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魔法ができてしまったこの世界で  作者: 銀色の侍
一学期 銀色の少年編
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第十八話 狩り

 土曜日の夜、風紀委員である神保シグレの自宅、神保家。

 彼女の家のテレビ画面では現在、痛ましい事件が報道されていた。


 「昨日、J地区方面でまたしても一人の若い女性が遺体で発見されました。これまで同じ様な事件が三件も発生している事から、魔法警察は同一犯の犯行と見て、犯人の捜索にあたっ・・・・・・」

 ――ブチッ――


 テレビの電源を切る音が部屋に響く。

 シグレが自宅のテレビの電源を消したのだ。


 「またか・・、これで四件目だぞ」


 シグレはため息を吐きながら呟く。

 J地区で行われている猟奇的連続殺人事件。

 シグレは今回は単独で動く事はしなかったが、内心ではこのニュースを見るたび、腹の奥底がいらいらとした。

 この様なむごたらしい事件を起こしている犯人に対し、怒りが沸き上がるのだ。

 

 「警察に早く片付けろと言いたいものだ」




 E地区の大都会の中心地、巨大ビルに設置されている大画面のテレビでもこの事件のニュースが流れていた。

 

 「またかよ・・」

 「おっかねーよなー」


 そのニュースを見た通行人の人々は軽い気持ちでそう呟く。実際に自分に被害がないため、このような言葉を軽い気持ちで言えるのだ。

 だから、想像もしない。

 この場にその犯人が居るという事を・・・・。


 「(だいぶ騒がれるようになったな)」


 ニュースを見ながら犯人の青年はまるで他人事の様に思った。

 しかし、青年は犯行をやめる気などなかった。いや、彼にとって自分の行いは殺人ではなく食事であった。

 食事という行為を間違いだと思うものは普通いないだろう。しかし、彼の食べている物を聞けば皆が彼から逃げるだろう。


 彼は、同じ人間を糧にしているのだから・・・・。




 E地区では現在、猟奇殺人犯以外にも多数の者がJ地区から来た者が居た。

 

 「・・着いたな」


 それはこの事件を追っている刑事達である。その中には星川アヤネの姿もあった。

 なにゆえ彼女達がここへ来たのか、それはもちろん殺人犯を追って来たからだ。


 「私の魔法で調べた結果、奴はこの地区内に潜り込んだと思うのだが・・」


 アヤネは個性魔法の使い手であった。

 彼女の個性は〝未来予知〟といい、自分の見たい僅かな未来の出来事を見る事が出来るのだ。

 しかし、未来を予知できるのならば、なぜ彼女は犯人を今まで捉える事が出来なかったのか?それにはある理由があった。

 彼女は個性を完全に発現できた訳ではないのだ。

 自分の見たい先の光景をいつでも見る事が出来ず、とてつもなく強い執着がある事に関しての未来を断片的に見るのだ。

 いつまでも捕らえる事が出来ない殺人犯。必ず捕まえてやろうという強い気持ちが今回、彼女の個性の力を発動した。

 

 「さて、では今日はもう遅い。明日の朝から聞き込みを開始しよう」


 彼女の言葉に周りの刑事達は頷く。

 未来を見た際、犯人の姿も彼女は見たのだ。

 犯人は自分よりも少し若い青年であった。その人物についての聞き込み調査を、次の日から彼女達は開始した。




 翌日の日曜日の昼下がり。

 白猫が一匹、いや、一人で散歩をしていた。

 アタラシス学園生徒、星野カケルである。彼は別に何か用事がある訳でもなく、ただぶらぶら散歩をしていた。

 すると――――


 「カケルではないか」

 「ん?」


 声を掛けられ後ろを振り返るカケル。そこには同じクラスのシグレが居た。


 「シグレ」

 「こんな所で会うとは、散歩か?」

 「ん、そう。シグレは?」

 「・・私も散歩だ。天気もよかったからな」


 そういうと二人は会話をしながら一緒に行動する。


 「ねえシグレ、またあの事件あったね」

 「・・ああ、J地区の殺人事件か」


 シグレが散歩していた理由はこの事件にあった。

 悪を毛嫌いする彼女にとって、この手の事件は許せなかった。 そのニュースを見るたび、やりようのない怒りが胸の内に積もっていくのだ。そのどうしようもないモヤのかかった気持ちを払拭するため、特に当てもないが、散歩をして気を紛らわそうとしたのだ。

 カケルは全くもって複雑な事は考えていなかったが・・・・・・。


 「早く犯人捕まるといいね」

 「ああ、そうだな」


 二人共、特に目的地があった訳でもなくたまたま目に入った公園、安らぎ公園という名前の場所にに足を踏み入れた。

 ベンチに二人で腰をかけ、そこから見える風景を二人で眺めている。


 「平和だな・・・・ここは」

 「ん・・」


 二人がのんびりとした、そんなやり取りをしていると・・・・


 「貴方たち、少しいいだろうか?」


 そこへ声をかけて来た者がいた。


 「はい?」


 二人が振り返るとそこには一人の女性が立っていた。

 その女性はJ地区から来た刑事、アヤネであった。

 

 「突然すまないな、私はこういう者だ」


 アヤネはポケットから警察手帳を出し、シグレたちに見せる。

 相手が警察関係者だと分かると、シグレは真面目な顔になる。


 「実は今、ある男について聞き込み調査をしている。キミたち、この辺りでこのような男を目撃しなかったか?」

 

 アヤネは手元に魔法陣を展開し、その魔法陣から一人の青年の姿が映し出される。


 「・・いえ、この辺りでは見ない顔ですね」

 「ん、ボクも知らない」

 「そうか・・ありがとう」

 「この男が何かしたんですか?」


 シグレは警察が追っている人物とあって興味を示す。警察が追っているという事は相手は悪人であると思ったからだ。

 しかし、アヤネとしては一般人相手にこれ以上の捜査情報を公開する訳にはいかないため、話を終わらせようとする。


 「悪いが詳しい情報の公開はできないんだ。・・もう行かせてもらう」

 「・・・・・・」


 その場を立ち去るアヤネ。シグレはその後ろ姿を黙って見ていた。


 「シグレ?」

 

 シグレの様子を不審に思い声を掛けるカケル。

 シグレは立ち上がるとカケルへと言った。


 「カケル、私は散歩を再開しようと思う。ここで解散としよう」

 「・・・・犯人捜しするの?」

 「・・やはり分かるか」

 「シグレの性格、大体わかって来たきた」


 カケルも僅かに彼女と居続けたため、完全という訳ではないが、おおよそ彼女の性格は分かっていた。

 悪は許さない、そんな強い信念を持っている女性であると。


 「犯人捜しと言っても軽く見回ってみるだけだ。丁度退屈していたところだからな」

 「ん~、でもこの近くに居るか分からないよ」

 「言っただろう、犯人捜しといっても警察の様に必死に捜索する訳ではない。不審な者がいないか、本当に周辺を見回るだけだ」

 

 そう言って行動を開始しようとするシグレ。それに連れてカケルも立ち上がる。


 「ん、ボクも行く。散歩の途中だし」

 「そうか、ではいくか」

 「ん、了解」


 二人は公園を出て、見回りを兼ねた散歩を再開した。

 無人となった公園。そこに数分後、一人の青年がやって来た。

 青年は先程シグレ達が座っていたベンチに腰を掛ける。


 「さ~て、次の獲物は誰にしようかな」


 そう言っている彼は、先程アヤネが追っていた青年であった。

 タイミングの悪い事に丁度入れ違いとなった犯人と刑事。

 現在、青年は自分の容姿が特定されている事に気づいておらず、変装も何もしていない。

 アヤネが彼の姿を特定し、その後警察が犯人の容姿を発表したのは今朝であったが、青年は昼過ぎまで人気のない場所で睡眠を取りニュースを見ておらず、その事実にまだ気づいていなかった。

 しかしここまで来る道中に何人かちらちらと自分を見ていた事から、自分の正体がばれたのではと内心で彼は感じていた。

 だが、彼は食事(狩り)を止めない。否、止められないのだ。


 「あそこですっ!!」

 「ん?」


 突然女性の大声が聞こえて来た。

 声の出所に首を動かすと、そこには一人の女性と二人の警察が居た。


 「ほらあの人!ニュースでやってた!」

 「キサマ!そこを動くな!動けば発砲するぞッ!!」


 彼らはこのE地区担当の警察であった。

 一緒にいる女性の通報を受け、仲間を連れこの公園にやって来た。

 相手は連続殺人犯。警察たちは緊張しながらも犯人を捕まえるために青年を連行しようとする。


 「あらら、俺のこともうばれてたか・・」


 青年はゆっくりと立ち上がる。


 「動くな!!」


 拳銃の引き金に指を掛ける警察。

 だが、青年はまるで動揺した様子はなかった。それどころかその顔には笑みが浮かんでいた。

 青年の視線は自分に拳銃を突き付けている警察ではなく、通報した女性の方に向いていた。


 「おいしそうだ・・・・でも、周りにたかっている蠅が邪魔だな」


 青年は警察たちに視線を移す。


 「まずは蠅を潰しておくか・・・・」




 一方、J地区から来た刑事達は一度集まり、調査の結果をアヤネに報告していた。


 「どうだった、収穫はあったか?」

 「いえ、今のところ有力な情報は何も」

 「・・そうか」


 未だに手がかりが掴めず歯噛みするアヤネ。

 そこへ、J地区から来た最後の刑事からアヤネの携帯に連絡が来た。


 「アヤネさん!犯人の目撃情報がありました!!」

 「ッ、本当か!どこでだ!!」

 「はい、集合予定場所から東方面、2キロ程離れたやすらぎ公園という公園の付近で近くの住人から確認が取れました」

 「分かった、今から私たちもそちらへ向かう」


 携帯を仕舞い、アヤネたちはすぐさま移動を開始した。




 「おいしかった、ゲフッ」


 青年は人目の少ない路地裏へと移動していた。

 


 彼の口元は血で染まり、その足元には――――



 体中に食いちぎられた跡がある先程の女性が、変わり果てた姿となり転がっていた。

 

 「本当、狩りって最高」


 青年は狂気を宿した瞳で足元に転がった肉の塊を見つめていた。


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