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魔法ができてしまったこの世界で  作者: 銀色の侍
夏休み 結ばれる二人編
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第五十九話 過去の記憶

 アタラシス学園Aクラス所属の生徒、津田マサト。彼は現在〝ナリッジ〟と呼ばれる本屋で一冊の本を購入して、自宅へと向かっていた。

 夏休みの宿題の中には読書感想文もあり、本を読んで感想を書かなければならない。正直彼は読書など自分のイメージなどではないと思っているが、だからといって感想を一切書いていない白紙の原稿用紙を提出する訳にもいかない。

 

 「めんどくせぇなぁ」


 これから家で文字だらけの本を読まなきゃいけないと思うとついこのような言葉が出てきてしまう。

 早いとこ読んで終わらせてしまおう。そんなことを考えながら歩いていると・・・・・・。


 「返してッ、返してよッ!!」

 「あん?」


 なにやら女の子の叫び声がマサトの耳に入って来た。

 声の方に顔を向けると、どうやら自分が先程出て来た本屋〝ナリッジ〟の店の入り口の真ん前で小競り合いが起きているようだ。

 そこに居たのは小学生ぐらいの子供が四人。三人が男の子で一人が女の子のようだ。男の子の一人は手に可愛らしいクマの刺繍の入った財布が握らており、それを手を上げて頭上へと掲げている。

 女の子はその男の子が持っている財布に必死に手を伸ばしている。


 「それ私のお財布だよ!返して!!」

 「へっへ~ん、自分でとり返してみろよ!」

 「けんちゃん、ヒデーッ♪」

 「あはははははっ!」


 どうやらあの男の子が持っている財布は女の子から取り上げた物らしい。それをおもしろがって女の子に返そうとせず遊んでいるようだ。

 他の二人の男の子も必死になっている女の子を見て笑っている。


 「かえ・・返してぇっ!」

 「おー、泣いた泣いた!」

 

 とうとう泣き出してしまう女の子。だが、三人はそんな彼女の姿を見てますます調子に乗る。


 「へーい、パス!」

 「おっと、ナイスキャッチ♪」

 「へいへい、俺にもパスパス♪」


 三人で財布をボールの様に投げ合いキャッチボールを始める男の子達。女の子はとうとう我慢の限界がきてその場で膝をついて本格的に泣き出す。周りに居る人間たちは面倒事に関わりたくないのか一瞬目を向けるだけでまるで無関心。


 「・・・・・・・・」


 マサトはその様子を見て、脳裏にある昔の記憶がよみがえる。




 『やーい、泣き虫女!』

 『お前いつもうじうじしてウザいんだよ!』

 『ひっく・・・・ひっく・・・・』


 複数の小学生に囲まれ、いじめられ泣いている桜色の女の子。

 その悲しむ姿を見て更に笑い声を上げる周りの存在。

 だがそこへ――――


 『やめろよテメェら』


 一人の男の子が入ってその女の子を助けようとする。


 『はっ、何だお前。こいつの味方でもする気か?』

 『正義の味方気取りかよ!』

 『そんなんじゃねぇ、群れてくだらないことしてるお前らが気に入らないんだよ』


 そう言って男の子は女の子を助けに、その集団に走って行った。




 「・・・・・・・・」


 マサトは本屋に引き返して行く。


 「そーれパス!」

 

 男の子は別の子に再び財布を投げるが――――


 「おう、ナイスキャッチ」


 空中に放られた財布をマサトは先に掴み取った。


 「なっ、何すんだよアンタッ!」

 「邪魔すんじゃねーよ!!」


 突然割り込まれ、自分たちの遊びを邪魔して来たマサトに男の子達が文句を言う。

 マサトは彼らの言葉を無視して泣いている女の子に財布を渡す。


 「ほらよ」

 「あっ、ありが・・とう」


 女の子は泣きながら財布を受け取りマサトのお礼を言う。それをおもしろく思わない男の子達がさらに騒いだ。

 

 「おいッ!勝手な事「うるせぇぞガキどもォッ!!」ひぃっ!?」


 今まで威勢の良かった男の子達はマサトから放たれた怒声で一瞬で委縮してしまう。


 「女ひとり相手に群れて下らねぇことしてんじゃねぇぞッ!!あぁッ!!」

 「「「うわぁぁぁぁぁっ!!」」」


 マサトの迫力に押され、男の子達は蜘蛛の子を散らすように三人ともばらばらに走って逃げて行った。

 マサトは一つ舌打ちをするとその場から離れようとする。


 「おにいちゃん、ありがとう」


 後ろから女の子が改めてお礼を述べる。マサトは小さく手を振りその場を後にした。




 本屋を離れ、家まで戻り帰宅したマサト。

 彼は自分の部屋に行き、さっそく買ってきた本を読もうとする。面倒な宿題を早く片付けるつもりの様だ。早速本を開こうとするマサトだったが、本を開くと同時に自分の携帯に電話が架かって来る。

 

 「・・・・誰だよ」


 タイミング良く架かって来た電話を内心めんどくさく思いながらも開くマサト。電話の相手は幼馴染のメイであった。通話ボタンを押し、電話に出るマサト。


 「メイか。どうかしたのか?」

 「あっ、マサト君。前にマサト君、お財布がなくなったって言っていたよね?」

 「財布・・・・ああ、はいはい」


 マサトが今使用している財布は夏休み中に買い替えた物だ。夏休みに入る前、長年愛用していた財布が消えてしまい、仕方なく買い替えたのだ。


 「でも、それがどうしたんだ?」

 「実はさっき私の部屋からマサト君のお財布が見つかって・・・・」

 「え?何で・・・・・・あっ!」


 この時、マサトには思い当たる節があった。


 「前の中間テストでお前の家で勉強を教えてもらった時か」

 「うん・・私もそう思う」


 思い返してみればあの日以降から財布の姿を見なくなった気がする。

 いい加減な自分のことだ。鞄かポケットから出して、どこかに放置してしまったんだろう。


 「悪い悪い、どこにあったんだその財布?」

 「私の机の下の隙間の中に・・・・ごめんね、私も気付くのに遅れて」

 「お前は悪くないだろ。わざわざすまないな、明日取りに行ってもいいか?」

 「うん、大丈夫だよ」

 「わかった、じゃあ明日そっちに行くわ」


 メイにそう言って電話を切るマサト。

 彼は携帯を机の上に置くと、買って来た本を開きながら反省する。


 「(たく、何やってんだかな俺は・・)」


 内心で自分の間抜けさにあきれ果ててしまうマサト。

 どうせ行くなら菓子折りの一つでもお礼に持っていくか。そんなことを考えながら読書を始めた。






 そして翌日、マサトはメイの家にやって来た。

 彼の手には途中で買ってきた煎餅の箱が紙袋に入れられ、持っていた。

 家の呼び鈴を鳴らすと、玄関が開きメイが出て来た。


 「よお」

 「やっぱりマサト君、はいこれ」


 メイは手に持っていた財布をマサトに返す。

 それを受け取るとマサトはお返しにお土産の煎餅を渡した。


 「これは詫びだ。わざわざありがとな、電話くれて」

 「そ、そんな、気を遣わなくても・・・・」

 「いーから、ホレ」


 半ば強引に袋をメイの手に持たせるマサト。

 メイはわざわざお土産を持ってきてくれたマサトにお礼を言う。


 「ありがとうマサト君」

 「気にすんな。じゃ、俺は・・・・」


 これで失礼しようとするマサトだったが、そこに家の中から新たな人物が出て来た。


 「あっ、おにいちゃん!」

 「ん?あれ、お前・・・・」


 メイの家から出て来たのは昨日絡まれていた女の子だった。何故この子がここに?

 一緒に居るメイは出て来た女の子に話しかけた。


 「マナ、あなたマサト君と知り合いなの?」

 「うん!昨日このおにいちゃんが助けてくれたの!」


 見たところメイとは親しそうだ。いや、メイの家から出て来たのだから彼女と面識がないわけないのだが・・・・。

 マサトはメイに彼女は誰なのかを聞く。


 「メイ、その子は?」

 「あ、この子は睡無マナ。ちょっとした付き合いで時々家に遊びに来るの」


 マサトの前までやって来たマナはマサトに挨拶をする。


 「昨日はありがとうおにいちゃん!睡無マナです!!」


 可愛らしい笑顔を浮かべて、マナは自己紹介をした。



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