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魔法ができてしまったこの世界で  作者: 銀色の侍
夏休み 結ばれる二人編
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第二十九話 口づけ

 真っ白な空間、そこに一人の少年がその空間に用意されているベッドの上で横になっていた。 

 整った顔に、銀色の髪をしている少年・・・・久藍タクミだ。


 「ん・・・・うん?」


 ぼやけている意識が少しずつ正常に戻っていく感覚を少年は味わう。そして感覚が少しずつ正常に機能し始めると肉体も動きを見せ始める。少年は倒れている上半身をゆっくりと起こした。

 眠りから覚めたばかりゆえにまだ頭が完全に機能しておらず、半分は寝ぼけている様に周りに視線を巡らせる。しかしすぐに意識は完全なものになり、少年は少し驚きながら改めて覚醒した状態で辺りを見回す。


 「ここは・・・・病院・・か?」


 タクミの今居る場所は一人部屋である個室であった。部屋の内装は清潔感が溢れるような真っ白で、部屋に備わっているテレビや冷蔵庫、ベッドに備わっているナースコールの為のボタンなどからそう判断した。

 自分の今居る場所を把握した後は、次に何故ここに居るのかを考える。

 自分のぼやけている記憶を辿っていき、タクミは全てを思い出した。


 「(そうだ・・俺は爆発使いの女と戦って勝利はしたものの、その後に意識を失ったんだ)」


 自分が病院に居る理由もそれで解った。だが、ここでまた一つの疑問が生まれる。


 一体誰が自分をここに運んだ?


 あの時、周囲には誰もおらず、自分以外に居た人間は襲撃して来たあの女だけ、まさか襲撃者が自分の事を助けたというのはありえないだろう。それでは矛盾しているのだから。

 考えを巡らせるタクミ。すると、病室のドアが開いた。

 開いたドアに目を向けると、そこには自分がよく知っている人物・・・・ミサキが居た。


 「タクミ・・・・君」

 「ああ、ミサキか。なあ、何で――――」


 「俺はここに居るんだ?」という彼の言葉は最後まで言えなかった。


 ミサキがタクミに抱き着いてきたから・・・・・・。


 「ミサキ・・・・」

 「よかっ・・た、ぐすっ・・・・よかったよぉ~、ヒック・・・・」

 

 ミサキは涙を流しながらタクミに強く抱き着く。そんな彼女を見てタクミは思わず謝っていた。


 「ごめん・・・・心配かけて・・・・」

 「ううっ・・・・ひっくっ、ぐす・・・・」

 「ごめん・・・・・・」


 ミサキの頭を優しく撫でるタクミ。するとミサキ以外にも二人、タクミの病室に入って来た者たちがいた。

 

 「タクミ君!よかった~、目が覚めたんだ!!」

 「赤咲さん、病院内でそんな大声を出してはいけませんよ」


 現れたのは友人のレンと担任であるチユリであった。

 彼女たちはタクミに近づき容体を尋ねる。


 「久藍君、体の方は・・・・」

 「大丈夫な訳?」

 「ああ、とりあえず少しだるいが・・まあ問題はない」


 タクミの言葉にとりあえずほっとする二人。

 ミサキはまだ涙を流していた。そんな彼女をレンが落ち着かせようとする。


 「ミサキ、タクミ君は大丈夫だよ・・・・だからほら、一度落ち着いて」


 親友に優しい言葉で語り掛けるレン。

 ミサキもタクミが目覚め、体にも異常が無い事を知ったため、大分気も落ち着いてきた。

 タクミから離れ、自分がわき目も降らずに抱き着き泣きじゃくってた事を少し恥ずかしく思いタクミに謝る。

 

 「ごめんタクミ君。みっともない事しちゃって」

 

 ミサキのそんな謝罪にタクミは首を横に振った。


 「謝るのは俺の方さ・・・・色々、心配かけたな・・・・皆、悪い・・ッ!」


 タクミは三人に頭を下げて謝る。

 そんな中、チユリはタクミに何があったのか、その詳細を求めた。


 タクミは自分の身に起こった出来事を皆に説明した。爆発の魔法を操る女、そして金沢と同様にそいつもミサキを狙っている事を・・・・・・。

 話を聞いている最中三人は驚きを表していた。ミサキがやはりまだ狙われている事が証明されたのだから当然だろう。

 タクミは自分の知っている事を全て話し、今度は逆に三人に質問をした。どうして自分がここに居るのかを。しかし、その質問に対してチユリが答えたのだが、その答えは新たな疑問を抱かせるものだった。


 「それが分からないんですよ。黒川さんからタクミ君がこの病院に居るという電話を私と赤咲さんは受け、そして黒川さんは・・・・・・」


 言葉を途中で切り、チユリはミサキの方に目を向ける。

 そしてチユリの言葉の続き、ミサキが話し始めた。


 「タクミ君、私は公衆電話から掛けられてきたの。タクミ君がここに居る事をその人は教えてくれたんだけど――――」






 ミサキは妙な胸騒ぎを感じながら自宅のソファーに座っていた。

 今は両親が外出しており妹も遊びに行っているため家にはミサキ一人しかいない。いいようの無い不安を抱えているミサキ。すると・・・・・・。


 ――プルルルルルルルルルルッ――


 家の電話が鳴り響く。

 電話には公衆電話からと出ていた。


 『誰かな・・・・?』


 疑問に感じながらも、すぐに電話を取り受話器を耳元へと持っていく。


 『はい、もしもし?』

 『久藍タクミが〝ヒール・キュア〟という病院にいる』

 『えっ、何を――――』

 ――ガチャッ――


 たった一言のメッセージを相手は告げるとそのまま電話は切られた。

 ミサキは多少混乱しながらも相手の言った言葉の真偽を確かめる為、その病院に連絡を取ってみた。そしてその通報が偽言の類ではない事を知った。






 ――――そんな電話があったため、ミサキはこの病院に居た。

 

 「・・・・相手の声なんだけど、なにか、ボイスチェンジャーの様な物が使われていたみたいな声で男性か女性かも解らなかった・・・・・・」

 「そうか・・・・考えられるのはその人物が俺をここまで運んできたとしか考えられないよな」

 「病院の人の話だと・・・・タクミ君は病院入り口の前で寝かされていたみたい」

 「そうか・・・・」


 ミサキの話から整理すると自分をこの病院まで運んできたのはミサキに電話を掛けた人物だろう。だがなぜ相手は自分の事を何も語らなかったのか・・・・それに俺の状態を知っているという事は俺とあの爆破女との戦いを見ていた?しかもミサキに電話を掛けたという事は俺とミサキが繋がりを持っている事を知っている。


 「(一体・・・・誰だ?)」


 自分を運んできた人物に対しての疑問はあるが、今はそれよりも自分と戦った相手についての事が重要だ。もしかしたらまだあの河原に居る可能性もある。

 タクミはチユリにその事を話した。


 「先生、俺が戦った女ですが、もしかしたらまだ俺が戦闘を行った場所にいるかもしれません。そいつも俺と同様倒れましたから」

 「!、分かりました。ここからその位置は解りますか?」






 病室には現在タクミとミサキの二人だけとなっていた。

 チユリは学園長に報告後、その戦闘が行われた付近の確認に行き、レンもそれに同行していった。チユリはレンに残るよう言ったが、レンも折れようとせずに結局ついて行った。

 チユリの個性〝転送〟の力を使う事で目的の場所まで瞬時に移動する事が出来る為、彼女ならすぐに確認を行う事が出来る。


 二人のいる病室は静寂に包まれていた。

 ミサキの様子が何かおかしいのだ。彼女はベッドの近くの椅子に座り、顔を俯かせている。その表情は分からない。

 

 「あ、タクミ君。さっき聞いたんだけどタクミ君の退院は二日後らしいよ。傷は魔法で回復されたけど念の為という事で明日も病院内で様子をみたいんだって・・・・」

 「そうか・・・・」


 タクミの言葉の後、再び静寂が訪れる。

 それから数分後、ミサキがタクミに言った。


 「タクミ君・・・・もう私には関わらないで・・・・」

 「ああ・・えっ」


 一瞬同意したタクミだが、すぐさまミサキの言った言葉に疑問の声を洩らす。

 ミサキは俯いていた顔を上げ、タクミの目を見て言った。


 「タクミ君がこれ以上、無理をする理由なんかないよ」

 「無理って・・・・」

 「私といるとタクミ君はまた無茶な事をするでしょ。だから、もう私に関わって傷つく必要はないよ」

 「ミサキ、何を言って――――」



 「これ以上タクミ君が傷つく必要はないッッ!!!!」



 ミサキは椅子から立ち上がり大声でタクミに叫んだ。

 彼女の瞳からは涙が零れていた。


 「ミサキ・・・・」

 「もうっ!もう嫌だよ!!私のせいで、タクミ君は傷つき、病院に送られるほどの怪我をした!!タクミ君が戦っている相手の狙いは私なんでしょ!!だったらタクミ君が私以上に苦しみ、傷つく必要なんてないじゃないッ!!!!」

 「・・・・・・」

 「もういいから!・・・・もう。もう私のために戦わなくていいから・・・・だからお願い、私の事はもう放っておいて」


 涙をぽろぽろ零しながらミサキはタクミに言った。

 タクミは無言でベッドを降り、そして――――


 ――ギュッ――

 強く彼女を抱きしめた。


 「ミサキ、それは無理だよ」

 「・・・・どうして?」

 「俺がお前を守ろうとするのはミサキの為だけじゃない・・・・俺の為でもあるんだ」

 「タクミ君自身の為?」

 「ああ、そうだ」


 タクミは抱きしめているミサキの体を離し、彼女の両肩を掴み、目を見てはっきりと言った。


 「俺は、俺の大好きな子を失いたくないから戦っているんだ」

 「!!・・・・タクミ・・君」

 「ミサキ、俺はお前が好きだ。絶対に失いたくないんだ・・・・だから」

 「・・・・・・」

 「お前と関わる事を辞めるなんて、繋がりを絶つなんて事はしたくない」

 「タクミ君」


 ミサキの瞳から大粒の涙が零れる。タクミは彼女の目元を指で優しくなぞり、涙を拭ってあげる。

 二人は互いに相手の事を見つめ合う。ミサキの瞳は微かに潤んでいる、しかしそれは悲しみから来るものではなかった。

 

 「タクミ君・・・・」

 「ミサキ・・・・」


 二人はしばし見つめ合い、そして――――


 「ん・・・・」

 「んん・・・・」


 二人の唇が一つに重なった。

 愛おしそうに口づけを交わす少年と少女、二人の心は今、幸せに満ち溢れていた。



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