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魔法ができてしまったこの世界で  作者: 銀色の侍
一学期 銀色の少年編
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第十九話 狩人と猫

 連続殺人犯の目撃情報があったと、仲間からの連絡を受けアヤネ達はやすらぎ公園へと移動した。

 目的の公園付近に辿り着くと、公園には数人の人間による人溜まりが出来ていた。


 「なんだよこれ・・・・」

 「酷いな・・・・」

 「と、とにかく警察に・・・・」


 集まっている者達は全員顔を青くしながら公園のあるものを見ていた。


 「おい、どうし・・・・ッ!?」


 アヤネが声を掛け終わる前に、彼女の視界にはあるものが入った。

 それは、人間の死体であった。しかも二人分。


 「これは・・・・クソッ!これも奴の仕業かッ!!」


 横たわり果てている二人は警察服を着ている男性。恐らくこのE地区の警察であろう。

 

 「貴方たち、この付近でこんな男を見なかったか?」


 アヤネは周りにいる見物人達に魔法を使い、自分たちが追っている男の姿を映し出した。

 そして、見物人の一人の男性が声を上げた。


 「コイツッ、さっき見たぞ!!」






 見回りも兼ねて散歩を再開していたシグレとカケル。

 今のところでは特に不審に思う人物も目にする事はなかった。二人が先程まで居た公園に、まさか入れ違いで連続殺人犯がやって来たとは二人も思わないだろう。

 

 「ん・・あれは」


 視界の先に見知った顔を確認するシグレ。

 それはCクラス生徒、桜田ヒビキであった。


 「(奴はCクラスの・・・・)」


 Cクラス同士の一対三の決闘はシグレも目撃していた。それゆえ彼の実力はシグレもよく分かっていた。

 ヒビキは先程〝ナリッジ〟という本屋でいくつかの本を購入し、店から出て来たところで二人と遭遇した。


 「・・・・・・」


 ヒビキの方もシグレたちに気づき視線を向ける。

 そしてその片割れ、カケルの方を注意深く見ていた。


 「・・・・・・」


 時間にして僅か二、三秒カケルを見た後、二人に踵を返し本屋まで歩いて来た道を引き返し自分の家へと戻るヒビキ。

 シグレはそんな彼の後ろ姿を少しの間、黙って見ていた。






 現在アヤネ達に追われている青年、彼は今は人気のない場所である事をしていた。

 彼は自分の体全体に魔法をかけていたのだ。

 

 青年の名は羅刹ネロ、彼も魔法使いであった。そして、彼は個性使いでもあった。

 彼の個性は〝変身〟する力。

 自らの体を魔力で覆い変身したい姿を頭でイメージする。そうする事でイメージした姿が肉体に反映し、変身する事ができるのだ。無論、それなりの制限はある。イメージした全ての物になれるわけではない。だが、人以外の姿に変身する事は出来る。

 青年の姿が光に包まれると、青年は二十台前半辺りの女性へと変わっていた。


 「さ~て、これでまたしばらくは大丈夫だな」


 そう言って彼、いや彼女は再び人気のある場所へと移動した。






 先程、会話こそなかったが他クラスのヒビキと遭遇したシグレたちはあれからまだ散歩を続けていた。

 しかし、相変わらず二人に収穫は無く、ただ時間だけが過ぎていった。


 「ん・・何も収穫なかった」

 「まあいいではないか。それはつまりこの街は平和である証拠でもある」


 時間も現在は三時半、シグレは今いる場所の近くに自分の行きつけの喫茶店がある事を知っており、カケルをそこに誘う。


 「カケル、この近くに喫茶店があるのだがどうだ、行くか?」

 「ん・・」


 コクンと頷くカケル。了承を取ったシグレは場所を案内する。






 殺人犯ネロ、彼女は女性へと変身した事で堂々と人前を歩いていた。

 姿どころか性別も違うため、彼女の横を通り過ぎる通行人たちも彼女の事を気にも留めない。

 彼女は今、新しい獲物を探していた。自分を満たしてくれる食物(女性)を・・・・・・・・。


 「おっ・・」


 ネロの目に一人の女性が入った。

 青い髪、凛々しい瞳、引き締まった肉体。

 ネロが目に付けた女性、それは喫茶店に入店して行ったシグレであった。


 「いいな・・・・すごくおいしそう」


 彼女の次の獲物がこの瞬間決まった。






 「ここが私の行きつけの・・・・どうした?」


 喫茶店の中に入り席に着こうとしたシグレであったが、一緒にいるカケルの様子が少し気になった。

 彼はきょろきょろと辺りを見回しているのだ。

 店内の様子を見ているかと思ったが、どうにも違うようだ。


 「カケル?」

 「・・ん、シグレ。ボク用事を思い出した」

 「あ、おいっ」


 ててて、とシグレから離れ店を出ていくカケル。


 「・・・・何だというんだ?」


 シグレはカケルの出ていった店の出入り口を眺めて呟いた。






 「ここに入って行ったな・・」


 喫茶店の付近でネロは様子を眺めていた。シグレが出て来るのを待つため。

 すると、喫茶店の出入り口からカケルが出て来た。しかし、ネロの狙いはシグレの方であるためカケルの存在は放置しておくつもりだった・・・・彼の方から話しかけてこなければ。


 「ねえ・・・・」

 「あら、何かしら?(ちっ、お前には興味がないんだよ)」


 女性として演技しながらカケルに何の用かを問うネロ。

 そして、カケルが言った。


 「お姉さん、人殺しでしょ」





  

 先程、シグレたちと遭遇したヒビキ。彼はカケルの事を考えていた。


 「・・・・・・」


 彼はあの時カケルに意識を向けていた。その理由はカケルから感じ取った魔力にあった。


 「(あの猫から感じた魔力の質、どこか違和感を感じた)」


 ヒビキの彼から感じ取った違和感はかつてシグレも感じたものだった。

 ヒビキは彼から感じる魔力はどこか空虚な気がしたのだ。言うなれば、中身のない巨大な箱。

 箱自体はとても大きく、美しい塗装がしてあるが、その箱の中は空っぽ。


 「(アタラシス学園にもいろいろ興味深い奴が出て来たな)」


 先程の白猫の他に、銀色の髪をした男子生徒を思い浮かべるヒビキであった。






 「私が人殺し?何を言っているのかしら?」


 カケルの一言に内心驚きながらも表面は平静を装うネロ。

 だが、カケルは目の前の存在が命を絶ってきた者であるという事を確信していた。

 

 「ん、だってお姉さん・・・・血の匂いがするもん」

 「・・ッ!?」

 「特に口の周り」


 カケルの指摘にネロは今度は顔に出して驚いた。

 確かに自分は先程ヒトを食べていた。その際に血も付着しただろう・・だが、付着した血はすべてふき取り臭いも消しておいた。にも拘らず、目の前の白猫はそれを見抜いた。


 「・・キミ、少し付いて来てくれる?」


 穏やかな声色で自分に付いて来てくれるかを聞くネロであったが、拒否をした場合も無理やり連れていくつもりだ・・・・・・口封じのために。


 「ん、いいよ」


 しかしネロの心配とは裏腹にカケルは素直に頷いた。

 そして二人はその場を離れるが、ネロには隣にいる少年の考えが分からなかった。


 「(俺が人殺しと分かっていながらあっさりとついて来るとは、コイツ何を考えているだ?)」


 自分としては都合がいいが、余りにも不自然なため警戒を抱くネロ。

 この時、ネロは気づいていなかった。


 今度は自分が狩る者ではなく――――狩られる者であるという事を・・・・・・。

 


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