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魔法ができてしまったこの世界で  作者: 銀色の侍
一学期 銀色の少年編
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第二十話 下ろされる幕

 カケルと別れ、一人で喫茶店の中でくつろぐシグレ。彼女は注文したブラックコーヒーを飲みながら先程のカケルの態度について考えていた。突然用事があると言って帰って行ったが、それが明らかにとってつけたものであるという事はシグレも分かっていた。

 そんな事を考えていると・・・・


 「げっ・・・・」

 「ん?」


 なにやら嫌な感じの声が聞こえ、そちらに顔を向けると――――


 「ん?お前は・・・・」

 「何でここにいんの?」


 そこには一年Aクラスの生徒、赤咲レンが立っていた。






 喫茶店から離れ、人気のない森の中へと移動したネロとカケル。

 世界の生態系が変化し緑が世界に増殖したため、現在の世界では日本の森林の規模や数も多くなり、建物が多い街中でも区切られた場所に森林が広がっている場所がいくつもある。魔の森などがそうである。

 二人はその森林の一つの場所に足を運んだ。周囲には人の気配はない。


 「ここならいいだろう、さてと、じゃあ聞かせてくれるか」

 「何?」


 カケルはネロの口調が男性のものになった事にも特に動じない。


 「お前、なんでわざわざ素直について来たんだ?これから何をされるか分かっているんだろう」

 「ん・・・・僕のこと、殺すの?」

 「ああ」

 「・・・・そう」


 するとカケルから魔力が放たれ、ネロもそれに反応し魔力を解放する。

 感じる魔力の量から自分の方が有利である事を悟るネロ。だが、ネロの力はまだこんなものではなかった。


 「お前の魔力じゃ俺には勝てないぜ、それに・・・・」


 ネロから放たれる魔力がさらに大きくなる。


 「俺は人を喰らう事でその人間の中の魔力を吸収できる。魔法使いでなくとも、人間の体には大なり小なり魔力が宿っているからな」

 「・・・・喰う、もしかして、ニュースの連続殺人犯?」

 「何だ、気づいてなかったのか?いや、この姿だから当たり前か」


 魔法を解き、本来の姿に戻るネロ。

 自分の正体に気づいていなかった事を一瞬以外に思うネロであったが、現在自分は変身している事を思い出し、気づかなくても仕方がないと思った。

 しかし、すぐにそんな事はどうでもいい事だと片付ける。


 「(どうせこれから殺すからな)」


 ネロがそう思っていると、カケルから質問を投げかけられた。

 

 「なんで女の人ばかり食べてたの?」

 「ああ、それはうまいからだよ」


 口元に笑みを浮かべながらネロは続ける。


 「男の肉よりも女の肉の方が・・・・何っていうのかな、美味に感じるんだ」

 「・・・・・・」

 「最初は我慢して人以外で満足しようとしていたんだ。でも俺の中の欲求は日に日に大きく膨れ上がっていった。そしてついに限界が来てしまった」


 ネロは両手を広げながら語り続ける。


 「初めて人の肉を喰った時、俺の中の食欲が語り掛けた!!これこそが俺の追い求めていた食物であると!そして、人肉だけではなくそこに含まれる魔力も甘美なもので病みつきになってしまった!!特にさっきも言ったが女性の肉が至高であった!!」

 「・・・・・・」

 「うまい肉を喰らい、その上に魔力も高められ、俺にとって最高の「もういいよ」・・・・あ?」


 ネロの言葉を遮るカケル。

 彼はネロに光の灯ってない目を向けながら最後の質問をした。


 「つまりさ・・・・シグレも食べようとしていたんだよね?」

 「シグレ?ああ、お前と居た女か。それがどうした?」

 「そう・・・・だったら――――」


 カケルの背中からある物が生えた。それは・・・・白く、美しい翼であった。

 その姿は天使を連想させるほど美しく感じた。


 「自分の命が絶たれても文句はないよね?」


 カケルがそう言うと、背中の翼が黒く染まりだした。


 「な、なんだ・・この魔力は・・・・」


 ネロから驚きの声が漏れる。彼の驚きは彼の翼ではなく自分に向けられている魔力にあった。

 その魔力は自分の魔力以上にどす黒いものであったのだから。






 「これは・・・・」


 Cクラス、桜田ヒビキが・・・・・・



 「何だ、この感じ・・・・」


 Aクラス、久藍タクミが・・・・・・



 「・・・・なにやら、嫌な魔力が流れていますね」


 学院長、ローム・アナハイムが・・・・・


 魔法使いの中でも一線を越えた実力者達、彼らはカケルから放たれたどす黒い魔力を敏感に察知した。カケルが放っているものとは分からないが、今、この地区内にはとてつもなく危険な存在が居るという事を彼らは理解した。

 そしてその魔力を目の前で受けているネロ、彼は大量の冷や汗をかきながら目の前の化け物を見ていた。


 「お前・・・・い、一体・・」

 「・・・・・・」

 ――サシュゥゥゥゥゥッ!!――

 「ぐっ!?がああああああッ!?」


 気が付けば、ネロの左腕は千切れ、宙に舞っていた。

 カケルの翼が高速で動き、切り落としたのだ。


 「うぐぅぅぅぅッ!?」


 自分の四肢の一部が喪失した事で、千切れた個所から大量の血が流れ、今まで感じた事の無い激痛が彼を襲う。


 「ガァぁァぁァっッ!!??お前ぇェぇェぇ!!!???」


 自分の肉体の一部を失った事に恐怖と怒りの入り混じった感情をまき散らしながら、ネロはカケルへと攻撃をした。

 攻撃をする際、彼の姿は人型の魔物の様な姿へと変貌した。この姿はネロのもっとも戦闘に特化した形態であり、女性たちを襲う際にも使う事がある。

 ネロの右手から集約した魔力の光線がカケルへと放たれた。

 

 「ん・・・・」


 しかし、カケルの振るわれる漆黒の翼によって切り裂かれる。さらに翼からは大量の羽根による弾幕がばらまかれ、ネロに向かって飛んでいく。


 「オオオオオオオオオオッ!!!」


 飛んでくる羽を迎撃しようとネロも大量の魔力弾を放つが・・・・・・。


 ――ボシュュュュュゥ・・・・――

 「な、何だと!?」


 ネロの放つ魔力弾はカケルの黒い羽根に触れた瞬間、煙を上げて消えていく。そのまま羽根はネロの体に突き刺さる。そして・・・・・・。


 ――ジュゥゥゥゥゥッ・・――

 「あぎぃぃぃぃぃぃッッ!!??」


 ネロに刺さった羽根が消えていき、その羽根の突き刺さった個所から激痛が走る!!


 「あぐぅっ!ひい、ひいっ」


 情けの無い声を上げるネロ。

 そんな彼を冷めた目で見ながらカケルが自分の魔法について語り始めた。


 「ん・・僕の魔法、個性は〝消滅〟」


 カケルは語りながらゆっくりとネロへと近づいて行く。


 「触れた物はみな、消えてなくなる。・・・・その羽根も刺さった個所の肉、細胞を消しているんだよ」

 「ひぃ、く、来るなぁっ!!」


 こちらへと歩みを進めるカケルにネロは恐怖し、その場から一目散に逃げだそうとする。

 だが、カケルは翼を振りネロの脚に大量の羽根を突き刺す。刺された個所の一つ一つから激痛が走る。


 「いいぃぃぃぃぃぃッッ!!」


 痛み、恐怖、それらがネロの体だけではなく心まで壊していき、変身も維持できずに元の姿へと戻る。

 動こうとすれば激痛が体中を巡り、そんな状態では逃げる事はままならず、ましてや戦うなどという選択肢は出てこなかった。

 そして、彼は最後に頭に残されていた選択肢を選んだ。


 「ま、待てッ!もし俺を殺せばお前だって殺人犯だぞッ!!」


 それは命乞いであった。

 自分は多くの命を摘み取っておきながら、自分の命は差し出さない。そんな彼の選択にカケルは言った。


 「人を殺そうとしたって事は、自分も殺される覚悟があったんでしょ?」

 「あ、あるわけないだろ・・自分が死んでもいいと思うなんて」

 「勝手じゃないの、それ」


 カケルは光の消えた瞳をネロへ向ける。


 「た、頼む!助けてくれよ!!お前だって人殺しにはなりたくないだろ!?」

 「大丈夫だよ、だって――――」

 


 ――――「物が人の命を奪っても、物に罪はないでしょ」――――



 そう言って、彼は漆黒の翼をネロに突き刺した。






 ネロを追っていたアヤネたち刑事は頭を悩ませていた。

 まず、彼女たちはネロを発見できた。アヤネの個性の力が発動したのだ。

 だが、彼女は自分の見た予知の映像に驚いた。彼女が見た未来は、森林の中でネロが一般人に見つかったものであったが、映像のネロはすでに・・・・息絶えていた状態だったのだ。

 すぐさま仲間達と予知で見た場所を割り出し駆けつけた、そして予知映像通り・・・・ネロの死体がそこにはあった。

 ネロの遺体は全身に無数の何かが貫通してるような風穴が空いていた、他にも大量に何かが刺さった様な後も発見された。


 「何があったんだ、一体?」


 泊まっているホテルに戻り、彼女はため息を吐きながら呟いた。

 そんなアヤネの疑問に答えてくれる者はいない。






 「結局カケルは戻ってこなかったな・・・・」


 カケルと別れ、自分の家に足を運ぶシグレ。

 彼女は数十分前までの喫茶店でのやり取りを思い出す。


 『お前、以前のAクラス生徒だな』

 『・・そーですよ、何でアンタがこんな所に・・』

 『私が喫茶店に居てはいけないのか?』

 『別にそーじゃないけど』


 そう言ってレンは空いている席に座ろうとする、だがここでシグレの疑問の声が入る。

 

 『そういうお前こそ何故ここ、というよりもこの近くで何を?』

 『え・・いや、何でもいいじゃん・・』

 『?』


 なにやらはぐらかす様に答えるレン。

 少々の疑問も残るが、これ以上無理に踏み込むのもよくないと思い、それ以上の質問はしなかった。


 『では私はもう行かせてもらおう、ではな』


 レンに別れの言葉を掛け、喫茶店を出るシグレ。

 後ろでは安堵の様なため息を吐いているレンの姿があった。






 その夜、J地区から発生した連続殺人事件についてのニュースが流れた。


 「本日、これまでJ地区を騒がしていた連続殺人犯の犯人である青年の遺体が発見されました。青年の遺体には無数の穴が開いており――――――」

 

 こうして、猟奇的連続殺人事件の幕はひとまず下ろされたのだった。

 一匹の白猫によって・・・・・・。

 



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