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魔法ができてしまったこの世界で  作者: 銀色の侍
夏休み 結ばれる二人編
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第三十四話 初デート2

 とても甘い昼食時間をとった二人は、食べ終わった後は再び動物達を見て回る。しばらく歩き、そして二人はあるエリアに辿り着いた。

 そのエリアの入り口前で一度立ち止まる二人。


 「魔獣エリア・・・・ここからは魔物達が居る場所だな」

 「うん、少し緊張するよね」


 二人が辿り着いたエリアは魔物が住み着いている魔獣エリアだ。この動物園の一番の目玉となる場所と言えるだろう。昔と違い今では人に慣れている魔物も居る時代な為、今ではこのように動物園の様な場所で飼われている魔物も決して少なくはない。しかし、動物園内で暮らしているからといっても全てがおとなしいわけではない。中には凶暴な魔獣も居るため多少の緊張はする。特にミサキは魔物に襲われた経験もあるのだからなおさらだ。


 「ミサキ、ここに入っても大丈夫か?」

 「平気だよ、確かに私は魔物に襲われた経験があるけどそれはこの場所に居る子達とは別の物と考えているから」

 「そうか・・よしっ、じゃあ行くか」

 「うん」


 こうして魔獣エリアへと足を運んでいく二人。この時、二人は気付いていなかった。


 「・・・・・・」


 彼らの少し離れた背後に、二人の事を尾行する黒い影に・・・・・・。




 魔獣達の居るエリアには魔力が充満していた。魔物は体内に魔力を持っているため、その魔獣達が集合しているこの空間には多くの魔力が感じられるのだ。

 エリア内に居る魔獣達は普通の檻ではなく、強力な結界を張ってあるため魔獣達も外に出ることは叶わない。

 ちなみにこの動物園内に居る魔物達は〝Cクラス〟や〝Dクラス〟の魔物のため、万が一逃げ出されたとしてもこの園内に居る魔法使いの従業員達で対処できるレベルだ。




 今更ながら、魔物には5段階のクラスがある。一番低いクラスがD、そして一番高いクラスがSである。D、Cのクラスはミサキ達の様な学生の魔法使いでも十分対応できるレベルであり、Bクラスはそこそこの強さを誇るため、それなりの強さを兼ね備えている者でなければ対処できない。Aクラスは一線を越えた魔法使いでなければ太刀打ちできない程に強大な存在である。


 そしてSクラス・・・・これは一つ下の段階のAとは比較にならない存在だ。過去にこのクラスの魔物が出現したのは一度だけである。それまではランクはAからDまでの四段階であった。しかし、一つの巨大都市をたった一匹で壊滅の危機にさらす程の怪物が出現し、その存在がSランクを生み出した。

 このSランクの魔物だが、これを討伐した人物は謎に包まれている。詳細は一切不明であり、解っている事は一人の大魔法使いであるという事位だ。




 檻の中にいる魔物達はパッと見では凶暴そうな獣ばかり。

 ミサキは少しドキドキしながらもそれらを見ていく。すると、タクミはミサキのそんな緊張を感じ取ったのか、優しく彼女の手を握った。

 タクミの行動にミサキは安心感を覚える。正直、自分だけではこういった場所に足を踏み入れるのに躊躇いがあったかもしれない。しかし、傍にタクミが居る事でミサキのそんな感情は柔らいでいく。

 ミサキはタクミの手を握り返す。その手が決して離れないように・・・・・・。




 魔獣エリアを出た二人、これで一通り園内の動物達は見て回った。

 最後に二人は土産物が置いてあるショップのお土産コーナーへと足を運んだ。そこでタクミはミサキに聞く。


 「ミサキ、何か欲しい物あるなら買ってくぞ」

 「え、いいよ、そんな事気にしなくて」

 「いいって、わざわざ来たんだ。何か一つ位は買わせろよ、彼氏として」

 「う~~ん」


 そう言われるとミサキとしても断りづらく、店内を色々と見て回る。

 そしてしばらくすると、一つ目に留まる物があった。


 「じゃあ、これ・・」


 ミサキが選んだのは可愛らしい兎のぬいぐるみだった。

 大きさはふれあいコーナーでミサキが抱いていた兎と同じくらいのものだった。


 「よし分かった、じゃあ会計しに行くか」


 買う物も決まり、レジで会計をしに行こうとする二人。

 レジの受け付けは高齢のおばちゃんで、彼女はタクミとミサキを見て会計をしながら言った。


 「あら、彼氏からのプレゼントかしら。大切にしなさいよ」


 おばちゃんの発言にミサキは少し照れながら小さく頷く。

 隣にいるタクミもおばちゃんの発言を聞いて、頭を掻きながら照れくさそうにしていた。

 会計も終わり、二人はお土産屋の外に出る。時刻はまだ三時を少し過ぎた位で、時間にはまだ余裕がある。


 「ミサキ・・・・動物園を出た後、少し歩かないか」

 「・・・・うん」


 特に目的があるわけでもない。ただ、残った時間をミサキと二人だけでのんびりとしたかった。ミサキも同じ思いのため、タクミの提案に頷く。

 こうして二人は動物園の外へと出て行った。






 そしてタクミたちが園内を出たと同時に実はある問題が動物園で発生していた。

 場所は魔獣エリア、そこでは――――


 「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!!」

 「うおぉぉっ、何とかしてくれ!?」


 そのエリア内に居る人達の悲鳴が行き交っていた。


 「ぐるるるるるるるるッ」

 「がるるるるるるるるッ!!」


 なんとそのエリア内に居る魔物が数匹檻から出ているのだ。

 その場に居たお客達は皆、必死に走ってその場を離れる。

 檻に貼ってあった結界はどうゆう訳か力づくで外されており、近くに居た二人の従業員は魔法を使い、力づくで魔獣たちを押さえようとする。だが――――


 「なっ、うわぁぁぁぁぁ!!」

 「!、おい、どうしたッ・・・・あれ?」


 突然従業員の一人が叫び声を上げたので、もう一人が振り返るが、そこには今まで一緒に居た筈の従業員の姿はなかった。

 どこえ消えたのかと辺りを見回す従業員だが、次の瞬間――――


 「うおっ!?」


 突然体が地面に引きずり込まれる感覚に陥る従業員。自身の下を見ると、彼の体は地面に浮かび上がる黒い影に引きずり込まれていた。脱出を図ろうともがく従業員だが、その抵抗も空しく影に飲みこまれてしまった。

 そしてその影からは別の人間が出て来たのだ。その人物はミサキを狙う存在の一人、影夜ヌマであった。

 彼は個性使いであり、その力は〝影〟である。この園内に勤めている従業員二人を飲み込んだのも彼の影を使った魔法である。


 「さて・・・・じゃあ魔物君たち、お前たちも影の中においでっと」


 ヌマの足元の影は徐々に大きさが拡大していき、影の覆われる領域が広がっていく。

 彼の影は彼の個性魔法そのもの、普通の影とは違い魔力を込める事でその大きさを変える事も可能だ。

 魔物達はヌマから放たれている影に警戒し、後ずさって行く。


 「お前達もいざという時の為の戦力として使わせてもらぜ。結界を壊して外に出してやったんだから恩返しはしてくれよな」


 ヌマが今回ここに訪れた理由は二つ、一つはタクミとミサキの様子を見るため、そしてもう一つがここに居る魔獣達であった。戦力として利用する為に魔獣達を攫おうとしているのだ。


 「ぐるるる・・・・」

 「がぅ~~ッ!」


 徐々に近づいて来る影に魔物達の声には怯えが見え始める。

 そしてついに影が魔物達を捉えようとした時――――


 「ご主人様、あの子達が!!」

 「ん?」


 突然聞こえて来た大声に振り返るヌマ。

 自分以外の人間が逃げていったこのエリアに二人の人間が現れた。一人は栗色の髪をした少年、もう一人は黒髪のツインテールで頭からは猫耳、お尻の部分からは尻尾が生えている少女だった。


 「(何だ、あの女の恰好は・・・・コスプレか?)」

 「ご主人様!あの子達が助けを求めていた子達です!!」


 猫耳少女は自分が連れて行こうとした魔物達を指さしながら隣の少年に訴える。少年はため息を吐きながらヌマへと話し掛ける。


 「おいお前、そこの魔物達から大人しく手を引け」

 「はあ?なんで関係の無いお前がでしゃばるんだよ」

 「俺としてもそこの魔物達が捕まろうが殺されようがどうでもいいが、隣にいるバカ猫がうるさくてかなわないんだよ」


 少年は心底面倒くさそうな顔で言った。

 ヌマは笑みを浮かべながら少年に向かって言う。


 「嫌だと言ったらどうする気だ?」


 少年は凍えるような冷めた目を向けながら言った。


 「力づくで押さえつけるまでだ・・・・」






 自分たちが先ほどまで居た場所でそんな問題が発生している事など知らずに、タクミとミサキは近くの人気の少なさそうな道を歩いていた。しばらく歩くと近くにベンチを見つけ、二人でそこに座る。


 「今日は楽しかったな」

 「うん、タクミ君にデート場所選んでもらって正解だったね」

 「ははっ、少しベタかと思ったんだけど楽しんでもらえたのなら良かったよ」


 今日のデートの感想を互いに言い合う二人。それからしばらくその場で他愛ない話をする二人、そしてしばらくし、ミサキはタクミに少し躊躇いながら思い切って聞いた。

 

 「ねえ、タクミ君・・・・」

 「ん、何?」

 「その、後悔していない?」

 「・・・・それは自分が狙われているからか?」


 ミサキはこくんと小さく頷く。

 タクミはそんなミサキの肩に手を置き、はっきりとした声で言った。


 「後悔なんて微塵も無い、むしろそんな理由でお前を諦める方が後悔するに決まっているだろ」

 「タクミ君・・・・ありがとう」


 ミサキは本当に嬉しそうな顔でそう言った。

 見つ合う二人、その距離は徐々に縮まりそして・・・・二人の唇が一つに重なった。



 少年の熱く強い想い、少女はその想いを無駄にしない為にも、もう後悔しないかなどとは聞かないことにした。

 

 なにより、少女も少年からもう離れたくないと強く願っているのだから・・・・・・。

 


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