第四十話 真実
レイヤーによる自らの肉体を爆発させる大技、≪肉体ボム≫。それを至近距離から受けたタクミ。
爆発後、タクミの攻撃と自らの自爆の反動で大きな負傷を負ったレイヤーであったが、その顔には勝利を確信した笑みが浮かんでいた。
「ふふ、学習能力がないのね。それとも前に死にかけた時の記憶はもう頭から抜け落ちていた?」
爆発による煙で辺りは覆われ姿は見えない。
だが、至近距離であれほどの爆発を受け無事であるはずもない。
自らの勝利を確信したことでレイヤーは大声を上げて笑い出した。
「あっはははははははははははははッッ!!!!」
響き渡るレイヤーの笑い声だが、ここで予想外の事態がレイヤーに起こった。
「・・・・何がおかしいんだ?」
「!!??」
自分の笑い声に反応して、タクミの声がはっきりと聞こえて来たのだ。
レイヤーは声がしてきた場所に目を向ける。
そして・・・・煙が徐々に散っていき、そこには――――
「・・・・・・うそ」
無傷でその場にタクミが立っていた。
レイヤーはほとんど無傷のタクミの姿を最大限まで目を見開き見る。
目立った外傷もなく、魔力に変化も見られない・・・・つまり、今の攻撃になんの影響も受けていないという事。自分の最強の技を受けているにもかかわらず・・・・・・。
「有り得ない!!!!!!」
レイヤーはその現実を認められず大声でタクミに向かって喚き散らす!
「有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない、絶対に有り得ない!!!!何で!?何でそんなけろっとしてるのよアンタはぁッ!!何で死んでねーんだぁッ!?なん・・・・ごはっごほっ!」
レイヤーは口から血を吐き、むせながらタクミに叫ぶ。
両手で頭を皮が破れる位にがりがりと掻き毟り、目を充血させて叫ぶ!叫び続ける!!
タクミはそんな彼女を冷静に見ながら答えた。
「お前に負け、俺は自分が弱い事を知れた。そして、まだまだ強くなれる可能性もな・・・・」
すると、タクミの目が金色に染まる。
それと連動し、嵐の様に凄まじい魔力がタクミから吹き荒れる。
「何よ・・・・この魔力は」
まるで次元が違う、その言葉がレイヤーの頭に浮かんでくる。
あの日、レイヤーに瀕死の重傷を負わされたタクミ。しかし、彼があの一戦以降に短期間でここまで強くなれたのは自らが死にかけたからではない。
それは、ミサキが泣いていたからだ。
タクミにとって彼女が流す涙は自分が負った怪我などどうでもよくなる位につらく、痛みが走るものだったのだ。もう、あの痛みを味わいたくない・・・・なにより、ミサキに泣いてほしくない。その想いが彼を強くした。
「ミサキが泣いていた。俺の愛しい人が・・・・大事な人が泣いていたんだ」
タクミの魔力が更に大きく、力強くなる。
「ぐっ・・・・!!」
「もう、あんなミサキの顔は・・・・見たくない」
タクミは辛そうな顔でそう言った。
思い返すたびに胸が激しく痛むのだ。自分の身を心配し涙を流すミサキの姿、そんな姿を彼女が晒した原因は目の前の敵ではない・・・・この俺なのだ。
「だから、強くなろうと思った。もう彼女に悲しみの涙を流させないように。その為に身に着けた新たな力――――」
タクミは拳を握りしめ、レイヤーを見ながら大声で叫んだ。
「それがこの≪スパークル・ガーディアン≫だあぁぁぁぁぁッ!!」
タクミの咆哮と共に彼の体から眩い光が溢れ出し、夜の世界を照らす。
その強烈な光にレイヤーは思わず目をつぶる。しかし、戦闘中にいつまでも目を閉じている訳にもいかず、うっすらと目を開けてレイヤーが言った。
「≪スパークル・ガーディアン≫・・・・煌めく守護者とはよく言ったものね。大層なお名前だわ・・・・」
そう言ったレイヤーの顔には大量の汗が流れていた。
目の前の男の予想外の急成長、もはや別人と言った方が正しいかもしれない。
自分では決して勝てないと悟ったレイヤー、しかし、にも拘らず彼女は笑みを浮かべる。
「認めるわ・・・・私じゃ勝てないわね・・・・でも、ここでアンタが死ぬことは変わらないわよ」
自分では勝てないと認めているにもかかわらず、タクミに死の宣告をするレイヤー。
だがタクミとしてはそんな事などどうでもいい事であった。今の自分がすべき事は一刻でも早く自分を誘導する確かなある予感がする場所へと向かう事だ。
レイヤーを気絶させ先に行こうとするタクミだったが、レイヤーは懐から何かを取り出した。
それは見たところお札の様に見える。
「そらッ!」
タクミの辺りにレイヤーは手に持っている札を投げ飛ばす。すると、地面に落ちた札から魔力が噴出し魔法陣が描かれ、再びタクミの周囲に大量の魔法陣が現れる。
「(また地雷か・・・・いや、違う?)」
よく見ると先程までの地雷魔法とは魔法陣に描かれている模様や文字が少し違う。
すると、その魔法陣一つ一つから魔物が出現する。
「これは・・・・」
「金沢って奴の個性の力〝転送〟の魔法。ソイツが魔力を込めた札でね。一枚に付き一体の生き物を転送する事が出来るのよ」
「(花木先生の転送の指輪と同じ、個性の力を宿した道具か!)」
現れた魔獣の数は・・・・全部で二十三体。Bクラスが五体、Cクラスが九体、そしてDクラスが同じく九体であった。完全に四方八方を防がれたタクミ。
どう考えても一人の魔法使い相手に割く戦力ではないが、レイヤーはそうは思わなかった。目の前の男の強さを考えるとこの物量で丁度いい位だと判断した。
「(リーダーからはこの銀髪が現れた場合、持っている手札を全て使ってでも仕留めるよう命令されている訳だしね)」
魔物達は皆、低い唸り声を上げてタクミに今でも飛び掛かろうとしている。
タクミはその魔物達を見据えて内心で僅かに焦りを見せ始める。
「数が多いな・・・・まずい、少し時間がかかるぞ」
魔物達を全て片付ける事には自信があるが、問題はその為に費やす時間である。急いでいる今の状況ではかなり不味い。タクミは一気に決着をつけるべく、今の持てる最大限の力を解放する。
――ぶおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!――
金色のオーラを全身から発っし、構えを取るタクミ。
レイヤーと魔物達は僅かに怯むが、すぐにレイヤーが魔物達に大声で命令する。
「さあ魔物達よ!あの銀髪を食い殺せぇッ!!」
「「「「ガウウゥゥゥゥゥゥゥッッ!!」」」」
レイヤーの命を受け、魔物達は一斉にタクミへと飛び掛かった。
一方、ミサキ達の方でも緊迫した空気が流れていた。
目の前の男が言った言葉、それをミサキは理解できずに男に食って掛かる。
「私にお姉ちゃんなんて居ない?何を言っているんですか貴方はッ!今ここに居る人が私のお姉ちゃんです!!」
ミサキはセンナの腕に抱き着き男の言葉を全力で否定する。
すると、男はミサキに質問をする。
「お前の姉は事故死で死んだ・・そうだな」
「何でそんな事を・・・・」
「では、その事故の詳しい詳細を教えてもらえるか?」
「それは・・・・・・・・あれ・・えっ、あれ?」
ミサキは姉の死んだ原因を話そうとしたが、どうゆう訳か思い浮かばない。
姉のセンナはアタラシス学園で事故にあって・・・・事故にあって・・・・。
ミサキの表情がどんどん曇っていく。
――ドウシテナニモオモイウカバナイノ?――
有り得ない、こんなこと、間違っても度忘れなどではない。
でも、事故で死んだ・・・・それだけしか浮かんでこない。
「どうして・・・・」
「簡単な事さ、お前は偽りの記憶を植え付けられただけなのだから」
「いつ・・わり?」
ミサキはわなわなと唇を震わせながら隣に居るセンナに目を向ける。
センナは悲痛そうな顔をしていた。まるで、知られてはいけない真実を知られてしまったように。否、ようになどではない。まさにその通りなのだから・・・・・・。
「真実を何も知らず、偽りの記憶の姉を慕い、在りもしない死の事実に嘆き、哀れなものだ」
そして男は語りだした。
ミサキの横で悲痛に満ちている女、黒川センナの・・・・摩龍エクスという女性の正体を。