第五十二話 命を燃やす魔法
「≪金色百裂神拳≫!!!!」
――ズドドドドドドドドドドドドドドドドドッッッ!!!――
名も無き男に向かい《黄金籠手》を身に纏った状態で百連撃の拳を叩きこんでいくタクミ。
怒涛の連続攻撃を次々と直撃させるタクミだが、その顔には焦りが感じられる。名も無き男は殴られ続けているにもかかわらず、まるで答えた様子が見られないのだ。
「(くっ、効いていないのか?)」
自分の拳を何十発も当てられているにもかかわらず、男の表情には何の変化も現れないのだ。しかも、それだけではなかった。
――ピキィッ――
「何!?」
何かが砕けるような音が耳に聴こえ、音の発生源に目を向けるタクミ。音が聴こえて来た場所は殴打を繰り返す拳から、そしてその拳に纏っている金色のオーラにヒビの様な亀裂が走っているのだ。
オーラに亀裂が走るという予想外の事態にタクミは攻撃を中断し、一度距離を取る。
「これは・・・・!?」
「俺の体に触れ続けた結果だ」
「どういう事だ・・・・」
「俺のこの魔法は全身から消滅の力を放つ魔法。自らの命を燃やすことでその力は通常の魔法よりも遥かに強大なものとなっている。いくらお前の《黄金籠手》とやらで纏ったオーラでも、腕にグローブの様に身に着ける以上は形が存在する。強力な消滅の力に叩き続ければいずれ消えてなくなるという訳だ」
男の話を聞き、少しは納得することが出来たタクミだが、それでもまだ解せない点が一つあった。
「俺の《黄金籠手》にヒビが入った理由は解ったが、お前のその異常な耐久力はどういう訳だ?見たところ六十七発も強化した拳を撃ち込んだのにケロリとしているようだが」
「言っただろう・・・・〝全身から消滅の力を放つ魔法〟だと」
――ドオォンッ!!――
タクミに跳躍し、接近する名も無き男。
放たれる拳、それを肘でガードするタクミだが――――
――ジュウゥゥゥゥゥッ――
「なっ、これは!?」
男の拳を受け止めた肘から燃えるとも溶けるとも言えないような痛みが走る。すぐに蹴りを入れ反撃に転じるタクミ。
「こんのぉッ!!」
――ガシィィィィィィィンッ!!――
見事の頭部の側頭部にタクミの強烈な蹴りは命中するが、男はまるで答えた様子はない。それどころか打ち込んだ方のタクミの脚から頭に触れている箇所から痛みが与えられた。
「うぐぅ!?」
「破ッ!!」
――ドゴオォォンッッ!!――
タクミの腹部に拳を突き入れる名も無き男。
タクミは攻撃を受けた個所から打撃の鈍い痛みと、体が炙られるような熱さと痛みを感じ、吹き飛ばされる。地面に体を付いたタクミはすぐに起き上がり、男から距離を置く。
「はあっはあっ・・・・うぐっ!」
拳が撃ち込まれた箇所を擦るタクミ。そこから感じる痛みは二つあった。
一つは殴られた事で発生した痛み、そしてもう一つが焦げ付くような痛み。
「(くっ、奴は今全身が消滅の力で守られている。つまり、奴に触れてしまえばその個所に消滅の力が働き自滅してしまう・・・・だが、何故奴はダメージを負わない?自滅と言っても俺が攻撃を当てている事は事実なのに・・・・待てよっ!)」
敵にダメージが全く入らないことに考えを巡らせるタクミ。そして、ある可能性が頭をよぎった。
「(消滅の力で守られている、命を削る事で出せる通常以上の力・・・・もしかして)」
自分の中で思い当たる可能性、それを確認するためにタクミは接近戦をやめ、遠距離戦へと戦い方を切り替える。
「《金色魔力砲》!ハアァァァァァァッッ!!」
手のひらに魔力を溜め、極太の砲撃を名も無き男に向かってタクミは放つ。男は特に身動きも取らず、タクミの攻撃の直撃をまともに受ける。
タクミの砲撃が終わり、目を向けてみる。そこには無傷のまま立っている男が居た。
「お前、まさか受けたダメージを消滅させて・・・・」
「気付いたか、そう、その通り」
名も無き男はその場で軽く拍手をタクミに送る。
敵のその行為に内心腹が立つタクミ。だが、今はそんな怒りにとらわれている場合ではない。これは相当に厄介だ。
「(受けたダメージ自体を消滅し、ダメージを消していたから無傷だったと。くそっ、なんてでたらめな魔法だ!!)」
流石は命を燃やしているだけの事はある魔法だ。少なくともこれほどの魔法は自分は過去に体験した記憶がない。しかし、この魔法にはそれ相応のリスクがあるとタクミは踏んだ。
「(奴は命を燃やすと言っていた。ただ魔力を多く消費するだけではない、恐らく使えば使うほどに奴の寿命が減っていくといったところか)」
もし、何のリスクも無いのであれば初めから使っていたはずだ。とにかく、今は対策を考えつつ奴が魔法を解くまで時間を稼ぐ。
だが、名も無き男本人がのんびり待つわけもなく、タクミの思考中に攻撃を繰り出す。
「《デリートバスター》!!」
「くっ!」
全て消し去る砲撃が男から放たれる。
タクミはそれを回避して距離を取り始める。
「逃がさん!《消失の雨》!!」
「ッ!まずい、広範囲魔法か!!」
タクミの頭上、空高くに巨大な魔法陣が出現し、その魔法陣から光輝く大きな雨が地上へと降り注いでくる。タクミは《黄金籠手》の応用で、自分の全身をオーラで纏い、降り注いでくる雨の直撃を避ける。しかし、《黄金籠手》とは違い全身にオーラを纏っている為、纏わせているオーラの割合が少なくなり強度も脆くなっているので、少しづつ溶けていくかの様にオーラの亀裂が入っていく。
「くそっ、これじゃ長くはもたないぞ!!」
オーラが消滅する前になんとか本体を倒さなければならない。そう考えタクミは時間稼ぎから、ダメージを蓄積させる作戦に変更する。
もっとも得意な接近戦を彼は選択し、名もなき男へと突っ込んで行くタクミ。
「≪金色百裂神拳≫!!!!!!」
再び男に怒涛の連撃を繰り出すタクミ。しかし先程と同じく男からはまるで焦りを感じられない。
「まだまだまだまだぁッッ!!!!」
それでも攻撃を繰り出し続けるタクミ。逃げ回っているだけではいずれは雨に丸裸にされ消されてしまう。ならば出来る限りダメージを消滅させこの《モード・デリート》を解除させる!!
しかし男も黙って殴られるつもりもなく、反撃の拳を繰り出す。
「くっ、おおぉぉぉぉぉぉッ!!」
触れられるだけでもダメージを負うため、男の攻撃を紙一重で回避しながら攻撃を繰り出すタクミ。
「ちぃっ!!」
うっとおしくなった男は殴られながらもタクミに手の平を向け、魔力を溜める。
「マズイッ!!」
「《デリートバスター》!!!」
――ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!――
放たれた全てを消し去る一撃。それを横に飛ぶことで回避するタクミ。だが、名も無き男は砲撃に魔力を注ぎ続け、砲撃を放ったままタクミに向かい腕を移動させる。
「ちいぃぃぃぃっ!」
迫りくる砲撃を足に魔力を集中し回避し続けるタクミ。
砲撃に魔力を送り続けているためだろう。上空の魔法陣は消え、消滅へと誘う雨が止む。雨の影響で魔法陣から下部分の大地は穴だらけとなっている。
「逃がさんぞッ!!!」
名も無き男は砲撃の砲となる手のひらをタクミにロックオンし、タクミの移動に合わて移動させる。白い光を放つ砲撃は木々を消し去りながらタクミに迫りくる。
「まずい!このままじゃ・・・・」
砲撃がタクミの背後、あと一歩の距離まで迫った時、名も無き男の様子が突如変化した。
「ぐっ・・・・かはっ!?」
突然男が膝を付き砲撃を止めた。それだけではなく男の白く光り輝いていた姿は元の姿へと戻っていた。
「はあっはあっ!」
「元に戻った!やはり相当消耗していたかッ!!」
タクミは《黄金籠手》を両腕に纏わせ、名も無き男へと全力で跳躍する。
「オオオオオオオオッッ!!」
――ドゴォンッ!!!――
「ぎぃっ!」
男の頬に強烈な一撃を叩き込むタクミ。続けてもう一撃入れようとするが――――
「ッ、舐めるな!!」
攻撃が入る直前、再び《モード・デリート》を発動させダメージを消滅させる男。そのままタクミに腹部に深々とボディブローを入れる。
――ドムゥゥゥゥゥッ!!――
「おぶっ!?」
タクミの口から唾液が僅かに漏れる。
重く深い痛みがタクミの腹の中からじわじわと押し寄せる。その上消滅の力が上乗せされ、受けたダメージは甚大であった。
「消えろッ!《デリートバスター》!」
「しま・・・・っ!」
――ドシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッ!!!――
全てを消し去る閃光がタクミの体を包み込んだ。
名も無き男は≪モード・デリート≫を解除し、目の前の少年に目を向けて言った。
「・・・・大した奴だ、まともにあれを受けてまだ五体満足とはな」
「ぜえっぜえっ・・・・まだ・・だッ!!」
タクミの全身はボロボロとなり果てており、肌も所々焼かれた様な消滅跡があり、全身からはおびただしい血が流れていた。
「だが、もう終わりだな」
手のひらをタクミに向ける名も無き男。
男の言葉を聞き、タクミは小さく呟いた。
「終わ・・れる・・・・か。俺は、まだ・・・・」
「もうしゃべるな、一瞬で黄泉の国へと送り届けてやる」
タクミに止めを刺そうとする男。
だが――――
――どかあぁぁぁぁぁんッ!――
「ぐおぉっ!?」
突然背後から炎の弾丸を当てられる名も無き男。
タクミは男の背後に居る人物を見て、その名を呟いた。
「ミ・・サキ」
「タクミ君から離れてッ!!」
そこには最愛の人、黒川ミサキがタクミを守るため立っていた。