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魔法ができてしまったこの世界で  作者: 銀色の侍
夏休み 結ばれる二人編
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第三十六話 誰かの為に摘んだ命

 J地区内にある魔法警察署、そこには日夜街の治安のために働いている警察官が大勢所属している。その中の一人、刑事である星川アヤネ。彼女も日夜様々な事件解決に尽力している。しかし、彼女の胸には一つのある事件が今でも根を張って離れずにいた。

 彼女の頭から離れない事件、それはこのJ地区から始まった連続猟奇殺人事件である。その事件の犯人は見つける事が出来たが、その姿は無残な死体となり果てていた。

 連続殺人事態は終わったが、この男を始末した人物については謎のままなのだ。勿論、彼女たちも犯人を捜そうと調べはしてみたのだが、有力な手掛かりは見つからなかった。目撃者もおらず、情報も得られず、この一件は迷宮入りとなっている。

 新たな事件は次々と起こっているため、この事件だけに集中する訳にもいかないため、この事件に関わった警察の皆も今はそれぞれ別の事件に当たっている。


 「う~~む」


 自分の机で唸り声を上げるアヤネ。

 そんなアヤネの様子を見て同僚の一人が言った。


 「星川、まだあの事件の事を考えているのか」

 「まあな・・・・このままで終わりでいいわけがないからな」

 「まあ、気持ちは分かるが・・・・だが上の連中はこの一件に余り力を入れている様にはどうにも思えないが」


 同僚の言葉にため息を吐くアヤネ。

 多くの犠牲者を出していた張本人の犯人を押さえ、連続殺人事態が終結した事で上の存在はこの事件に対するこれ以上の捜査の意欲がなくなった、とは言わないが他の件に力を注いでいるのが現状だ。他にも解決されていない事件は色々とあるのだ、まずはそこから対処すべきだと考えたのだ。


 「星川、お前が今追っている件はどうなったんだ?」

 「もう終わったよ・・・・」


 連続猟奇殺人の後、新たにアヤネが受け持っていた事件も彼女はすでに解決した。

 アヤネの今の一番の興味はこの連続殺人犯、羅刹ネロ。大勢の人間を狩って来たこの男を逆に狩った者の存在であった。

 アヤネがそんな事を考えていると、他の同僚の一人がやって来てアヤネに声を掛ける。


 「おい星川、部長からお前に話があるそうだ」

 「ん、分かった。何だろうな?」


 席を立ち、アヤネはすぐさま呼び出した部長の元へと足を運んだ。




 巡査部長、名は田沼ヒデトシ、来年で三十路となる男性だ。

 厳しくも部下想いで慕われており、アヤネも彼の事は素直に尊敬していた。

 ヒデトシはアヤネと同じ刑事部の捜査一課に所属しており、アヤネは彼が普段居る一課の部屋へと入って行く。そこにはヒデトシが自分の席に座っていた。

 

 「部長、お呼びですか?」

 「おお、来たか星川君」


 アヤネが到着したことで、ヒデトシは彼女を席に座るように促す。

 空いている席に着くアヤネ。それを確認しヒデトシは彼女に話をし始める。


 「星川君、君は以前連続猟奇殺人について捜査していたね」

 「はい、そうですが・・・・」

 「実は上からこの事件の犯人を殺害した人物を調べてほしいとの事だ」


 ヒデトシの言葉にアヤネは驚きの表情をする。

 今、自分がもっとも気になっている事件が出て来たのだ。


 「そして、キミにはこのJ地区からE地区への異動が上から言い渡された」

 「それは、やはりこの事件が関係しているからですか?」

 「それもあるがE地区内の人数補充も兼ねているのではないかと私は思う。急にこんなことを言われ戸惑うかもしれないが・・・・・・」

 「いえ、部長。私としてもこの事件は完璧に解決したいと思っていました。そのお話し、喜んでお受けします」

 「そうか、では頼む」

 「はいっ、了解です!」






 E地区内にある白色に塗装されている巨大な家。その家は外観に関しては別段違和感はない・・・・そう、外観に関しては・・・・・・。

 その家の門を開け、敷地内に入って行く一人の少年。

 アタラシス学園Bクラス所属、星野カケル。彼はその家の玄関の扉を開け、中に入って行く。


 「あら、お帰り」

 「ん・・・・」


 家の中には白衣を着た女性が煙草を吸っていた。

 オレンジ色の髪をしたショートヘアーで眼鏡を架けている。そして服装はかなり大胆なものだった。下はパンツ一枚で上はシャツを一枚羽織っているだけ、見たところブラジャ―の類は着けていない。


 「ん、だらしない」

 「いーじゃん別に、誰かに見られているわけでもないし」

 「僕が見てるけど?」

 「アンタ興味ないでしょ、こーゆーの」


 女性はぴらぴらとシャツをめくりながら答える。

 カケルは何も言わずに部屋の片隅へと行く。その近くの壁にはボタンが設置されており、そのボタンを押すカケル。するとその近くの床下が開いた。下には階段が続いており、カケルはその階段を下りていく。


 「充電するの?」

 「ん」


 頭を床から半分出している状態で返事をするカケル。

 女性は眉をひそめてカケルに不安に思っている事を聞く。


 「まさかまた〝あのモード〟になって暴れたのかしら?」

 「違う、本当にただの充電」

 「そう、ならいいけど・・・・前みたいに人を殺した、なんて勘弁してよ。処理するのが面倒なんだからさ」

 「・・・・ん」


 カケルは一つ頷くと、階段の下へと消えて行った。

 カケルの姿を見送った後、彼女は煙草を灰皿に置き、少し前に彼の起こした出来事について目を閉じ思い返し始めた。

 J地区から現れた連続殺人犯の青年を虐殺した時の事を――――






 人気のない森の中、そこには無残な姿をした青年と、それを見下ろす白猫。

 そこに一人の女性がやって来た。


 『連絡受けて来たけど・・・・まったく、何してんのさアンタ』

 『ん・・殺しちゃった。ごめん・・・・』

 『あ~も~、証拠隠滅する身にもなってよ』


 女性は死体を見ても特に驚きはせず、冷静にカケルに注意した。

 視線を移し、死体を一瞥した後、彼女はカケルに言った。


 『とりあえず証拠は隠滅しといてあげるよ。でもなんで殺したのよ?』

 『この人・・・・シグレを殺そうとした』

 『シグレ?』


 どこかで聞いたことがある名前が出てきて、記憶を辿りそれが誰なのかを思い出した。

 以前カケルが話していた同じクラスに所属している女子生徒・・・・だったはずだ。

 それにしても珍しい、彼が誰かのためにここまでの事をするとは・・・・・・。


 『とにかく先に帰ってな。後はテキトーに処理しておくから』

 『ん・・ありがとう・・・・クリエル』


 こくりと頷きその場から立ち去るカケル。

 クリエルと呼ばれる女性はカケルが立ち去った後、カケルに繋がる証拠の隠滅に取り掛かった。






 クリエルは閉じていた目を開き、意識を現実へと戻す。

 あの日、彼は自分以外の為に他者を殺す程の事をした。それはつまり、それだけそのシグレと呼ばれる少女に強い思い入れがあるということ・・・・・・。


 「どんな子なんだろうねぇ」


 クリエルは灰皿に置いていた煙草を手に持ち、煙を吸い込む。

 口に含んだ煙を空中に吐き出し、漂う煙を見ながらぼんやりとシグレという少女の事を考えていた。

 

 

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