第六十三話 キャンプへGO
八月十八日、夏休みもいよいよ終わりが見えて来た。学生たちにとっての長期休みももうすぐ終わるという事で、レンからある提案がされた。
学園の校門前ではAクラス生徒タクミ、ミサキ、レン、マサト、メイの五人。そこにミサキの妹ユウコとメイの連れて来たマナの計七人の人間が集合していた。
残り少ない夏休み、レンがした提案、それは――――
「全員揃ったね!じゃあさっそく出発!キャンプへとGO!!」
この夏に記念に残る事をするため、レンは皆を誘ってキャンプにいく事を提案したのだった。
「それにしてもレンも急に決めたもんだよな」
「あはは・・・・」
タクミの言葉にミサキが困ったような顔で笑う。
夏の最後の思い出にと二日前にレンはミサキとタクミの二人に連絡を入れ、E地区のはずれにあるキャンプ場でキャンプにいく事を提案したのだ。急な事で二人は少し驚いたが、しかしレンの言う様に夏休みももうすぐ終わる。最後に何か大きな思い出を作りたいという気持ちは二人の中にもあり、彼女の誘いに乗った。
「E地区の結構距離のある場所だよな?目的地のキャンプ場って」
「うん、でも電車で行って一時間ぐらいかな?」
「マナすごく楽しみ!!」
後ろではマサトがメイに目的地の場所の確認をしており、マナはマサトに肩車されている。
せっかくのキャンプ、どうせなら大人数で行こうというレンの提案でマサトとメイの二人、そして彼ら二人の頼みでマナも今回のキャンプにお呼ばれした。そしてもう一人、ミサキの妹ユウコも今回のキャンプに参加していた。彼女も丁度退屈していたため、ミサキに頼み込んだのだ。
「ありがとねレンさん、わざわざ私まで誘ってくれて」
「な~に、気にしなくてもいいよ!」
「(あれ、ユウコは私に頼み込んで参加したんじゃなかったっけ?)」
ユウコの発言にそんな疑問を浮かべるミサキ。
当の本人はそんな姉のことなど気にせずレンと仲良く話をしている。
こうして、七人は目的地まで電車で向かう為、駅の方面へと歩いて行く。
丁度その頃、学園の正門とは正反対の場所、裏門の方では二人の生徒が立っていた。
一年Cクラスの生徒、星野カケルと神保シグレである。彼女達はここで待ち合わせをしており、最後の一人が来るのを待っていた。
そこへ、一人の女子生徒がやって来た。
「ごめんなさい、待たせたかしら?」
「いえ、時間道理です」
「ん・・・・」
やって来たのは三年生風紀委員長、天羽ネネであった。
待ち合わせの人数が全員揃った事で、三人は予定道理行動を開始する。
「ん、じゃあ出発シンコー」
「よし、では目的地のキャンプ場まで移動するか」
どうやら彼女達も先程移動したレン達と同じくキャンプ目的で集まっていた様だ。メンバーが揃ったことで彼女達も電車に乗る為、駅の方へとレン達とは別の道から目的の場所へ向かった。
しばらく歩き、駅の方面に辿り着いたレン達。夏休み中とのこともあって駅には大勢の人間が集まっていた。その中にはレン達の様にどこかに遠出して遊びに行こうとしている者達もいるだろう。目的地の場所までの切符を購入し、電車が来るのを待つ七人。
「あ、悪い。少しトイレ・・・・」
電車の来る時間までまだ間がある為、今のうちにトイレに行こうとするタクミ。マサトもそれに同行し、男子トイレに向かって行く二人。トイレは空いており、二人共隣に立ち、用を足しながら会話をする。
「それにしても赤咲のヤツは行動力あるよな~」
「ああ、キャンプの提案から実行まですぐに決めたからな」
マサトの言葉にタクミも同意する。
するとマサトはタクミとミサキの事で気になっている事があり、この場で質問する。
「なあ久藍、お前黒川と何かあったのか?」
「え、何かって?」
マサトの質問に首を傾げるタクミ。
「何か今日お前らを見てると距離がなんか・・・・近くなってたように感じたからよ」
「ああ・・・・実は――――」
これから一緒に行動をするのだ。ここで無理に隠す必要も無いと思い、タクミは自分がミサキと恋仲の関係になった事を話した。それを聞きマサトは別段驚くことも無く一言「そうか」、と言って会話を終わらせる。その反応にタクミが少し口を尖らせ不満を言う。
「そうかって・・・・聞いておいてそれだけかよ」
「別にィ、俺はお前が黒川か赤咲のどっちかとくっつくんじゃないかと思ってたからな。特に黒川の方、お前らよく一緒にいたし・・・・」
用も足し終わり、洗面台で手を洗う二人。洗った手を設置されているペーパータオルで拭いて乾かす。
そのまま男子トイレを出る二人。それと入れ違う様に白猫の恰好をした少年がトイレの中へと入って行った。
「あれ、今・・・・」
「ん、どした?」
「いや、なんでもない」
一瞬視界の端に何やらでかい猫が映った気がしたタクミだったが、そこまで深くは気にせず皆の元へと戻った二人であった。
一方、タクミ達がトイレに行っている間に女子組の方でもタクミとミサキの関係について盛り上がっていた。その中でも特にメイは興味津々でミサキから事情を色々聞いていた。
「じゃ、じゃあ黒川さんは久藍くんともうその・・そういう関係ということ?」
「う、うん・・・・」
メイにそう聞かれ頬を少し赤く染め、照れた様子で答えるミサキ。
「そうそう、ミサキとタクミ君は今やラブラブなわけ!」
「ちょ、ちょっとレン。そんな大きな声で・・・・」
興奮する親友を諌めようとするミサキ。メイはミサキが想い人と結ばれた事実を知って内心とてつもなく羨ましがっていた。
「ミサキおねえちゃん、タクミのおにいちゃんとお付き合いしてるの?」
純粋な瞳でそう聞かれ、ミサキは躊躇いながらも頷いて答える。
「う、うん。まあね・・・・」
「そうなんだ・・・・メイおねえちゃんもマサトおにいちゃんに告白しようよ!ミサキおねえちゃんみたいに成功するかもしれないよ!」
「なぁっ!!マ、マナ!!」
マナのとんでもない発言にメイは思わず目を回してしまう。周りでそれを聞いた皆は少し驚いていたがすぐにレンが悪い顔をしてメイに詰め寄って来た。
突然迫って来たレンに少したじろぐメイ。
「へえ~、八神さんってやっぱり津田君のこと狙ってるんだ~。そういえば前は二人でアイスクリーム食べてたよねぇ~」
「うう・・・・・・」
「へえ、私も少し気になるな。二人って今はどういう関係なんですか?」
「こら、レン、ユウコ!余りからかっちゃダメでしょ!!」
メイにぐいぐい迫り困らせるレンとユウコの二人を引きはがすミサキ。
調子に乗った二人に変わり、ミサキがメイに謝罪する。
「ごめんね八神さん。この二人が」
「う、ううん、いいよ別に・・・・」
「メイおねえちゃんどうしたの?」
マナは恥ずかしがっているメイの様子を不思議に思い、綺麗な瞳をしてそう聞いて来る。
ミサキはマナに上手い事はぐらかしながらメイに変わり受け答えする。するとそこに男子二人もトイレから戻って来た。
「よおお待たせ・・・・あれ、何だこの空気?」
何やら場が妙な空気になっている事を敏感に察知するマサト。そこにレンが今度はマサトに迫り、質問してくる。
「ねえねえ、津田君は八神さんと仲良いみたいだけどさぁ、どういう関係?」
「幼馴染だけど・・・・だから何だよ」
マサトはあっけらかんんと即答する。
予想とは違う反応にさすがのレンも少したじろいだ。
「そ、そう」
「何でもいいけどもうすぐ電車来るぜ。並んで待ってようぜ」
マサトの一言でこの会話は終了し、全員入り口付近で電車が来るのを待つ。
ただ――――
「(むう・・・・)」
マサトの答えに対し若干の不満をメイは感じ取っていたが・・・・・・。