第六十二話 決心する想い
メイの家でまったりとした時間を過ごす三人。少し長居し過ぎ、そろそろおいとましようかとするマサト。
「さて、じゃあそろそろ俺は行くわ」
「あ、うん」
「え~、マサトおにいちゃん帰っちゃうの?」
頬をリスの様に膨らませ不満を洩らすマナ。随分と自分もなつかれたようだ。
そんな彼女の頭を撫で、マサトは彼女をなだめる。
「悪いな、実はまだ夏休みの宿題がけっこー残っていてな。マナちゃんはちゃんと宿題やっているかぁ~?」
「うん、マナは全部終わったよ!」
「え・・あ、ああそうか。えらいぞ」
自分よりも年下の子が宿題を全て終わらせたにも関わらず、自分がまだ終わっていない現状に苦笑いをするマサト。そんな自分を見てメイが苦笑していた。
マサトは玄関まで歩いて行き、メイとマナも見送りに出る。
「じゃあ、俺はもう行くな」
「うん」
「ばいばい、マサトおにいちゃん!」
元気良く手を振って別れの挨拶をするマナ。メイも軽くこちらに手を振る。マサトもそれに手を振り返してメイの家を出て行った。
「元気な子だったな・・・・」
メイの家での予想外の出会いを果たしたマサトはそんなことを呟きながらメイの家を離れて行く。だが彼から少し離れた背後、メイの家の近くに一人の少女が居た。
「へぇ~え、此処に住んでいたんだ。八神のヤツ」
ピンク色の髪をした長髪の少女がメイの家を見ながら薄く笑っていた。彼女は視線をメイの家から離れて行ったマサトに向け、小さく呟いた。
「ふ~ん、あの子も彼氏なんて持つようになったんだ」
少女はくすくすと笑い、怪しげな表情を浮かべながら小さく舌なめずりをした。
メイの家の中ではメイとマナが話をしていた。
「ねえおねえちゃん、おねえちゃんはマサトおにいちゃんの事が好き?」
「えぇ!きゅ、急にどうしたの!?」
マナの言葉にメイは顔を赤くして戸惑いを見せる。マナはそんな彼女に続けて質問をした。
「だっておねえちゃん、マサトおにいちゃんが来てから嬉しそうだったんだもん!」
「えっ・・そ、そう?」
「うん!」
マナからそう指摘されたメイは両手を顔に当てて恥ずかしそうな顔をする。そんな彼女にマナは更なる爆弾発言をする。
「おねえちゃん、マサトおにいちゃんに告白すればいいのに」
「なっ!マナ、突然何を!!」
「え~、でもおねえちゃん、マサトおにいちゃんのこと好きじゃないの?」
「そ・・それは・・・・」
マサトのことは・・・・大好きだ。嘘偽りのない素直な気持ちでそう強く思っている。しかし臆病な彼女は中々自分の想いを告白する事が出来ずにいるのが現状だ。そんな自分の情けの無い性格が嫌になる。
マナはメイの顔を覗き込んで明るい声で言った。
「マサトおにいちゃん・・・・たぶんおねえちゃんのこと好きだと思うよ?」
「えっ!?、ほ、本当に!」
マナの言葉にメイの声は思わず大きくなり、その声は僅かに嬉しそうに弾んでいた。
マナはメイのその様子に少し驚きながらも答える。
「うん、マサトおにいちゃんも少し楽しそうな感じしたもん!」
マサトが来る前と家に居る時のメイの様子はマナの目には明らかに変わって映っていた。自分と居る時も楽しそうな雰囲気であったが、マサトが居る間はそれだけではなくうまく言えないが、メイの様子はどこか嬉しそうに見えてのだ。
そして・・・・マサトもどこかそんな風にマナには見えていた。マナがメイに告白するように進めたのはそのためだ。とてもお似合いの二人だと思ったのだ。
「(マナが言ったことが本当なら・・・・マサト君は私のことを・・・・)」
一瞬そんな事を考えるメイであったが、すぐにその考えを打ち切る。マナが言ったからといってマサトが自分に気を持っているとは限らない。第一、そんなことは関係ない。自分がマサトを好きでいるという事は揺らぐことがないのだから。
だが、マナのこの一言はメイを奮い立たせた。そして、ついに決意をする。
「(この夏休みが終わる前に・・・・マサト君に告白する!!!)」
いつまでも踏ん切りの付かない自分の心であったがマナの言葉に火が付き、メイにとうとう決心をさせた。マサトに自分の想いを告げる。その結果がたとえどんなものになろうとも・・・・。
「マナ・・・・ありがとう」
「えっ、何が?」
突然のお礼の言葉に不思議そうな顔をするマナだが、彼女の先程の一言がメイに決定的な決意を抱けせてくれたのだ。マナは相変わらず不思議そうな顔をしている。
「ふふ、何でもない」
そう言って笑顔を浮かべてはぐらかすメイ。マナは少し不思議そうな顔をしながらも深く気にせず再びメイとおしゃべりを再開する。
彼女の顔は迷いが晴れた様に先程よりも明るいものになっていた。
その頃、メイの家の前ではピンク色の髪をした少女が家の近くで彼女の家を観察していた。
「八神・・・・ふふ、またアンタと遊べそうね♪」
そう呟いた彼女の言葉は家の中に居るメイには聞こえる筈もなく、彼女はそのままメイの家を離れて行く。
「フフフ・・・・・・」
その顔には笑みが張り付いており、その笑顔はとても歪であった。