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魔法ができてしまったこの世界で  作者: 銀色の侍
夏休み 結ばれる二人編
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第五十六話 未来を生きる

 「魔法という力は争いを加速させる。俺がこの世界から魔法を消そうと考えたのは歪んだ世界を変えるため・・・・そして――――」






 『ねえ、クリエル』

 『ん~、なんだい?』


 思い出すのは、かつて自分を拾ってくれた一人の女性との会話。


 『魔法は・・・・いい力なの?それとも悪い力?』

 『どしたの?急にそんな事を聞いて・・・・』

 

 突然の質問に怪訝な顔をする女性。

 少年は眉をひそめて思っていることを告げる。


 『クリエルに魔法を貰って、僕も魔法使いになれた。でも、世界では魔法で苦しんでいる人も大勢いるって知ったんだ。だから・・・・』


 自分のその質問に女性は頭を掻きながら答える。


 『魔法が良いか悪いか・・ね。どっちでもないんじゃないかい?』

 『どっちでもない?』

 『そ・・、結局一人一人の心構えや考え次第で良くも悪くもなるわ』

 『一人一人の・・・・』


 女性の言葉を繰り返す自分。そして、彼は一つの結論へと至る。


 『でも魔法があるとやっぱり自分の方が魔法使いとして優れていると、そんな傲慢な人もいるよね』

 『まあ、やっぱりいるね。そういう奴は』

 『じゃあ魔法が無くなれば皆が対等になって、手を取り合い生きていけるのかな?』


 自分の辿り着いた答えを聞いた女性は目を丸くし、その後に大爆笑をする。突然のその反応に少年は少し驚いた顔をする。女性は笑いをこらえ、少年に謝る。


 『ははははっ、笑って悪かったね!だってそんな考え方しちゃうなんてカワイくってさ』


 まだ僅かに笑い声を出しながら、女性は少年に言った。


 『でも・・そうだね。もし魔法がなくなればそんな未来が訪れるかもね・・・・』

 

 女性のその言葉に少年は頭の中で想像をした。

 魔法がなくなった世界で皆が手を取り合い暮らす世界を。この頃はまだ幼さ故にそんな理想郷を考えてしまうものだが、この時から彼はその世界の景色を見るために計画を練り始めた。

 もしその世界が実現すれば・・・・もう自分の様な思いをする人は生まれないと思ったからだ。

 そして――――


 『(僕みたいに魔法が原因で苦しむ人が居ない世界。そんな世界が訪れればもしかしたら――――)』


 ――お父さんとお母さんは自分を受け入れてくれるかもしれない――






 「・・・・ふっ、未練が残っていたことがあってな。もしも魔法が無くなれば・・もしかしたら俺はまたあの場所に・・・・」

 「・・・・?」

 「いや、口に出して詳しく話す事でもないようなことだ。・・・・もう時間の様だな」


 名も無き男の体は下半身は完全に粒子となって空に溶けていき、上半身も首から僅かに下が残っている程度しか保っていなかった。

 タクミは背を向け、黙って男の傍から離れて行った。これ以上自分が手を下す必要はもうないと判断したのだ。

 一人残される名も無き男。彼の肉体はついに顔の部分だけとなっていた。


 「・・・・なあクリエル、カケル。俺は・・・・どこで間違えたのかな?」


 その疑問に答えてくれる者はこの場には居ない。

 そして・・・・・・その場には誰も居なくなった。






 タクミが戦闘を行っていた場所から少し離れた場所では、ミサキがセンナの頭を膝に乗せていた。

 そこへ、タクミがやって来た。


 「・・・・タクミ君」

 「ミサキ・・・・終わったよ」

 「うん・・」


 タクミはミサキの膝上で眠るセンナへと言った。


 「お姉さん、ミサキはもうこれで狙われる事はありません。だから・・・・安心して逝ってください」


 こうして、ミサキを狙う組織との戦いはこの日、ようやく決着がついた。だが、その代償も大きなものであった。ようやく再開できた姉、センナを目の前で失ったミサキ。

 タクミはミサキに頭を下げて謝った。


 「すまないミサキ・・・・俺は、お前の大切な人を守ってやれなかった」

 「・・・・・・」

 「偉そうなことばかり言って・・・・俺は何もッ!」

 

 悔しそうに拳を握り震わせるタクミ。そんな彼の手をミサキは優しく両手で包んだ。


 「ミサキ・・・・」

 「タクミ君、あなたのせいじゃないよ。あなたは私を救ってくれたじゃない。だから、どうか自分を責めないで・・・・」

 「ミサキ、お前・・・・」


 ミサキの目には涙の跡が付いていた。だが、その眼にはもう涙は流れていなかった。

 約束したからだ、これから先の未来を生きていくと。ならば、いつまでも悲しみにとらわれるわけにはいかない。なにより、センナはそんな自分を望まないだろう。


 「私は、これから先の未来を必死で生きる。でも、一人じゃ挫けそうになるかもしれない。だから――――」


 ミサキはタクミにこうお願いした。


 「その時は、タクミ君に支えてもらってもいいかな?」

 「・・・・ああ、当たり前だろ」


 タクミはそう言ってミサキを抱きしめる。

 体中が痛み大怪我をしているそんな彼をいたわる様、ミサキは優しく彼のことを抱き返した。






 翌日、夏休み中にもかかわらず、アタラシス学園の学院長室には四人の人間が集まっていた。

 一年Aクラス生徒黒川ミサキ、赤咲レン。担任である花木チユリ、そして学院長ローム・アナハイムの四人だ。ミサキは昨夜に起きた出来事を自分が狙われている事を知っているこの三人へ報告したのだ。タクミは傷が大きいため、現在は病院に居る。

 ミサキから事情を聞いた三人は悲痛な顔をしていた。特に親友のレンは一番そんな顔をしていた。


 「ミサキ・・・・お姉さんの遺体は?」

 「センナお姉ちゃんの遺体は昨日、埋葬しておいた。このことが世間に知れたら大事になるから・・・・」

 「そう・・・・」


 レンはそれ以上掛けられる言葉が見つからず黙り込む。

 アナハイムはミサキに頭を下げた。


 「黒川さん、申し訳ありませんでした。私は結局何も・・・・」

 「頭を上げてください学院長。貴方もセンナお姉ちゃんの催眠が掛かっていました。仕方がない事です」

 「しかし・・・・」

 「それに、私はもう大丈夫です」


 ミサキは落ち着いた様子で三人に言った。


 「涙なら、昨日一杯流しました。だから今は前を向いて未来を歩んで行くつもりです。私一人ではお姉ちゃんの死に耐え切れなかったかもしれません。でも・・・・」


 ミサキは三人の顔をそれぞれ見ながら言った。


 「私にはタクミ君が、レンが、先生たちが、大勢の人が傍にいます。一人じゃない・・・・だからこの先も進んでいけます」


 ミサキは両手を広げ、笑顔で言った。


 「この魔法ができた世界でも!!」


 黒川ミサキ、十五歳。彼女の人生は、物語はまだ半分以上も残っている。もしかしたらまた大きな悲しみが彼女を襲うかもしれない。それでも、彼女は歩みを止めはしないだろう。

 だって、大好きな姉は自分がこれからも歩いていく事を確認して逝ったのだから。その時点でミサキの覚悟は出来ている。どんなに苦しくてもこの先の未来を生きて行こう。

 みんなと・・・・そして、愛すべき彼、(タクミ)と供に・・・・・・。




 窓の外から、学院長室に眩しい光が差し込んだ。

 その光はまるで、ミサキの悲しみを照らしているかのようだった。



この話でミサキを狙う組織との戦いは一先ず終わりです。勿論、この作品自体はまだまだ続けます!!

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