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番外編 第三話 久藍タクミちゃん3

 

 不慮の事故により性別が逆転してしまったタクミ。彼は今日一日を何事もなく無事乗り切る為に安全圏である自宅へと向かう。しかし、何故だか今日に限って自分の前に現れるクラスの皆。そして、急いでいた為に曲がり角で一人の少女とぶつかってしまった。その人物は――――


 「す、すいません! 大丈夫ですか…あ…」


 タクミはぶつかった相手を見て石化したかのように固まる。

 ぶつかった相手はなんと……。


 「あ…大丈夫です。そちらこそお怪我はありませんか?」


 愛しの恋人、黒川ミサキであったのだから。

 今、もっとも出会ってはいけない人間と出会い、タクミは思わず彼女の名を呼んでしまう。


 「ミ、ミサキッ!?」

 「え、どうして私の名前を…どこかで会いましたか?」

 「(し、しまったぁッ!!!!)」


 咄嗟の事で思わず名前を呼んでしまったタクミ。

 今の自分はいつもとは違い女性になり果てているにも関わらずにいつもの様に名前を呼んでしまうなんて。

 

 「(やばいやばいやばい!!)」

 「あの~?」

 「あっ、はいなんでしょう!?」

 「…改めて聞きますけど、どこかでお会いしましたか?どうして私の名前を……?」


 これはとてつもなく不味い状況だ。

 ミサキからすれば今の自分は初対面なのだ。そんな人間に自分の名前を言われれば当然の如く疑問に思うだろう。

 タクミの頭の中にこの状況を打破する為の考えが現れては消えて、そしてようやく一番だと思う選択に辿り着いた。


 「あ、あなたは黒川ミサキさんですよね!」

 「え…はい、どうして私の事を」

 「こほんっ…初めまして、私、久藍タクミの親戚に当たる久藍ショウと言います」

 「えっ、タクミ君の親戚さん!?」


 まさかの自分の恋人の親戚との出会いにミサキは口に手を当てて驚く。

 ミサキの反応を見てタクミはうまくいったと思った。これならば自分がミサキを知っているのはタクミから教えてもらった事にもできる。

 

 「(タクミ君の親戚…でも、確かに凄くタクミ君とそっくり。まるでタクミ君が女の子になった様な……)」


 実は様な、ではなくまさにその通りなのだがミサキはそうとは思わずタクミの言葉を信じる。


 「タクミ君の親戚さん…あっ、初めまして、私は黒川ミサキといいます。タクミ君とお付き合いさせてもらっている者です」

 「はい、タクミからあなたの話はよく聞いています。とても優しい子だって」

 「そ、そんな…」


 優しいと言われ照れながらも嬉しそうな顔をするミサキ。

 そんな彼女を見てタクミも思わず顔がほころぶ。だが、すぐにこの場にとどまり続けてはまずいと思い、この場から離れようとする。


 「えっと、すいません、私はこれで…」

 「あ、すいません。ちょっといいですか?」

 「え…何でしょうか?」

 「私の家、このすぐ近くなんです。今買い物帰りで家に帰るところだったんですけど、よろしければそこでもう少しお話ししませんか?」

 「……え」







 「ここが私の家です」

 「へ、へ~そうなんですか」


 タクミは内心で冷や汗を掻きながら相槌を打つ。

 正直今すぐにでも逃げ出したいが、そんな事をしたらミサキが悲しむかもしれない。そう考えるとヘタに彼女の誘いを蹴る事など恋人として出来る筈もなかった。

 ミサキに笑顔で案内され、彼女の家の中へと入って行くタクミ。階段を上がり、入った事のあるミサキの部屋へと入って行くタクミ。


 「お帰りミサキ~、あれ、その子誰?」

 「(ぐえっ、レン!?)」

 

 ミサキの部屋には友人であるレンがすでに居り、寝っ転がって漫画を読んでいた。

 レンはミサキと共に部屋に入って来たタクミを見て怪訝な顔をする。そんなレンにミサキが彼女についての説明をした。


 「この人は久藍ショウさん、さっきそこで偶然会ったタクミ君の親戚の人なの」

 「えっ!? マジで!!」


 レンは寝転んでいた体を起こしタクミの前までやって来る。

 じろじろと体中を見られるタクミ。その内心ではばれやしないかとドキドキしていた。


 「へ~、タクミ君の親戚ねぇ~。でも確かに彼に似てるね」

 「もうレン、失礼だよ。そんなにジロジロと見たりしたら」

 「ああ、そうだね。ごめんね…えっとショウちゃん」

 「い、いえ、お構いなく」


 どうやら気付かれはしなかったようだ。しかし、安心はできない。

 ミサキはそんな彼の心情など知らず、腰を下ろして座るように促した。


 「ショウさん、座ってください。アイス買ってきたんで一緒に食べましょう♪」

 「おーアイス君♪」


 ミサキが袋から買ってきたアイスを取り出し、レンはその事ではしゃぐ。タクミもとりあえずその場のノリに合わせて女の子らしさを醸し出し喜びを表そうとする。

 

 「やっ、やったー♪(なんか恥ずかしい…)」




 それから少しの時間がたち、何とか話を合わせるタクミ。

 そして話の途中、レンはタクミの服装を見て不思議に思った。


 「ショウちゃんさぁ、なんで男物の服なんて着てるの?」

 「え…あ、いや、私おしゃれには疎くて……」


 タクミのその言葉にレンが食いついてきた。


 「えー、勿体ないよ。せっかくの美人さんなのに」

 「いや、別に私は気にしていないので…」


 タクミはそう言って話題を変えようとしたが、意外な事にそこにミサキもレンの意見に賛同して口を挟んできたのだ。


 「でも…少しぐらいはおしゃれしてみた方が良いかもしれませんよ?」

 「え、いやでも……」


 レンだけでなくミサキからもそのような事を言われ、あたふたとするタクミ。 

 そんな彼にレンはとんでもない提案をしてきたのであった。


 「じゃあさ、ミサキの持っている服を幾つか試着してみようよ! 絶対似合うと思うよ!!」

 「ええっ!? いやいやいいって!!」


 冗談ではない。男の自分が女性用の服を着るなど、ましてやそれがミサキの服であるならばなおさらだ。 恋人の服を性別が逆転している事を口実に試着するなど一歩間違えれば、卑劣極まりない行為と思われても仕方ないかもしれないのだ。

 だが、珍しくストッパー役のミサキも今回はやけに乗り気になっており、レンのアイディアに賛成する。


 「私、もう使わない服たくさんあるからそれを着てみませんか?」

 

 目を輝かせながら自分に迫るミサキとレン。

 そんな状況にタクミは心の中で悲鳴を上げていた。


 「(だ、誰か助けて~~~~ッ!!!)」


 しかし、今この場でこの少女を救ってくれる存在などは皆無であった……。




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