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魔法ができてしまったこの世界で  作者: 銀色の侍
夏休み 結ばれる二人編
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第三十七話 孤児

 太陽から放たれる凄まじい熱気、気温も高く、日差しの強い今は八月の真夏の季節。

 その炎天下の中、ミサキは買い物に出かけていた。彼女が目指す場所は文房具店。夏休みの宿題を片付けている際、シャーペンの芯が無くなってしまったのだ。妹から借りようと思ったが、ユウコは友達と遊びに出かけており今は不在。勝手に借りるのも申し訳なく、時間もあるために買いに行く事にしたのだ。


 「ふう、熱いな・・・・」


 そんな事をぼやきながらミサキは足を進める。

 そして目的地まであと一息の所までやって来た。


 「・・・・あれ」


 しかし文房具店に辿り着く前にミサキの足が停止する。

 彼女の視線の先に見知った人間が居たのだ。


 「レン・・・・それから、誰?」


 ミサキの視線の先には親友の赤咲レンが居り、他にも一人の女性が居た。

 見たところ若い女性だ。推定二十台後半といったところだろう。

 何やらレンと親しげに話をしている。




 「じゃあレンちゃん、また今度ね」

 「はい、近いうちにまた顔を出しますね」

 「ありがとう、あの子達も喜ぶわ。それじゃあね」


 女性はその場から立ち去り、レンだけがその場に残った。

 そこにミサキが近寄って行く。


 「レン」

 「!・・ミサキ」


 ミサキが現れた事で僅かに驚きを見せるレン。

 だが、すぐにいつもの様な雰囲気に戻りミサキに話しかけて来た。


 「どうしたのミサキ、こんな所で?」

 「私はこの近くの文房具屋さんにちょっと・・・・」

 「あ、そうなの?私もだよ」


 どうやらレンも自分と同じ場所を目指していたようだ。

 レンがここに居る理由は解ったが、もう一つ気になる事がミサキにはあった。


 「レン、さっき話していた人、レンの知りあい?」

 「え・・・・」

 「随分と親しげに話していたけど」

 「あ~~~~」


 ミサキの質問に唸り声を出すレン。

 しばらく悩んでいた様な素振りを見せる彼女だが、「まあ別にいいか」と呟くとミサキに話した。


 「まあ無理して隠す事でもないしね・・・・ここから少し離れた所に孤児院がある事知っている?」

 「え・・あっ、うん。あったね」

 「あの人はそこの院長さんなんだよ」

 「そうなの・・でもなんでレンと?」

 「ほら、私さ時々用事があるとか言って消えてたじゃん。そこに顔出していたんだよ」


 そういえばそうだ。レンは数ヵ月前からちょくちょく用事があるといってどこかに行っていた。いつもはぐらかされて結局何をしているか今の今まで解らなかったが、どうやらその孤児院に足を運んでいたらしい。ようやく謎に包まれていた親友の行動を把握できたミサキだったが、まだ一つ疑問に残る。


 「でもどうして孤児院に顔を・・・・?」


 誰かその孤児院の人間と係わりでもあるのだろうか?

 ミサキのそんな疑問にレンが答える。


 「きっかけは偶然だったんだ。その孤児院に居た子が外ですりむいて怪我したみたいでさ、孤児院まで連れてったわけよ。そこで院長さんやそこに居る子達と仲良くなってそれ以来ちょくちょく顔を出すようになったってわけ」

 「そうなんだ・・・・」

 「まあ私も小さい頃は孤児院に居たからね、親近感が湧いたってことかな」

 「・・・・・・今、なんて?」


 自分の親友が何やらものすごい事をさらりと言った気がして聞き返すミサキ。

 しかしレンは特に気にする事もなく、もう一度驚愕の事実を言った。


 「いやだからさ、私も小さい頃は孤児院に居たから親近感が湧いたってことかな・・・・って」

 「いやいやあっさりと物凄い事を言ってるよレンッ!!えっ、捨て子!?貴方がッ!?」

 「あれ、言ってなかったけ?」

 「中学時代から今日まで一度たりとも聞いた事ないよ!!そんなとてつもない事実!!」


 今更ながらに知らされた親友の新事実に興奮しながら声を荒げるミサキ。しかしレンはミサキとは対照的に落ち着きながら答えた。

 

 「まあそこまで気にしなくてもいいよ」

 「気にしなくていいって・・・・自分の事なのに随分と軽くない?」


 レンの言葉にミサキは少し唖然とする。軽い調子で言ってはいるが、レンの過去は中々壮絶なものだ。孤児院に身を置いていた、それはつまりとある事情で親を失ったか、最悪親に捨てられたかという事だ。そしてレンは――――


 「私さ、赤ん坊の時に孤児院のまん前で捨てられていたらしいんだ」


 後者であった。


 「でも正直親に対して恨みの感情は無いんだ。物心ついていた頃ならまだしも、何も覚えていない頃に捨てられたから親の事なんて何も知らないし、なにより――――」


 レンはミサキの目を見てはっきりとした声で言った。


 「今の両親が私にとっての家族だから」


 そう言ったレンの瞳にはほんのわずかな曇りも見られなかった。

 彼女にとっての家族は自分を引き取り、愛情を注いで育ててくれた今の両親なのだから。

 レンの言葉を聞き、ミサキはそれ以上は何も聞こうとはしなかった。彼女には一点の曇りも見られず、今の生活に満足している事が良く理解できたのだから。


 「そう・・・・」

 「あっ、そうだ。今度ミサキも一緒にその孤児院に行ってみる?みんなすごくいい子だよ」


 レンは笑顔を浮かべながらミサキのことを誘う。

 嬉しそうに話をするレン、そんな彼女に釣られてミサキの表情も笑顔になる。



 赤咲レン、児童養護施設で幼少を過ごした過去在り。しかし今は自分を引き取ってくれた家族の元で幸せな生活を送っていた。



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