第四十一話 ある姉妹のお話し
「お前の隣に居る女の名は摩龍エクス。俺と同じく、お前の存在を狙っている一人だ」
「!!・・何を馬鹿な事を・・・・」
「これは真実だ」
男の目には自分を騙しているようには見えない。しかし、だからと言って信じられるものでもない。
男はミサキのそんな心情などお構いなしに語り続けた。
「我々はお前の中に眠る個性の力が目的だ。その為にお前を狙っていた」
「私の個性?炎の魔法なんて別に珍しくも無い筈。何でそんな魔法を・・・・」
「ただの炎ならな・・・・だが、お前に宿っている炎はただの炎ではない」
男はミサキに指を指し、彼女の中に眠る力の正体を教える。
「お前の炎は〝不死鳥の炎〟と呼ばれる物だ」
「〝不死鳥の炎〟・・?」
「そうだ」
不死鳥・・・・それは死という理から外れた永遠を生き続ける伝説の鳥。そしてその存在は火の鳥とも世間では言われている。ミサキもその事は知っているが、自分の魔法がどういう物かまだ完全には理解できない。自分は不死ではない、唯の人間だ。
「その炎は永遠に燃え続ける炎、それはつまり永遠に魔力を生み出し続ける力が有るという事だ」
「永遠に・・・・?」
「そうだ。途切れることのない魔力、我々はその力を求めていたのだ・・・・ある魔法を使用する為に」
「ある魔法?」
そこで男は一度空を見上げ、しばらくし視線をミサキに戻して告げる。
「この世界の魔法を消す魔法・・・・《ワールドデリート》」
「・・・・魔法を消す?何を言っているんですか・・・・そんな事、出来る筈が・・・・」
「出来るさ、そのために俺はこの〝消滅〟の魔法を〝身に着けた〟」
男が手に魔力を宿し、そのまま腕を真横の地面へと振るい魔力を放つ。
――ボシュウゥゥゥゥゥゥゥゥッ――
魔力が放たれた箇所の地面は綺麗に消滅した。
その光景を見て驚くミサキ。
「全てを消す力、そしてそれを元に作りだした魔法≪ワールドデリート≫・・・・その魔法は世界に存在する魔力を打ち消し、浄化する魔法だ」
男は手に消滅の力を宿しながら話を続ける。
「だが、この魔法には膨大な魔力が必要でな、俺の命が尽きるまで魔力を注いでもまるでお話にならない。この魔法を発動する為、俺はこの魔法のエネルギー確保の方法を探し続けた。その結果――――」
男は手に宿した魔力を納め、ミサキに再び指を指した。
「〝不死鳥の炎〟と呼ばれる永遠に魔力が尽きる事の無い魔法の力、それをこのわが身に宿すことで俺の悲願である魔法を発動することが出来ることが分かった。そして、その魔法をお前が宿していたという事だ」
「私の個性にそこまでの力があるなんてとても思えません。魔力が尽きる事がないなんて言っているけど、私自身魔力不足になった経験なんて何度もあります」
「それはお前が完全に個性の力を引き出せていないだけだ。稀にそういう輩も実際に居るからな」
ミサキを狙う理由がこの時ようやく明らかとなった。
彼女の個性、その力を奪うために彼女は今まで狙われていたのだ。だが、ミサキにはもっと知りたい事実があった。
それは――――姉のセンナのことである。
しかし一つ、その前にはっきりしておくべき事実が有る。
「貴方の計画は解りました。・・・・でも、何故私の命を・・・・?」
目の前の男が自分を狙う理由はよく解った。自分の中に眠る〝不死鳥の炎〟とやらがどうやら目的の様だ。しかし、だとしたら何故自分の命を奪おうとするのか。自分が死んでしまえばその目的の力だって消えてなくなるのでは?
そんなミサキの疑問に男が答える。
「魔法使いは死んだ時、体内の魔力を外にすべて流す。その際その魔力を大量に・・・・おおよそ八割程度でも取り込めばその魔法、個性の力をその身に宿す事が可能なのだ」
男の説明にミサキは驚きを表す。
自分も魔法使いであるが、今までそのような事実は彼女は全く知らなかった。勿論、学園の授業説明でもそのような類の話など聞いたこともない。
そして、男はその方法を知った理由をミサキに話した。
「俺がその方法を知るきっかけをくれたのがお前の横に居るエクスの存在だ」
「えっ・・・・」
「その女は個性を二つ持っている・・・・どうしてだと思う?」
男の話を黙って聞いていたセンリは顔を伏せる。
ミサキはそんなセンナを心配そうな目で見る。
「その女にはかつて妹が居た。だが、いかれた狂人の魔法使いに殺されたんだ」
「え・・・・・・」
昔、ある所に仲の良い姉妹がいました。二人はいつも一緒に居ました。ですがある日、妹は悪い魔法使いに誘拐されてしまいました。姉は妹を救おうと誘拐犯のアジトへ警察の人達と乗り込みました。でも・・・・妹は頭から血をたくさん流して倒れていました。誘拐犯は警察の人達がやっつけてくれました。姉は妹を病院に急いで連れて行きました。でも、妹はとうとう帰らぬ人となってしまいました。姉は涙が枯れるまでわんわん泣きました。
妹を殺した犯人は魔法を思いっきり人間相手に使ってみたかったそうです。姉は心底怒りました。妹はそんな身勝手極まりない理由で殺されたのです。その時、姉は思いました。
――魔法さえなければ・・・・妹は死ななかった――
姉はそう理解したのです。勿論犯人が一番許せません。でも、今の世界がおかしいのだと思ったのです。魔法という力が人の感覚、価値観、そういうものを狂わせていると思ったのです。そこで姉はこの世界から魔法という力を殺してみせると死んだ妹に誓いました。
そして、摩龍エクスの魔法に対する復讐が始まりました。
彼女は妹が死んだ際、その魔力をたくさん吸い取ったので、〝黒い炎〟を扱う個性を手に入れました。その黒き炎は今の彼女にぴったりの力でした。どす黒い復讐の炎・・・・まさに今の彼女の心を映し出した様な力でした。
こうして、摩龍エクスの無謀とも思える魔法に対する復讐の物語が始まりました。