第二十三話 真夏のプール2
〝アクアセブンランド〟の目玉である七種類のプール、三人は最初にウォータースライダーに行くことにした。この時、レンにはある思惑があった。
階段を登り、滑り台の出発点に来た三人。そこでレンが近くの係員の女性に質問した。
「すいません、これって二人の人間が同時に滑っても良いんですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
レンの言葉に二人が首を傾げる。
「なんだレン、ミサキと一緒に滑るのか?」
「いやいやミサキとタクミ君が滑るんだよ」
レンの一言に二人の時間が停止した。数秒の間凍りついていた二人だが、またしても二人揃い大きな声で驚きの声を上げる。
「「はあぁぁぁぁぁぁッ!?」」
「息ぴったりだねー」
「何言ってるんだよレンッ!!」
「そ、そうだよ!!」
二人は赤面しながらレンに食って掛かるが、レンは口元に笑みを浮かべながら二人の腕を掴み、滑り台の上に乗せようとする。
「ちょ、ちょっと!?」
「おいおい!?」
「はーい係員さんお願いしま~す♪」
「はい、了解です♪」
係員も空気を読んで二人を滑り台に誘導する。
レンと係員になされるまま、タクミとミサキはセットで滑り台に座らされる。
タクミが後ろでミサキが前にちょこんと座っている状態だ。
「はーいでは、キミは彼女の体・・そうですね、腰の辺りをしっかり固定してね」
「うぐ、ミ、ミサキ・・大丈夫か?」
「う、うん。仕方ないよ・・・・いいよ、掴んで・・・・」
「へっ・・・・」
ミサキの一言でタクミの頭の中は軽い混乱が起きた。
「(つ、掴んでいい・・ミサキの・・腰を・・掴んで、いい)」
「(いや、別にやましい事をするわけじゃないだろ!!)」
「(そうだっ、危ないから腰を掴んで固定する!それ以外に深い理由はない!!)」
そしてようやく決心しミサキの腰に手を伸ばし優しく・・優しく掴んであげる。
「ん・・・・」
「(そ、そんな声出さないでくれぇ~~!?)」
ようやく滑る準備も整い係員が後ろからタクミの背中を押し出す。
その後ろではレンが爽やかな笑顔で手を振り見送っていた。
「はーい、では行きますよー」
タクミの背中を少し強く押し出しだした事で、タクミとミサキの体は滑り台を勢いよく滑り降りていく。
「うおぉぉッ!」
「きゃあッ!」
二人の予想以上にスピードが出て、二人から軽い叫び声が漏れる。そのまま滑走していきついにゴールが見え――――
――ザッブーンッ!!――
大きな着水音を立てながらゴールであるプールの中に沈む二人。水の中に潜った二人はすぐに立ち上がり水を払う。
「ははっ結構スリルあったな」
「うん、ちょっと叫んじゃった」
笑い合いながら滑った感想を言い合う二人。
そして、今度は続けてレンが滑り降りて来た。
「おおぅ、結構怖かったぁ~!」
「よおレン、結構スピードあったろ」
「うんうんあったあった・・・・それより、どうだった?」
「何が?」
レンのどうだったというのが何に対しての事なのか分からず聞き返すタクミ。レンは何やら悪い顔をしながら改めて耳元に口を持っていき聞いた。
「ミサキの水々しいか・ら・だ♡」
「なぁっ!?」
レンのとんでもない質問に顔を真っ赤にして戸惑うタクミ。
「・・・・・?」
ミサキには聞こえない音量で質問したため、彼女はタクミの様子を不思議そうな顔をして見ていた。
その頃、〝アクアセブンランド〟のプールの一つである巨大プールエリアでは――――
「なあメイ、さっき久藍たちが居なかったか?」
「え、本当?」
「なんかちらっと姿が見えた気がしたんだけどなぁ・・・・」
同じAクラスの津田マサトと八神メイの二人が〝アクアセブンランド〟に来てタクミたち同様に楽しんでいた。
マサトは昨日メイから電話があり、一緒にプールに行かないかと誘われここへ来ていた。メイの方から自分にどこかへ行こうという誘いは珍しかったため、一緒にこの〝アクアセブンランド〟に訪れたのだ。
マサトたちはタクミたちよりも先に入場しており、この巨大プールエリアに向かう途中、更衣室に入って行くタクミの姿を視界の隅に捉えていたのだ。
「まっいいや、もしかしたらばったり会うかもな。それよりも泳いで少しハラへったな、何か食うか?」
「そうだね、もうすぐお昼だし」
メイの言う通り、施設内に設置されている時計はもうすぐ昼になろうとしていた。
マサトとメイはプールから出て、ランド内に設置してある屋台に足を運ぶ。
「マサト君、何食べるの?」
「焼きそばかな、あとたこ焼き食いたい」
それらが売っている屋台へと向かう二人。マサトが買ってくると言い、メイは屋台近くに設置されているテーブルに座り待つことにする。
「おじさん、焼きそば二つにたこ焼き一つね」
「あいよ!」
覇気のある声と共にマサトの注文した品物を渡すオヤジさん。マサトはそれを受け取り、代金を払ってメイの元へと向かおうとする。だが、待っているメイを見てみると見知らぬ男がメイに話しかけていた。
「ねーいーじゃん、ちょっと遊ぶくらい」
「こ、困りますっ・・・・」
「そー言わな「おい」、何だよ」
ナンパをしている男がマサトに顔を向けると、彼から放たれる威圧感にビビり、たじろいだ。
「俺の連れに何か用か?」
「あ、いや・・すんません」
すごすごと男はその場を立ち去る。マサトはため息を吐きながらメイと同じテーブルの椅子に腰を落とす。
メイはナンパ男が立ち去った事でほっとしていた。
「たく・・こういう場所に一人はいるよな~ああゆうヤローは」
「う、うん・・困るよね」
「ま、お前可愛いし狙われやすいんだから気ぃつけろよ」
「うん・・・・・・へっ」
マサトの言葉に頷くメイであったが、彼の今言った言葉を頭の中で繰り返す。
次の瞬間、メイの顔が赤くなり、視界がぐるぐると回る。
「(かかかか、可愛い!?)」
「あ、どした?」
「ななななな、何でもないよっ!!!!」
いや、そーは見えねーよ、という顔をしながらマサトはメイを見ていた。
顔を赤くしながらも、メイはマサトの言葉に喜びながら昼食を取ったのだった。