番外編 第二話 久藍タクミちゃん2
女の子となってしまったタクミ、彼はコンビニのベンチから立ち上がり自宅に帰ろうとしていた。
流石にこの姿で外をうろつく気にはなれなかったのだ。勿体ないが、今日一日は家の中でおとなしく過ごす事が無難な選択だろう。
安全な自宅目指し歩き続けるタクミ。すると……。
「(あれは…)」
前方から見知った人間が歩いてきた。
よく見ると同じクラスの男子二人であった。
「くっそ~、またまた撃沈だぜ」
「お前、今年の夏は彼女を作るって息巻いていなかったか?」
「うるへーーッ!!」
こちらに近づいてきているクラスメイトたち。
一瞬違う道を行こうと思ったが、今の自分は女性なのだ。それがクラスメイトの久藍タクミだと正体がばれる事はないだろう。
「(さっさと通り過ぎよう…)」
タクミは速足で二人にすれ違い、そして通り過ぎて行く。
だが――――
「!、待ってくれ!!」
「!?……(ま、まずい…感ずかれたか?)」
まさか呼び止められるとは思わず、思わず身を縮めてしまうタクミ。
ゆっくりと振り返ると、二人の内一人のクラスメイトが自分に近づいて来た。
「な、何か用…かしら?」
普段は男である以上使う事の無い女口調で話すタクミ。
クラスメイトの男子はタクミの事をしばらく見つめた後、タクミの手を掴んでこう言った。
「ねえキミ、よければ近くの喫茶店でお茶でもしない!!」
「……ハアッ!?」
なんと彼はタクミの事を口説いてきたのだ。
予想の遥か斜め上の出来事にタクミの頭は混乱する。
「俺、良い所知っているんだよ! ねっ、一緒にどう?」
「こ、断るわぁぁぁぁッ!!」
「あっ!!」
タクミは彼の手を振り払うと全速力でその場から離れる。
後ろから「待ってよ~」と声が聴こえてきたが、それを無視してダッシュで逃げる。
「何考えてるんだよ!!」
そう叫ぶタクミだが、現在のタクミの性別は逆転している為、ナンパされる事は決して不可思議な出来事ではないだろう。しかし、彼の心は男のままなのだ。同性にあんなセリフを言われても気持ちの悪いだけであった。
タクミは軽い混乱を引き起こしており、自宅からどんどん離れている事にも気付かず走り続けたのであった。
「はあ、はあ……ん」
あれからしばらく走り続け、ようやく正気に戻れたタクミ。
だが……。
「…くそ、家からむしろ離れた」
いくらパニックになっていたからといって少し慌て過ぎていた。まさか自宅とは反対方向に逃げるとは・・・・・・。
しかも急に走ったせいで喉も乾いてしまった。
「何か飲み物でも買うか…」
近くに飲み物が買える場所はないか探索するタクミ。
すると、自動販売機の存在を確認したタクミ。
「おっ♪」
小走りで自販機まで駆け寄るタクミ。
ポケットから財布を取り出し小銭を入れ、そして烏龍茶を購入するタクミだったが、その背後から同じく二人の自販機を使用する人間がやって来た。
背後に人の気配を感じ、飲み物を取り出し振り返るタクミ。
「ああ、すいません。今どきま…」
そこに居たのはタクミのよく知る人物……マサトとメイであった。
「ああ、悪ぃな」
「ご、ごめんなさい、失礼します」
場所を移動してくれたタクミにそれぞれ礼を言うマサトとメイ。
タクミは二人の言葉に黙って頷いていた。
「(津田に八神…何故よりにもよって今…!)」
再びクラスメイトとの邂逅に思わず心の中でそう呟くタクミ。
特に約束の類をしていたわけでもないにもかかわらず、今日に限って次々遭遇するクラスメイト達。それがどれほど低確率な事にも関わらず……。
「(何故今日に限って…もうっ!)」
タクミがそんな不満を洩らしていると、マサトがタクミに話しかけて来た。
「…アンタ、どこかで会ったか?」
「ええっ! い、いやいや気のせいよ。初対面の筈よ!!」
「そうか…」
「えっと…じゃあ私はこれで!!」
再びダッシュでこの場を離れるタクミ。
またもやダッシュで走る事になった彼、脱兎のごとくその場から離れて行くタクミの姿にマサトとメイは不思議そうな顔をする。
「何だ…?」
「さあ…?」
「何なんだ今日は!」
よりにもよって今日に限り次々と出くわすクラスメイト達。
神様が不運を自分に振りかざしているとしか思えない。何故性別が逆転したこの時に限ってこうも望まない出会いが訪れるのだろう。
「また走る羽目になった……」
額の汗を拭いながらぼやくタクミ。
もう早い所帰った方が良い、そう思い家まで今度こそ直行しようするタクミ。
だが、最大の障害がこの後タクミに待ち受けていた。
自宅まですぐにでも帰ろうとするタクミ。
この時、急いでいた為にタクミは曲がり角で人とぶつかってしまう。
――どんっ――
「きゃっ!」
「わっ!」
可愛らしい二人分の声が道端に響く。
ぶつかった衝撃で尻もちを付くタクミ。だが、すぐにはっとしてぶつかった相手に謝る。
「す、すいません!大丈夫ですか…あ…」
タクミがぶつかった相手は…今の自分が最も会ってはならない最愛の人――――
「あ…大丈夫です。そちらこそお怪我はありませんか?」
――――黒川ミサキであった。