第五十話 不死鳥の力
人気のない夜の森の中、そこではある一定の場所が輝きを放っていた。
その場所では巨大な爆発の塊である大玉と巨大な炎が激しくぶつかり合っていた。爆発と炎の二つが作り出す二重の光は風光明媚と言えるかもしれないが、その危険度は凄まじい。
そんな危険区域では二人と一人の人間が全身全霊を掛けてぶつかり合っていた。
「ぐぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎッ!!」
「「くうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!」」
レイヤーの爆発、黒川姉妹の炎、二つの力が激しくぶつかり合い拮抗をしていた。
残る力全てを乗せた互いの最終攻撃は辺りの木々を吹き飛ばし、攻撃のぶつかり合いで散っている炎や爆発の力が周囲の環境を荒らしていく。
「あああああああああああッッ!!!」
レイヤーは魔力を更に振り絞り自分の技へと送る。魔力を注がれた巨大爆発玉は更に大きさを増し、黒川姉妹の炎を少しずつ押し出していく。
「くうぅぅぅっ!?」
「ミサキ、もっと魔力を上げなさい!!」
「くう、せ、精いっぱい送ってるよ!!」
ミサキは自分の力を全て送り込んでいると言うが、センナは大声で続けて言った。
「貴方の個性、〝不死鳥の炎〟は無限の魔力を生産できるわ!貴方は本来なら終わる事なく魔力を放ち続ける事が出来る!!今の自分が限界だと考えず、魔力を更に上乗せするイメージを持ちなさいッ!!!」
「くうぅぅぅぅ~~~っ!!」
センナの言葉に答えようと魔力を炎に出来うる限り送り続けるミサキ。迫りくる爆発の大玉をなんとか抑えようと必死になる。
レイヤーは壊れたように笑いながら二人を消し去るべく更に魔力を振り絞り、力を大玉へと入れる。
「あひゃひゃひゃひゃッ!死ね死ね、死んじまえ!!そのままさっさと消えろぉおおおおおおおッ!!!」
「くぅ・・ミサキィッ!踏ん張りなさい!!」
「こんのぉ~~~~ッ!!」
火力をさらに上げようとするミサキたち、しかし徐々に追い込まれる二人。
もうだめかと思わず考えてしまうミサキ、だが・・・・・・。
「アンタらが死んだあとは久藍の糞野郎も仲良くあの世まで送り届けてやるよ!!」
レイヤーのこの一言が・・・・ミサキの中の完全に開放されていない個性の扉を一時的にこじ開けた。
「タクミ君をあの世へ誘う?そんな事――――」
ミサキの瞳に小さな火が宿り、レイヤーを睨み付ける。
そして、彼女から放たれる魔力の量が突然変化する。
「絶対にさせるもんかあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「!?・・ミサキ、貴方・・・・」
ミサキから放たれる炎の量が一気に増幅し、砲撃の威力が一気に増大する。その砲撃はそのままレイヤーの放った最終技、《ファイナルエクスプロージョンKB》を飲み込み、そのままレイヤーへと向かって行く。
「そんなッ!?あの女の魔力が信じられないほど上がった!!これが〝不死鳥の炎〟の力なの!?」
「いけえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」
増大した炎の砲撃は彼女の全身を包み込んで行った。
「チクショオォォォォォォォォッッ!!!!」
レイヤーの口からは悔しさのあまりに叫び声が上げられた。だが、すぐにその声は炎に包まれ消えていった。
ミサキとセンナの攻撃を受けたレイヤーは命こそは何とか繋ぎ止めてはいるが、もはや満身創痍であり身動きすら取れない状態であった。
ミサキは先程放った靴を拾い、再びそれを履く。少し焦げているが裸足よりははるかにましだ。
戦いがひとまず落ち着いた事で、ミサキの緊張の糸が途切れその場で膝を付く。
「あはは・・・・気が抜けて足に力が入らないや」
力無き笑みでそう言うミサキ。そこへセンナがミサキに気になっている事を質問する。
「ミサキ、貴方最後の方で一気に魔力が満ち溢れていたけど・・・・・・」
「あ、うん。・・・・この人がタクミ君に危害を加える事を言った時、なんだか・・こう・・頭に血が上ったて言えばいいのかな?お腹の底が熱くなって、それで・・・・・・」
「今はどう、さっきの様な力は出せそうかしら?」
センナの質問にミサキは首を横に振った。
「今はさっきの様な力は感じられない。あの時はたぶん、偶然私の個性の力を少しの間だけ完全に引き出せたみたいだけど・・・・」
「(どうやら久藍君の命を脅かす発言に激情し、一時的に個性の力が開放されたのね)」
自分の身よりもタクミの命の危険に真の力を発揮し、タクミもミサキを守る為に戦い強くなっていく。センナは改めて思った事をミサキへと告げる。
「ミサキ、貴方と久藍君は本当に相性がいいわね・・・・いい人を見つけたわね」
「えっ、お姉ちゃん急に何を・・・・そうだ、まだタクミ君が戦っているんだ!気を抜いている場合じゃッ!」
センナの言葉に少し恥ずかしそうな顔をしたミサキであったが、タクミの事を口に出され、彼が今でも戦っている事を思い出すミサキ。すぐにでもタクミの元へ駆け付けようとするミサキをセンナが諌める。
「落ち着きなさい、貴方はもうほとんど魔力が残っていないでしょ。ここは私が・・・・ぐっ」
センナはそこで言葉を途切らせ、膝を付く。
戦闘中は緊張や興奮によってアドレナリンが出ていたため動くことが出来たセンナだが、敵を倒し安全が確保された事で肉体が再び悲鳴を上げた。彼女は何しろレイヤーの地雷をモロに受けたのだ、威力が弱まっていたとはいえ無傷なはずがない。
「お姉ちゃん、もう無理しないで・・・・ここで休んでいて」
「ミサキ・・・・行くなと言っても貴方は行くんでしょうね・・・・ごほっ・・気を付けなさい。本当は私が加勢に行くべきなんだけど・・・・ごめんなさい、体がもう・・それに魔力も・・・・」
「私なら大丈夫だよ・・・・それに・・・・」
その時、ミサキの体から魔力が溢れ出してきたのだ。
その現象にセンナが驚く。
「ミサキ、貴方魔力が回復して・・・・」
「うん、あの人の言葉で怒った時、体内から魔力が満ち溢れてきて魔力も回復していたんだ」
ミサキはあの時、怒りで自分の個性をわずかな間だが完全にその力を引き出した。その際、魔力も大量に生み出し、そして体内の魔力が完全に回復したのだ。
ミサキはセンナに自分の魔力を僅かに与える。
「お姉ちゃん、私の魔力を少し渡しておいたね。これで少しはマシなはずだよ」
「ミサキ、ありがとう・・・・情けのない姉ね私は。妹に助けられ繋ぎ止められているなんて」
センナは自分を卑下するが、ミサキはそれを強く否定した。
「そんなことない、情けの無いのは私の方だよ・・・・ずっとお姉ちゃんに守られて生きて来たんだから・・・・・・・ありがとうセンナお姉ちゃん・・・・ずっと守ってくれて」
「ミサキ・・・・気を付けてね・・・・」
「・・・・うん」
ミサキはセンナに背を向け、走っていく。自分のもう一人の大切な人の元へ・・・・・・。
成長した妹の後ろ姿を見て、センナはどこか満足そうな顔で空を見上げた。