第六十話 過去の記憶2
あの後、財布を受け取ってすぐ帰る予定だったマサトはメイの家の中に居た。今この家に遊びに来ていたマナがマサトを誘ってきたのだ。マサトも自分よりも一回りも小さい子を無下に扱う事はできず、メイにことわって家に中へと入れてもらった。メイとしてもマサトを断る理由などないため、自宅へと招き入れた。
「メイ、お前あのマナちゃんとはどうゆう経緯で知り合ったんだ?」
廊下を歩きながら前を歩いているマナを見ながらメイに質問するマサト。
「うん・・・・後で話すね」
「?、そうか」
どこか理由を言うのを渋っている様に感じたが、無理やり聞き出す事でもないためマサトはそれ以上は何も言わなかった。三人は居間の方へと入って行く。マサトとマナは床に座り、メイは台所の方に歩いていく。
「何か冷たい飲み物でも出すね。なにが良い?」
「あ、じゃあお茶もらえるか?」
「マナはジュース!」
元気よく注文するマナにメイは笑いながら冷蔵庫から飲み物を取り出す。マナはマサトに何やらいろいろと話し掛けているようだ。
コップにジュースを注ぎながら何を話しているのか耳を傾けるメイ。
「ねえねえおにいちゃん、おにいちゃんはメイおねえちゃんの彼氏さん?」
「ぶっ!」
マナの話を聴いていたメイはその場で思わず吹いてしまう。
マサトはマナの質問に対し少し困った様な顔を浮かべながら答える。
「あー、俺とメイは幼馴染で恋人とかじゃないんだ。マナちゃんと同じ小学生の頃に知り合ったんだ」
「ふーん、そうなんだー」
マサトのその答えを聞き耳を立てて聴いていたメイはどこか残念そうな思いになりながら、飲み物を注いだコップを運んできた。机の上に置かれたコップを取り、おいしそうにジュースを飲むマナ。その姿に少し癒される二人。
「ところでマナちゃん、昨日の連中はクラスメイトか何かか?」
「えっ、昨日のって?」
その場に居合わせなかったメイには何の事かわからず、マサトはメイに昨日の詳細を話した。その話を聞きメイはマナを心配そうに見つめる。
「マナ、本当なの?」
「うん・・・・」
今まで元気そうに振舞っていたマナの様子に影が差し始める。
マナの話では昨日の三人はマナを始め複数の女の子相手に嫌がらせをよく働いているようだ。昨日マナがマサトと同じく本を買いに行ったところで偶然顔を合わせ、あのような嫌がらせを受けたらしい。
「あいつら・・・・皆によく嫌がらせばかりして・・マナ、大っ嫌い」
「マナ・・・・」
落ち込んでいるマナにメイは少し悲しそうな顔をする。
だが、マナは再び明るい顔をして言った。
「でも、マサトおにいちゃんが助けてくれた!前のメイおねえちゃんの時みたいに!」
「前のメイみたいに?」
マナの言葉に疑問の声を上げるマサト。
メイはマサトの疑問に答えるため話しを始めた。
「実は前、マナがいじめられて泣いているところに遭遇したの。私が彼女と出会ったのはその時・・・・」
成程、先程メイがこの子との出会いの経緯を話す事を渋った理由が解った。マナがいじめられていたという事実が言いずらかったのだろう。
マサトはマナに顔を向け、彼女に聞く。
「なあマナちゃん」
「何、おにいちゃん?」
マサトに顔を向けるマナ。マサトはマナの目を見て言った。
「これから先もアイツらの様な奴が現れたら泣いているだけじゃだめだぜ」
「え・・・・」
「アイツらがもしまた何かしてきた時、俺やメイのように誰かが傍にいるとは限らないだろ。そういう時は自分の意思を強く持って思っていることを叩き付けてやれ」
「で、でも・・・・・・」
マサトがくれた助言にマナは少し困った様に俯く。マサトはそんなマナの頭に優しく手を置いた。
「あ・・・・」
温かいぬくもりがマナの頭の上に置かれ、俯いている顔を上げマサトを見る。
「怖がってちゃ先には進めねぇよ。心の中でたとえ震えていても自分の本心を口に出し叩き付けてやれ。ああいう群れてなきゃ女の子一人相手に出来ないような連中相手ならその気になればお前は負けないよ」
「おにいちゃん・・・・うん!」
マナはマサトの言葉を聞き終わると、元気よく返事をした。
「私、また意地悪されたら今度はおにいちゃんの言う通りにはっきりと言ってやる!!」
「おう!その意気だッ!!」
マサトはわしゃわしゃとマナの頭を撫でまわす。マナはくすぐったそうな顔をしながら嬉しそうにその手を受け入れる。
「(マサト君・・・・)」
マナを励まし勇気を与えるマサトの姿を見て、メイは小学生時代の自分を、そしてマサトとの出会いを思い出した。
今のマナと同じく、自分も彼から勇気をもらったことがある。
小学生時代、メイは今のマナと同じ苦しみを味わっていた。
かつて・・・・・・自分はいじめられていたのだ。