第六十九話 ずっとあなたが・・・・・・
レンの唐突に決められた肝試し。三チームの内のA、Bの二チームが終了し、残りはマサトとメイのCチームのみとなった。すでに回り終わった者達に声を掛けられながら出発するマサトとメイ。
暗き夜の道、自分たちを支え導いてくれるのは手元の懐中電灯のみ。その微かな光で進むべき道を照らして歩く二人。
「うぅ・・・・・・」
「怖えか?」
「え・・・・・・うん」
一瞬答えることを躊躇うが、付き合いの長いマサトに誤魔化しても無意味と思い素直に頷くメイ。マサトはそんな彼女の頭をぐしぐしと撫で繰り回しながら言った。
「相変わらずこういうの弱えな、お前って」
「相変わらず・・・・?」
「昔小学生時代、夜の学校に忘れ物して俺に泣きついてきたことあっただろ」
マサトの言葉で恥ずかしさの余り封印していた記憶が蘇り、ぼんっと煙音を立ててメイの顔が真っ赤になり熱を放ち始める。その様子を見てマサトがけらけらと笑う。そんなマサトにメイが恥ずかしながらも膨れる。
「もう、酷いよマサト君・・・・」
「おっとからかいすぎたか?わりーわりー」
マサトはがさつに撫でていた手を優しい物に変え、メイの頭をぽんぽんと軽く叩く。ぶっきらぼうながらも優しく乗せられている手の感触にメイも思わず許してしまう。愛しい人からのこのような行為はどうしてこうも心を落ち着かせてくれるのだろう・・・・・・。
その後も二人は軽い昔の思い出話しをしながら進んでいく。マサトとの会話の最中、肝試しの恐怖などメイの頭からは完全に忘れ去られていた。それほどまでに彼に夢中という事なのだろう。
そしてこの時・・・・・・・・。
「・・・・・・(よし・・・・)」
メイはマサトと話しながらある決心をした。
この夏に必ず成し遂げようと決めていたことが彼女にはあった。
そして二人は指定されていた大樹に辿り着いた。木の周りには赤い紐が巻かれているのでここで間違いないだろう。マサトは木に巻かれている紐を回収し、来た道を戻ろうとする。
「行こうぜメイ」
折り返し地点に辿り着き、来た道を引き返そうとするマサトであったが、メイは顔を俯かせて動こうとはしなかった。幼馴染の違和感にマサトが不思議そうにしながらもう一度彼女に声を掛ける。
「おい、メイって」
すると、メイは顔を俯かせたまま近づいて来て、マサトの胸板に頭をそっと押し当てる。突然のメイの行動にマサトは少し動揺する。
「お、おいどうした?もしかして急に怖くなったか」
マサトがそう聞くとメイは小さく横に頭を振って否定する。
メイはぽつりぽつりと呟いていく。
「ずっと・・・・あなたに伝えたい想いがあった。でも、意気地なしの私は中々その想いを伝えることが出来ずにいた」
メイがマサトの服の裾をぎゅっと掴む。
「でも今日、ようやくあなたに伝えようと思います」
マサトの胸板にくっつけていた顔を上げ、上目遣いでマサトを見るメイ。
幼馴染のその表情にドキっとするマサト。
そして――――
「私は・・・・マサト君が大好きです。小学生の頃からずっと・・・・・・・・」
とうとう自分の長年の恋心を伝えたメイ。
幼馴染からの告白にマサトは黙り込む。マサトのその反応にメイの中に不安が少しずつ現れる。だが、次の瞬間――――
「ん!?」
マサトはメイの唇を奪い、キスをしてきた。
いきなりの行動に驚くメイだが、彼女はそれを拒むことなどせずマサトを受け入れる。
「んぅ・・・・・・」
「んん・・・・・・」
とても長い時間、互いの唇を重ねる二人。そしてようやく二人のくっついていた距離が少しずつ離れて行く。マサトはメイの頭を優しく掴んで自分の胸に抱き寄せた。
「マサト君・・・・・・」
「意気地なしなのは俺の方だ。お前に幼馴染以外の感情を持っていながら何も言えず、挙句女性のお前の方から先に告白までさせてよ・・・・・・情けない限りだ」
「そんなことないよ。マサト君は何時だって私にとってはとても頼りになる存在で、今だってそうだよ」
「メイ・・・・・・先に言われちまったが、改めて俺から言わせてくれ」
マサトはメイの目をちゃんと見て、はっきりと言った。
「俺もお前が大好きだぜ。だからよ・・・・俺と付き合ってくれ」
「・・・・・・はい、喜んで」
マサトの言葉にメイは涙を流しながら笑顔で答える。
そんな彼女を強く抱きしめるマサト。二人はそのまましばらくの間、その場で抱きしめ合っていた。
その頃、スタート地点で待っている皆はというと・・・・・・。
「それでね、レンさんたっら大声で叫んで私に張り付いてきたんですよ」
「ほお~、何だよメイ、お前も結構ビビりなんだな」
「ちょっ!そのことは秘密だって約束したでしょユウコちゃん!!」
「だって戻った時の言いぐさがむかついたから・・・・・・」
マサトとメイがまさか結ばれたなど思わず、先程の過剰に怯えていたレンのことを話していた。普段は周りをからかうレンであったが、今回は逆の立場に立たされたのであった。