第六十八話 肝試し
ユウコが出会った人物については多少は気にはなるが、ユウコ以外の人物がその姿を目撃していないため、その少年についての話題は一旦終了となった。そしてそのまま時間が過ぎ夜遅くとなると、突然レンがニヤニヤしながら全員の注目を自分に集める。
「は~い、みんなちゅーもーくっ!!」
手をパンパンと叩きながら意識を自分に向けようとするレン。他の皆はいったい何かと思いながらレンの言う通り彼女に意識を傾ける。実は彼女はあるサプライズ企画を計画していたのだ。
「はーい皆さん!これから全員で外に出て肝試しを始めまーす!!」
「「ええっ!!」」
「「「肝試し!!」」」
「えっ、本当!マナもやりたい!!」
突然のレンの肝試し宣言に話を聞いていた五人は驚く。ただ、マナだけはレンの用意した企画に興味を示していた。
さすがに余りにも唐突過ぎる発言にミサキから抗議の声が出る。
「ちょっとレン!いくら何でも急すぎるよ!!そんな予定今の今まで一言も言ってなかったのに!」
「うん、だってサプライズの意味も兼ねてたんだもん♪」
心底楽しそうな笑顔を浮かべてレンが言い切った。
実は彼女が一人で散歩をしていたのはこのためでもあったのだ。彼女は散歩をしながら肝試しに最適な場所を探索していたのだ。そして大まかなルートの確認をしその後、少しのハイキングの後にコテージへと戻って来た。
しかし正直ミサキとそれからメイ、二人はやりたくなかった。情けない話このような霊的なものに携わる事は勘弁してほしかった。
「夏休みといえば肝試しなんて定番中の定番でしょ!せっかく休み中に集まったんだからここは当然やるべきでしょ」
「で、でも・・・・・・」
「おもしろそうじゃねえか」
レンの言葉に援護して来たのはマサトであった。いきなりのレンの宣言に驚きはしたが、このような企画自体は彼も大賛成であった。彼女の言う通り、夏と言えば肝試しはしておきたいところではある。乗り気なマサトに続き、マナも賛成の意を示す。
「マナもやりたい!肝試し!!」
「う・・・・・・」
小さな女の子ですらやりたいと言ってしまえばミサキもこれ以上は何も言えなかった。メイも同様、マナの乗り気な姿を見ると開こうとしていた口を閉ざした。残り一人の女性であるユウコはすまし顔をしており、まったく怖がっている気配は感じられなかった。
「じぁあ決まり!ではみんなライトを持って外に出るよ~!」
こうして張本人のレンを除いた、急きょ決定した肝試しが開催されたのだった。
完全に辺り一面が暗闇に包まれた夜の世界。彼らの姿を灯してくれる存在は各自一人一人が手に持つ懐中電灯と、彼らから少し離れた場所のコテージから漏れる僅かな光だけだ。
肝試しの経路は今居る場所をまっすぐ進み、森林の中を歩いて行くと巨大な大樹がある。この周辺の森林の中でもひときわ大きく、大樹には目立つように太い赤色の紐をレンが巻いておいたのだ。管理人の芝に聞いたところレンが目印にした大樹はこのキャンプ場が出来る前から生えている物らしく、このキャンプ場一大きな木としてこのキャンプ場をよく利用するお客達には有名な程だ。
芝に肝試しで利用する許可をもらい、この場所を行きと帰りの折り返し地点に選んだ。
そのことを皆に話し、進んでいく経路についての説明を行ったレンは、次にポケットから割りばしを七本取り出した。
「さすがに一人でいくのはあれだからね。ここにある割りばしにはA、B、C、と振り分けてあるよ。Aが三本、Bが二本、Cが二本ずつ振り分けてあるから少なくとも一人でいく事はないよ」
とりあえず一人夜の森の中を彷徨う必要が無い事を知り、ミサキとメイが小さく安堵の息を吐く。そして皆はレンから一本ずつ割りばしを取っていく。
その結果、このように振り分けられた――――
A、ミサキとタクミ
B、レンとユウコとマナ
C、マサトとメイ
「(マサト君とペア、それに肝試しの最中は他の人は誰も居ない。)」
自分の想い人と二人っきりの状況にレンは怖がりながらも少し嬉しそうな顔を隠れてしていた。
こうして夜の肝試しが開始された。
第一走者・Aチーム
「ライトで照らしながらでもやっぱり暗いな」
「う、うんそうだね」
二人が懐中電灯で前方を照らしながらレンの決めたルートを進んでいく。
――がさっ――
「ひぃっ!?」
突然聞こえて来た何かが擦れる音に小さな悲鳴を上げるミサキ。音の正体は風で揺れ動いた葉の擦れる音なのだが、ミサキはびくびくしながらタクミへと抱き着く。そんな彼女を安心させようとタクミはミサキの肩に手を置く。
「大丈夫だよミサキ。葉っぱが揺れただけだ」
「ご、ごめんねタクミ君。私も分かってはいるんだけど・・・・・・」
ミサキは過剰に驚く自分が迷惑になると思い、タクミに謝罪する。タクミはそんなミサキの手を優しく握り、彼女の不安を取り除こうとする。
「あっ、タクミ君・・・・」
「別に怖がることは悪い事じゃないだろ。それに、何があっても守ってやるから安心しろ」
タクミのその言葉にミサキは頷いてタクミの手を強く握り返す。再び肝試しを再開する二人、ミサキの恐怖心はタクミの繋がれた手によってほとんど払拭していた。
こうして二人は手を繋ぎながら、レンの指定したコースを無事に回ったのだった。
次に出陣したのはBチーム。
ユウコは特におびえた様子もなく進み、マナは少し怖がりながらもユウコの後に続いて行く。そしてそのうしろではレンが付いて来ている。
「いやー、夏にはやっぱり肝試しだよねぇ~」
「・・・・・・・・」
「そんなベタな!と思うかもしれないけどベタな行為は中々侮れないもんでさぁ~」
「・・・・・・・・」
「夏なんだから少しは涼みたいと・・・・・・」
「・・・・ねえレンさん。もしかして怖いの?」
「え・・・・・・?」
今までレンの独り言を黙って聞き続けていたユウコであったが、さすがに違和感を感じた。肝試しを開始してからレンはずっとしゃべり続けているのだ。さすがに違和感を感じるユウコ。マナは純粋にレンがおしゃべりをしているだけだと思っているが、ユウコには怖くてしゃべり続けている様に思えるのだ。恐怖心を紛らわそうとよくしゃべるというのは意外とみられる行動だ。
その時、会話をしている二人とは違い前を見ていたマナの視界に何者かの人影が映った。
「いやいや、怖いわけないじゃ~ん。この企画提案したのは私・・・・・・」
「あっ!誰かあそこにいる!」
「うそぉっ!どこ!どこ!?」
マナの言葉にメイはユウコの背中に張り付いて大声で叫ぶ。
しかし、マナが改めて目を凝らすが先程人影が見えた付近には誰も居なかった。
「あれ、誰も居ない?」
「も、もーっ!マナちゃんったら脅かしてー」
「やっぱり怖がってるじゃん」
レンのことをジト目で見るレン。
レンはばつの悪そうな顔で笑うと二人に頼み込む。
「お願い・・・・ミサキには黙ってて・・・・」
「はいはい、黙ってますよ」
ユウコはため息を吐きながらそう言った。
その後はマナの見た人影は現れず、順調にコースを回って行きゴールまで辿り着いた三人。ゴールした際、大したことなかったと言っていたレンには少し呆れるユウコであったが・・・・・・。
そして最後の走者、Cチームのマサトとメイが回る番がやって来た。