第二十四話 真夏のプール3
タクミたちはプールで楽しんだ後、時刻は昼の三十分近くまで経過していた。
そろそろ昼食を取ろうとする三人は一旦プールを出て近くの屋台近くに移動する。
「じゃあ俺が買ってくるよ、何がいい?」
「私は焼きそばかな~」
「私はたこ焼きがいいな」
「よし、分かった。じゃあ買ってくるよ」
「あ、私も行くよ。一人で全部持つの大変でしょ」
屋台に向かうタクミにミサキも一緒に付いて行く。その後ろ姿をレンは微笑ましものを見るかのように眺めていた。
親友の恋愛を応援している身としてはあの二人が一緒にいることは良い事だろう。
「(でもいいよなぁ~、ああいう二人の関係って・・・・私だって正直、恋愛に興味だってあるんだし)」
そんな事を考えていると・・・・
「ねえキミ、今一人?俺とちょっと暇でもつぶさない?」
レンに声を掛けて来たのは先程メイをナンパしていた男。まったくこりる事なくターゲットをレンに変えて先程と同じように口説く。
レンは盛大にため息を吐きながら呟いた。
「ミサキと違ってなーんで私にはこんなのが寄り付くのよ・・・・」
「ねえって「うっさいわーっ!」、うおっ!?」
レンの手元にはいつの間にかある物が握られていた。
それはみたところハンマーのようで、強い魔力を宿していた。
武器の名前は通称〝インパクトハンマー〟、レンが武器として使用している魔道具である。基本の魔法の一つ、≪換装≫を使用し自身の所持する武器を装備する魔法を使ってこの場に呼び寄せたのだ。
「早くどっかいかないとどかんだよッ!!」
「ひぃっ、今すぐ消えます!!」
ナンパ男は全速力で走り去っていた。
レンは鼻を鳴らして、男を睨みながらハンマーを手元から消す。
そこへタクミとミサキが帰って来た。
「お待たせ、ん・・どうかしたのかレン?」
「なんだか機嫌悪そうだけど・・」
「あー、何でもないよ。それより早く食べよ」
いちいち話すのも面倒なので適当にはぐらかすレン。
買って来た焼きそばやたこ焼きの容器の蓋を開け、三人は昼食を取った。
昼食を取り終わった三人は、食べ終わったばかりですぐに泳ぐ気にもなれずテーブルの上で談笑をする。
そして、話をしながらレンがふっと思う。
「他の皆は何してんのかなぁ~」
「案外ここに来ているんじゃないか?」
タクミの言う通り同じAクラスの人間がここに訪れているのだが、実は他のクラスからも足を運んでいる生徒達がいたのだ。
〝アクアセブンランド〟の目玉の一つである流れるプールのエリア方面では――――
流れるプールのエリア、そこにアタラシス学園の生徒がいた。
「ん~~~~~~♪」
それはBクラス生徒、星野カケルである。
彼は浮き輪に乗りぷかぷかとプールの水に流されている。
そして彼の近くにも二人、アタラシス学園の生徒が・・・・。
「随分と気持ちよさそうだなカケル」
同じくBクラス所属の生徒、神保シグレと、そして・・・・。
「本当、のんびりとした子よね」
三年生、風紀委員長の天羽ネネが訪れていた。
カケルとシグレはともかく、何故彼女まで一緒にいるかというと、実はシグレから誘われたのだ。
それは、昨日のカケルとの電話でのやりとりが原因だった。
『ねえシグレ、シグレって夏休みどうするの?』
『そうだな・・・・勉強や鍛錬、それから・・・・』
他に予定が思い浮かばず考え込むシグレ。
そんな彼女の様子を感じ取ったカケルがボソッと呟く。
『やる事ないんだ・・・・寂し』
――ザクゥゥゥッッ!!――
カケルのそんな一言がシグレの胸を貫く!
だが確かに、そう言われると寂しいといえば寂しいのも事実であった。
寂しい女と思われたくなかったのだろう、咄嗟に彼女はカケルに言った。
『ち、違うぞ!他にも予定はある!例えば・・・・明日は風紀委員長と一緒に最近できたプールに行く約束を取り付けているわけだしなッ!!』
『友達ではないんだ・・・・』
『い、いやその・・そうだッ!お前も誘おうとしていたんだ!だから必要以上に声を掛けて大所帯になるのも面倒だから他の者にはあえて声を掛けなかったんだ!!』
などというやり取りが昨日にあり、シグレは急いでネネに連絡をした。
幸いネネも今日は何も予定がなかったため、この〝アクアセブンランド〟に来る事ができた。
「それにしても、貴方からプールに誘われるなんて正直思いもしなかったわ」
「すいません、付き合ってもらって・・・・」
「構わないわ・・・・ねえ神保さん、あの子が転校してきて良かった?」
ネネはカケルを見ながらシグレに言った。
シグレは突然の質問に少し戸惑う。
「それは、どういう事ですか?」
「あの子の言う通り、貴方には友人がいなかったんでしょ?」
「うぐっ・・・・」
痛いところを付かれて小さなうめき声を上げるシグレ。
実際、堅物な彼女とはクラスの皆も付き合いずらく、特別親しい間柄の者はシグレにはいなかった。しかし、カケルが転校してからは彼といる事が多く、彼女も年相応の少女としての一面を見せる様にもなったのだ。シグレ自身も彼の出現によっての自分の変化は自覚していた。
「いい変化じゃない、今の彼との関係を大事にしなさい」
「・・・・・・・」
ネネはそう言って流れる水に沿って泳いでいく。
シグレは流れる水の働きに抗いその場で立ち止まり、視線の先にいるカケルへと目を向ける。
「いい変化・・・・か」
一言そう呟くと彼女はその場で潜り、カケルの元まで泳いでいった。
楽しい時間というものはあっという間に過ぎて行くもので、時刻はもう四時を過ぎていた。
タクミ達も存分にプールを満喫し、そろそろ帰る事にした。
「そろそろ行くか」
「うん、そうだね」
「あっー泳いだ泳いだ!」
三人はプールを出て、プールの水を洗い流すために共同シャワーに向かい、そこで水を洗い流して更衣室まで移動する。そこで再び男子と女子で別れて着替えをするタクミたち。
タクミはすぐに着替え終わり外に出ていたがミサキとレンは・・・・・・。
「やっぱり大きいねぇ~」
――ふにょん――
「ひゃあっ!?もうまた!!」
・・・・レンのちょっかいで少し時間がかかっていた。
タクミが出てから約十分後、ようやくミサキたちも出て来た。
全員揃った事で三人は〝アクアセブンランド〟の出入り口まで移動する。
〝アクアセブンランド〟を出た後、途中までは家まで同じ道のりなので三人は一緒に帰宅する。
帰路につきながら三人は今日一日の出来事を振り返っていた。
「いや~、やっぱりウォータースライダーが一番迫力があっておもしろかったかなぁ~」
「ふふっ、レンったら三回も滑ってたもんね」
「俺も二回滑ったしな」
するとレンはまたしても悪い顔をした。
「二人の一番の思い出はウォータースライダーで寄り添って滑った時のことだよねぇ~♪」
レンの言葉で二人は頬を染め、目が合うと慌てて逸らす。
今日の一日は三人にとって大切な夏の思い出の一ページとなるだろう。
だがまだ夏休みは始まったばかり、この夏、三人は更なる思い出を作っていく事となる。




