第五十三話 流された血
絶体絶命のピンチにタクミの前に現れたのは、自分の最愛の人物、黒川ミサキであった。
彼女は厳しい目をしながらタクミの前に居る名も無き男を睨んで叫ぶ!
「タクミ君から離れろぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
ミサキは男に向かって走り出し炎を両腕に宿す。
名も無き男は一旦タクミと迫りくるミサキの両名から距離を取る。
「タクミ君!しっかり!!」
ミサキは意識が薄れふらつくタクミを支え、ゆっくりと地面に寝かせる。
センナ以上の瀕死状態のタクミを見て、ミサキは瞳からは涙を流しながら彼の名前を呼ぶ。
「タクミ君!しっかりして!!・・・・お願い、タクミ君」
ミサキはタクミから返事を求めて必死に声を掛ける。
タクミはそんなミサキの姿を見て、何とか声を出す。
「ミサ・・キ。はあっはあっ・・・・」
「タクミ君!!」
タクミが返事を返しまだ彼が生きている事に安心を感じたミサキだが、それも一時のもの。今のタクミの状態はあまりにも酷い。ミサキは指輪を外しタクミの指にすぐさまはめ込んだ。
「おい、ミサキ・・・・何して・・」
「タクミ君、この指輪に魔力を注いで今すぐ逃げて!!」
「バカ・・・・敵の・・狙い、は・・・・お前なんだぞ。はあっ・・・・お前こそ・・早く逃げ――――」
「逃げられるとでも?」
二人の会話に名も無き男が口を挟んでくる。
男は二人の姿を見比べながら、先に始末すべき優先順位を判断する。
「(久藍タクミはもう戦闘が出来るとも思えん。黒川ミサキは見たところ魔力も中々に余裕がある)」
先に瀕死のタクミをさっさと片付けるべきかと思う男だったが、その考えに待ったをかける。
「(黒川ミサキが久藍タクミの死で万が一秘めた個性の力を解放してしまったら厄介だ・・・・ならば黒川ミサキを殺し、奴の個性を奪い最後に瀕死の久藍タクミに止めを刺す・・・・よし、これにするか)」
まずは先にミサキを殺し個性を奪う事にした名も無き男。対するミサキの瞳には強い怒りが宿っていた。
「よくも・・・・よくもタクミ君をッ!!」
ミサキは魔力を解放し、目の前の男に攻撃を繰り出す。
「《火炎連射弾》!!!!」
ミサキの手から大量の炎の弾幕が展開され、名も無き男に向かって行く。男はその攻撃を回避しながら接近してくる。ミサキは後ろに居るタクミを巻き込まない様、移動しながら炎の弾丸を撃ち続ける。男はミサキを最初に殺すつもりでいる為、あえてタクミは放置しミサキに向かって行く。
「≪デリートランス≫」
消滅の槍、≪デリートランス≫を展開し、ミサキに一気に接近して行く。飛んでくる炎の弾を槍を巧みに扱い弾いて行く男。ミサキはその様子を見て攻撃を変更する。
「《火炎集砲撃》!いけえぇぇぇぇぇッ!!」
ミサキの手から炎の砲撃が放たれ、名も無き男に向かって行く。
だが、炎に身を包まれ焼かれる直前、男はあの魔法を発動する。
「≪モード・デリート≫!!」
名も無き男の体が白く光り、ミサキの砲撃による攻撃を無力化する。
炎の砲撃を超え≪モード・デリート≫を解除し、ミサキのすぐそばまで接近する男。ミサキは距離を置こうとするが、その前に男の蹴りがミサキの体に入る。
――ゲシィィィッ!――
「あうッ!?」
ミサキの体は名も無き男の蹴りによって吹き飛ばされる。
吹き飛ばされたミサキの姿を見てタクミが叫ぶ。
「ミ、ミサ・・キィィッ!!・・がはっ!」
瀕死の状態で大声で叫んだため、吐血するタクミ。だが、今の彼には自分の状態など眼中にはなかった。蹴り飛ばされ倒れているミサキにタクミが再び大声で叫ぶ。
「ミサッ・・ぐほっ!ミサキィッ・・に、逃げろぉッ!!」
タクミの叫び声を聴き、ミサキはすぐに立ち上がる。だが、目の前に居た男の姿は消えていた。
「えっ・・どこに?」
周囲を見回すミサキ。そこへタクミの声が投げかけられる。
「ミサキィ、ごほっ!上だぁぁぁッ!!」
「はっ!?」
タクミに言われ、自分の頭上を見上げるミサキ。
そこには手に魔力を集中して自分を狙っている男の姿が確認できた。
「消えろ、黒川ミサキ!≪デリートバスター≫!!」
上空から降り注いでくる消滅の砲撃。ミサキはその場から跳躍し砲撃をぎりぎりで回避する。
「空中なら身動きが取れない!!」
ミサキは上空にいる名も無き男に向かって《火炎集砲撃》を放つ。だが、男は再び≪モード・デリート≫を発動し、ミサキの攻撃を受けながらミサキに向かって降下して行く。
自分の技が直撃しているにもかかわらず向かってくる男にミサキは焦る。
「どうして!直撃しているのに!?」
「ハアッ!!」
男は地面に着地したと同時に全速力でミサキに接近し、再びミサキの体を蹴り飛ばす!
「あうぅぅぅっ!!」
ミサキは蹴り飛ばされ地面を滑っていく。
そこへ名も無き男は消滅の槍、《デリートランス》を作り出し、それをミサキに向けて全力で投擲する。
タクミは喉が枯れる程の大声でミサキに避けるよう叫ぶ。
「ミサキィィィィィィィィィィッッッ!!!!避けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!!!」
「えっ・・・・あ・・・・・・」
タクミの必死の叫び声にすぐに倒れていた上半身を起こすミサ。。そこで彼女の目に入ったのは――――
自分に迫りくる光の槍であった。
「ミサキィィィィィィッ!!!」
タクミの悲痛な叫び声が森の中に木霊する。
しかし槍は無慈悲にもミサキへと迫っていく。
そして――――
――ザクゥッ――
夜の森に嫌な音が響き渡る。
名も無き男が放った消滅の槍は・・・・刺さっていた。だが槍は――――ミサキには刺さらなかった。
「ごぷ・・・・っ」
「え・・・・・・?」
ミサキに槍が突き刺さる直前、彼女の視界には人影が映った。
それは自分のよく知る人物。タクミと同じく大切な存在――――
「ミサキ・・・・大丈夫?・・ぶふっ」
「お・・姉ちゃん?」
彼女の前には、消滅の槍により体が貫かれている姉――――センナが立っていた。