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魔法ができてしまったこの世界で  作者: 銀色の侍
夏休み 結ばれる二人編
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第四十二話 ある男の子のお話し

 昔、ある所に一人の男の子が居ました。ですが、彼には名前がありませんでした。それは、親が名を名乗る事を許さず、それどころか与えてもくれなかったからです。男の子は有名な名門の魔法使いの家に生を受けました。しかし、男の子には両親と違い魔法の才能が全然有りませんでした。両親はそんな男の子に愛想が尽き、唯の置物の様に男の子に接っしました。そして、よく口ずっぱく男の子は母親にこう言われました。


 貴方みたいな出来損ないが私たちと同じ姓を名乗ることは許しません


 男の子は魔法がちゃんと使えるようになるまで、性を名乗るどころか名前も貰えませんでした。そんなつらい生活の中、男の子は思わずこう思いました。


 ――魔法さえなければ・・・・こんな苦しみ続ける事なんてないのに――


 自分の家が名門の魔法使いの家柄でなければ男の子は名前も貰え、幸せな毎日を過ごせたのではないかと考えるようになりました。そして、そんな彼に更なる不幸が訪れました。なんと、両親は養子を取ったのです。その子は自分と違って魔法の才能がありました。両親は自分の事など見向きもせず、その子ばかり可愛がってました。


 養子の子は名前が貰えました、男の子は貰えません。

 養子の子は誕生日にプレゼントを買ってもらいました、男の子は誕生日の日を忘れられていました。

 養子の子は家族で旅行に行きました、男の子は置いていかれました。


 男の子は理解しました。


 ――自分はいらないんだ・・・・と――


 男の子は家を出て行きました。当てもなくいろいろな場所を転々としました。お金や食べ物をこっそり泥棒したり、捨ててある食べ物を我慢して食べたり、つらい事をいっぱいして生き延びました。だけどついに限界を迎えて倒れてしまいました。道端で倒れていると、そんな彼を助けてくれたお姉さんがいました。お姉さんは倒れている男の子を家に連れていき、ご飯をご馳走して、お風呂にも入れてくれました。

 男の子はその家で暮らすことになりました。お姉さんと、自分より小さな白い猫の男の子の三人で暮らしました。そして、男の子は〝消滅〟の魔法を〝貰いました〟。そして魔法についてお姉さんに色々教えてもらいました。そして男の子は知ります。この世界では自分と同じ苦しみを抱えている子がたくさんいる事実を、そして決意しました。


 魔法という力を消す。この〝消滅〟の力で。


 男の子はお姉さんの目を盗み、お姉さんが作りだした魔法の一つ、≪ワールドデリート≫というすごい魔法を発見し、こっそり使い方を勉強しました。そして、時間は流れ彼は成長し、いよいよ計画に移り出しました。

 迷惑を掛けたくなかったので、彼はお姉さんと白猫の男の子には黙って家を出ました。その時、お姉さんがくれた名前も捨てました。未練が残らないように・・・・・・。


 それからしばらくして、彼には仲間が見つかりました。自分と同じ、魔法に強い復讐心を抱く女性を・・・・・・。

 そして、彼らは計画の為・・・・動き出したのだった。






 「俺達は魔法を消す為に生き、魔法が消えたその先の世界を見たく計画を練り、そしてついにお前に辿りついた・・・・黒川ミサキ。そして、そこにいるエクスはお前を殺し、お前の個性を奪おうとした」


 名も無き男がそう言って、ミサキはセンナに目を向ける。

 センナは俯いたまま何もしゃべろうとはしない。


 「だが、ここで一つ予想外の事態が発生した。それは――――」


 名も無き男がセンナを睨み付けてミサキに告げる。


 「その女はお前を死んだ妹と重ね、お前の存在を生かす道を選んでしまった事だ」

 「!!・・・・センナお姉ちゃん」


 ミサキはセンナの名前を小さな声で言った。

 センナは何も答えてくれず、名も無き男の話声が森林に引き続き響く。


 「先ほども話したが、ソイツには二つの個性魔法が存在する。一つは死んだ妹の〝黒炎〟、そしてもう一つが〝催眠〟だ」

 「〝催眠〟?」

 「そう、自分の魔力を飛ばす事で無意識に人を操り、コントロールできる魔法だ」

 「・・・・(まさか!)」

 「頭のいい奴だ。どうやら気付いたようだな」


 名も無き男の言う通り、全て気付いたミサキ。

 その催眠で自分はエクスをセンナという存在しない姉だと認識していたのだ。自分だけではない、両親や妹、そして親友、エクスはミサキと深いつながり持つ人物に催眠を掛けていたのだ。そして、その催眠の力は強大なモノであった。何しろ、アタラシス学園の学院長、ローム・アナハイムですらも欺くほどの魔法だったのだから。

 しかも、エクスは凄まじく用意周到であった。学園の重要な人物に自分を学生だと思わせ、その上学園の名簿を始め、自分の存在があたかも本当であるように細工を施していたのだ。

 全てはミサキの命を絶つ為に・・・・・・。

 ミサキは自覚が無いであろうが、彼女がすぐに襲撃されなかった理由は彼女の個性にあった。〝不死鳥の炎〟、この魔法は魔力だけではなく死んだ者も生き返る可能性があるのだ。万が一始末した後、生き返りでもしたら面倒だと判断し、エクスはミサキに近づき彼女の個性について詳しく調べたのだ。

 そして、その可能性が無い事を知り、彼女はいよいよ計画に移ろうとした。






 平日の夕暮れ時、エクスは家の居間でミサキの帰りを待っていた。

 黒川家に潜入し、家族として生き続けたエクス。そして今日、彼女はミサキを殺す気でいた。

 家の玄関の扉が開かれ、ミサキが帰って来た。


 「お姉ちゃんただいま、今帰ったよ」

 「ええ、お帰りなさい」


 何気なく会話をするエクス。

 殺気を完全に消し、殺意を抱いている事を悟られぬ様、万全の注意を払う。だが、ミサキはそもそも姉に殺される事など想定していない為、殺気をむき出しにされていても無防備な状態であっただろう。

 エクスはゆっくりと自然にミサキに近寄って行く。


 「(悪く思わないでね・・・・)」


 手に魔力を込め、ミサキの肉体を焼き尽くそうと黒炎を発動しようとするエクス。

 だが、エクスの攻撃よりも先に、ミサキはエクスに声を掛けた。


 「あっ、お姉ちゃん!実は渡したいものがあるの」

 「・・・・何?」


 ミサキの言葉に魔力を納めるエクス。

 しかし、ミサキが話を終えた瞬間に攻撃が出来る様備える。

 学生鞄の中に手を入れ、ミサキはある物を取り出した。


 「はい、これ・・・・」

 「これは?」

 

 エクスが手渡されたのは綺麗な紙でラッピングされた小さな箱。

 ミサキは少し照れくさそうに言った。


 「お誕生日おめでとう、お姉ちゃん」

 「えっ・・・・」

 「今日、誕生日でしょ。それ、お姉ちゃんが前に欲しがっていたイヤリングだよ。お小遣い溜めて買ったんだ」

 「そう・・・・なの」


 手の中にある箱を見ながらエクスは思い出した。

 今日はセンナの誕生日だと設定していた日であると。正直、適当に決めた誕生日。エクス自身そんな事はもう忘れていた位だ。

 しかし、ミサキはちゃんと記憶していた。例えそれが偽りの記憶だとしても。

 ミサキは笑顔でエクスに改めて言う。



 「お誕生日おめでとう、センナお姉ちゃん♪」


 ミサキの言葉にエクスは小さく「ありがとう」と言った。

 とてもか細い声であったが、ミサキはエクスの言葉に満足して自分の部屋に行こうとする。今なら隙だらけ・・・・だが、エクスは何もしなかった。

 居間に一人だけとなるエクス。彼女は内心自分の行動に説教をする。


 「(何をやっているのよ!こんな事位で揺れてどうするの!)」


 自分の愚かな振る舞いに叱咤するエクスであったが、彼女は手に持っていた小箱を大事そうに持っていた。

 

 「・・・・おめでとう・・・・か。私が自分を殺そうとしている女だと知ったらどうなるのかしら」


 結局エクスはこの日、これ以降ミサキの命を取ろうとはしなかった。

 チャンスはまだまだある、焦る必要はない。彼女は自分にそう言い聞かせた。




 しかし次の日、その次の日とエクスは予定をずるずると引き伸ばし続けた。

 そんな彼女の耳には、ミサキがくれたイヤリングが着けられていた。

 当初は〝不死鳥の炎〟が目的でミサキに近づいたエクス。しかし、彼女は本来の目的、〝不死鳥の炎〟よりもミサキと過ごす時間を大切にし始めた。

 間違っていると分かっていながらも、彼女がミサキと過ごす時間は――――


 「それでねお姉ちゃん、レンったらまた私に~~~~」

 「ふふっ、あの子も相変わらずね」


 死んだ本当の妹と過ごしていた愛しい時間を連想させた。

 そして彼女は・・・・ある選択を取った。ミサキを守る為に・・・・・・。



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