを納めろよ、なっ?」
「タクミ君・・・・」
恋人の言葉に少し落ち着きを見せるミサキ。
怒りの炎が少しずつ鎮火していく事に内心安堵するレン。ミサキに電話で泣きついた際、その前にタクミに連絡を入れておいたのだ。ミサキの怒りが爆発する事は簡単に予測できたため、彼氏であるタクミをストッパーとして事前に来てもらったのだ。
ちなみにタクミは夏休みの宿題に関しては全て終わらせてある。
少し落ち着いたミサキ。まだ少し怒ってはいるが、先程よりは随分と穏やかになってくれたようだ。
「それで・・・・後は何が終わってないの?」
「残っているのは数式と歴史と魔法授業に関するドリル・・・・あと日記も」
中々の量の宿題がやはり残っている。日記に関してはレン一人でもすぐに終わらせれるだろうが他の三つのドリルは別だろう。
ミサキは大きく息を吐くと、レンの宿題を仕方なく手伝う事にした。
「とりあえず解からないところは教えてあげるから極力自分の力でやってね」
「ありがとうミサキィ~!」
嬉しさの余りミサキに抱き着くレン。だが今は一刻も早く目の前の宿題を片付けることが優先事項だ。ミサキはレンを引きはがし、早速宿題を片付けに入る。タクミもただ見てるだけではばつが悪いし、何より友人の為、共に宿題の処理を手伝った。
「この問題で、ラストォッ!!」
大声と共に、レンは最後の問題を解いてドリルに記入する。ミサキとタクミの協力もあり、レンの残っていた宿題は日記を除いてすべて片付いた。その場で大の字になって倒れ込むレン。
こうしてレンもこの夏休み最大の敵を片付け、とりあえず一安心する。ミサキは安堵して寝転がっているレンをジト目で見ながら忠告した。
「レン、言っておくけど来年は絶対に手伝わないからね。高校生にもなって宿題を手伝ってもらうなんて正直恥ずかしい事なんだからね」
「はい・・・・・・すいませんでした」
流石に今回は素直に謝罪をするしかないレン、そしてその光景を苦笑いで見ているタクミ。
こうして無事レンは夏休みの最大の難関を突破したのであった。
宿題を片付けた事で三人は今はまったりと落ち着いていた。今日を除いて残り夏休みは四日、もうすぐ二学期が始まるということで三人は学園のある行事について話し合っていた。
「もうすぐ二学期が始まるけど・・・・確か二学期にはあるイベントがあったよな?」
「うん、〝クラス別魔法戦闘〟だよね・・・・・・」
ミサキの言う〝クラス別魔法戦闘〟とは、魔法学生の一年生の各クラスがそれぞれ代表生徒を五人選出し、その選ばれた生徒同士で魔法使いとしての力を競い合い、高め合うイベントである。毎年入学して来た一年生のレベルを計る為にも一年生の生徒の中でもクラスで推薦された者達が競い合っている。参加しない生徒達も同じ一年生の戦闘を見学する事で魔法使いとして学び、意識を高めることを目的としている。
「そういえば俺、他のクラスの連中がどういう奴らかほとんど知らないな」
「私も他クラスとはあまり交流はないかな・・・・・・」
「レンはどうだ?」
タクミが他のクラスについて何か知っているかどうかを聞く。レンはとりあえず自分の知っている情報を二人に教える。
「まずもっとも注目するのはCクラスの桜田ヒビキかな。実際に戦っている姿もこの目で見てるし・・・・」
「(あいつか・・・・・・)」
図書室で僅かな会話をしたヒビキのことを思い出すタクミ。確かに彼からは強い威圧感を自分も感じ取った。
次にレンはEクラスの生徒について説明をする。
「Eクラスには夏野ケシキって奴がそこそこやるって聞いたかな。それと・・・・・・Dクラスにもなんかやり手の女子が居るって噂を聞いたかな。誰かは知らないけど」
「・・・・いずれにせよまだ俺達の知らない実力者が大勢いそうだな」
「タクミ君、なんだか嬉しそう」
ミサキはタクミの表情が僅かに緩んでいることに気付き指摘する。
「ちょっとな、こういう大会での勝負なら男としてちょっと燃えて来るものがある」
少し嬉しそうに熱くなるタクミにミサキとレンの二人は苦笑する。
しかし、そこでタクミは一旦自分の熱を冷まし二人に言った。
「まあ盛り上がっているけど俺が選ばれたらの話だけどな」
「いやいや、タクミ君は選ばれるでしょ。二年の小林先輩との戦いでクラスのみんなもタクミ君の実力は十分わかっているだろうし」
「うん、私もそう思う」
レンの言葉にミサキも頷く。
アタラシス学園二学期に行われる〝クラス別魔法戦闘〟。今はまだ誰もが予想していないが、今年のこのイベントは過去一番の戦いが繰り広げられる事となるが、この時の三人にはそんな考えは頭にはなかった。
「(楽しみだな・・・・)」
心の中でそう呟くタクミ。同じ一年生との戦いに彼の覚ましたはずの心は再び熱く燃え上がっていた。
そして、残りの夏休みを生徒達は過ごし、アタラシス学園は二学期へと突入した。
そして二学期の一年生最大のイベント、〝クラス別魔法戦闘〟の開催が近づいていたのだった。
今回で夏休みの話は終了です。いよいよ二学期に突入し、ちょくちょく出ていたヒビキ君や新キャラを動かせそうで楽しみです!!