第三十三話 初デート
爆発魔法の使い手、河川レイヤーという女との激闘により大怪我を負ったタクミだったが、今は無事に退院していた。
日付は七月三十日となり、そして今日はミサキと動物園の入り口前に来ていた。
何故動物園に二人で?・・・・決まっている。
「じゃあ行こうか」
「うん」
仲良く手を繋ぎながら動物園に入園する二人。
今日は・・・・二人の初デートの日なのだ。
園内に入るとそこには大勢の人間が訪れていた。犬や猫の様な一般でよく目撃される動物ではなくここでしか見られないような動物がここには多く生活しているのだ。長期休みを貰った者ならば暇を潰せる絶好の場所の一つなのだから当然だろう。
二人もさっそくここの動物達を歩きながら見て回る。
最初に訪れたエリアは長い首が特徴のキリン。
「うぉ~、長いなー」
「うん、あんなに高いところから見た景色ってどんな感じなんだろうね」
次に訪れたのは象のエリア
「おおー、長いなぁー」
象の鼻を見てそう言ったタクミをミサキは思わず笑ってしまう。
突然笑われた事を疑問に思うタクミ。
「なんだよ急に」
「くす、だってタクミ君同じ感想言っているんだもん」
くすくすと笑いながら答えるミサキ。
その指摘を受けたタクミは恥ずかしさの余り、少し頬が赤くなっていた。
その後も二人は様々な動物を見て回り、次にやって来たのは兎とのふれあいコーナーだ。
「わあっ、可愛い♡」
ミサキの視線の先にはふあふあの毛をしている兎達が柵の中に居た。
柵の扉を開けて中に入る二人。すると兎達が二人の足元にそろそろと近づいてきた。
その内の一匹の兎を抱っこするミサキ。
「ふふ、よしよし」
腕の中に居る兎の頭を優しく撫でるミサキ。兎は気持ち良さそうに目を細めている。
一方タクミの方は・・・・・・。
「あっ、こらっ!ズボンの裾を噛むんじゃない!!」
タクミの方に居る兎の一匹はタクミのズボンの裾を噛み、もぐもぐと口を動かしている。そんな兎を引っぺがそうとするタクミ。
ミサキは笑いながらその光景を眺めており、その視線に気付いたタクミは苦笑いをする。
ふれあいコーナーを出た後も二人は園内の様々な動物達を見て回り、そして時間はお昼時となった。
ミサキがタクミにそろそろ昼食にするかどうかを聞く。
「タクミ君、そろそろお昼にする?」
「ああ・・・・そうだな」
ミサキの提案に賛成するタクミ。実はタクミは今日、この時を秘かに楽しみにしていたのだ。
その理由は・・・・・・。
「じゃあどこか近くの休憩所に行こう。その・・・・お、お弁当・・作って来たから・・・・」
「ああ、ミサキの弁当、凄い楽しみだな」
ミサキは今日、タクミの為に自らの手で作った手作りのお弁当を持参して来たのだ。
その事を知ったときのタクミの心境は思わずガッツポーズを取りたくなるほどの喜びに溢れていた。恋人の手作りのお弁当、彼氏の立場からすればこの上なく嬉しいシュチュエーションだ。
少し歩き休憩所を見つけた二人、他には誰も居らず内心喜ぶタクミとミサキ。せっかくの初デートだ、二人だけでいたいとも少しは思ってしまう。
「はい、タクミ君」
「おおっ、うまそう!!」
ミサキは鞄の中から可愛らしい弁当袋に入っている少し大きめの弁当箱を出した。
蓋を開け、中身を披露するミサキ。その中身は卵焼きやウインナー、空揚げやミートボールにプチトマト、きんぴらごぼうを始め、お弁当では定番の物が入っていた。
「ごめんね、手作りと言っても中にはレンジで温めただけの物もあるけど」
「いやいや、すごいうまそうだって」
恋人に褒められ、嬉しそうな顔をするミサキ。
ミサキは箸をタクミに配り、タクミに勧める。
「じゃあ食べてもいいよ、はい」
「ああ、いただきますっと」
弁当箱の中から卵焼きを掴み、それを頬張るタクミ。
ミサキはタクミの感想をどきどきしながら待っている。
口に入れた卵焼きを咀嚼し、そして飲み込むタクミ。食べ終わるとタクミは笑みを浮かべてミサキに味の感想を言った。
「うまいッ!この卵焼きほんのり甘みがあってすごくいい味してるぞ」
「は、本当!、良かった~」
タクミの評価にミサキは嬉しそうな顔をする。
特にこの卵焼きはレンジで温めた物ではなく完全な手作りであるため嬉しさも一層だ。
タクミは次に唐揚げを食べようかと箸を伸ばすとミサキがそこで一旦待ったをかける。
伸ばしていた手を止めどうしたのかと思うタクミ。ミサキは自分の箸を取り出すと、タクミの食べようとしていた唐揚げを掴み・・・・・・。
「は、はいタクミ君、あ、あ~ん」
「!?」
ミサキがタクミの手を止めた理由はこれ、自分がタクミに食べさせようと思ったからだ。ミサキのこの行動にタクミの胸の鼓動は高まりを見せる。
自身の胸から出ている大きな鼓動音を聞きながら、タクミはミサキの行為に答える。
「あ、あ~ん」
口を開けてミサキに唐揚げを入れてもらう用意をするタクミ。その姿はまるで親鳥から餌を求める雛のように見えてしまう。
タクミの口に唐揚げを入れ、食べさせてあげるミサキ。この時、両者の頬は赤く染まっていた。
「どう、お、おいしい?」
「あ、ああ。すごく・・・・」
おいしいと言ったタクミだが、ミサキに食べさせてもらった事で緊張の余り味など分からなかった。
唐揚げを飲み込んだ後、お返しに今度はタクミが唐揚げを箸で掴みミサキの口元へと持っていく。
「ミサキ・・あ、あ~んしろ」
「う、うん・・・・」
今度はタクミがミサキに食べさせてあげる。
ミサキもまた、食べた物の味など分からなかった。
こうして二人はとても甘い昼食時間をとっていったのだった。