第三十五話 発覚
タクミ達がデート場所として選択した動物園、そして魔物達が管理されている魔獣エリアと呼ばれる場所では大勢の人間が集まっていた。しかし、そこにいる皆はそのエリア内に居る魔獣を見ている訳ではなかった。エリア内では檻の外で気絶し眠っている魔獣が数匹と従業員が二人に――――
「何これ・・・・」
「氷漬けになっているみたいだな・・・・」
全身が氷漬けにされ、まるでオブジェの様に固まっている影夜ヌマの姿が在った。
そこへ園内の従業員がやって来た。
「お客様方、お下がりください!・・・・これは」
従業員は目の前の光景に言葉を失う。
檻の外で意識を失い眠る従業員と魔獣達、そしてその近くでは氷漬けとなっている男。
いきなりこんな現場を目撃して完璧に状況を把握する方が無理な話だろう。
「一体ここで何が・・・・」
従業員のそんな疑問に答えてくれる者も、答えられる者の存在もこの場では皆無だった・・・・。
そしてそのエリアに居る群衆の最後尾には先程の栗色の髪をした少年とツインテールの少女が居た。しかし、少女からは獣の耳と尻尾が消えていた。
「・・・・行くぞ」
「あっ、待ってくださいご主人様!」
従業員が来たことで、その場を任せ立ち去る少年。
その後を慌てて追いかける少女。
後ろでは従業員が仲間の応援を呼び、その場の対処にあたっていた。
動物園から少し離れた場所で人通りの少ない開けた場所に居るタクミとミサキ。
タクミは自前の時計を見て呟いた。
「そろそろ帰るか・・・・」
時計の時刻は夕方の五時を指しており、帰るにはいい時間帯だろう。
不思議なもので、これが最後の別れでもないにもかかわらずどこか寂しさを感じる二人。夏休みはまだまだ残っており、これからも何度も顔を合わせる筈なのに・・・・・・。
「行くか・・送っていくよ。転送の指輪があるとはいえ一応な・・・・」
「うん・・・・」
二人は帰路へと着こうとする。
それぞれ暮らしている家は違うため、必ず別れなければならない。ならばせめてその時までは一緒に・・・・そんな想いを抱きながら二人は互いの手を少し強く握ったのだった。
同じ頃、動物園から二人の男女が出て来た。
先程の栗色の髪をした少年とツインテールの少女だ。
「ご主人様、今日は連れて来てくれてありがとうございました!」
「ふん・・・・お前がいつまでも耳障りに騒いでいたから仕方なくだ」
「えへへ~、どこでもいいからご主人様と遊びに行きたかったんです!!」
少年は小さくため息を吐く。
やはりあの日、鳴いていたコイツを無視して捨て置けばよかった。そんな少年の考えなど知らず、少女は少年の腕に抱き着いて甘えて来る。
「ご主人様、今日は何が食べたいですか?腕によりを掛けて作りますよ!!」
「離れろ、鬱陶しい」
それなりに育っている豊満な胸を押し付けられる少年だが、その顔には喜びなど微塵も感じられず、むしろ邪魔にさえ感じていた。
すると、少女から獣の耳と尻尾がぴょこっと飛び出してきた。
「おい、出てるぞ」
「あっ、いけない」
一方、ミサキは自分の自宅の前まで来ていた。
目的地にも着いたため、少し名残惜しそうに繋いでいる手を離すミサキ。
「じゃあ、タクミ君。またね・・」
「ああ・・またな」
タクミは別れる前にミサキの頭を優しく撫でた。
彼の手のぬくもりを頭に感じながら、一抹の寂しさを感じるミサキ。
「それじゃあ・・・・またな」
「うん・・・・」
離れていくタクミの姿にミサキは寂しさを感じながら家の中へと入って行った。
すると、玄関に妹のユウコがやって来た。
「お帰りお姉、遊びに行ってたの?」
「え・・う、うん。まあね・・・・」
ミサキはまだ家族にはタクミと交際している事実を報告していない。どうにも切り出しづらく、中々話す事が出来ないのだ。特に両親には言いずらかった、母はともかく父親に話して反対でもされたらどうしようと考えてしまうのだ。
しかし言いずらい反面、早いうちに話した方が良いのではと思うミサキ。
「あれお姉、その袋何?」
ユウコはミサキが動物園で買ってもらった人形を入れてある紙袋に目をつける。
ミサキに近寄り中身を覗くユウコ。そして中に入っていた兎のぬいぐるみを素早く取り出した。
「あっ、こら!」
「ふ~ん、うさちゃんのぬいぐるみかぁ~・・どうしたのこれ?」
「か、買って来たの、可愛かったから!」
ユウコの手からぬいぐるみを取り戻すミサキ。
ユウコはそんなミサキの言葉に訝しむ。
「それ、お姉が自分で買ったの?」
「えっ・・・・そ、そうだよ。どうしてそんな事聞くの・・・・?」
「だってお姉、そういうぬいぐるみとか買わないじゃん。部屋にだってないし・・・・」
ユウコの言う通り、ミサキはユウコと違いこういうぬいぐるみの類は基本自分から買わない。
ユウコの指摘にミサキは内心焦りを見せ始める。
ミサキのどこかおかしい様子にユウコは一つ鎌をかけてみる事にした。
「良かったねお姉、あの久藍って人からプレゼントが貰えて」
「えっ、うん、私のためにわざわざ買ってく・・・・・・あぁっ!?」
「ふ~~ん・・・・・・」
驚くほどあっさりと引っかかるミサキ。
慌てふためく姉の姿をユウコは呆れた顔をして眺めていた。
こうして、妹のユウコにばれ、その後両親にもこの事実を知られるミサキ。その際、母のモエは笑顔だったが、父の顔は複雑そうなものだった。しかし、ミサキの一番心配していた反対の言葉は出なかったので一安心するミサキ。
だが――――
「ミサキ、今度その男の子を家に連れて来てくれないか?」
「へ・・・・」
父親のこの一言がミサキに新たな不安の種を蒔いたのだった。