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魔法ができてしまったこの世界で  作者: 銀色の侍
一学期 銀色の少年編
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第十四話 絶対的な力

 桜田ヒビキ、1年Cクラス所属の生徒。

 彼はCクラス内では間違いなく一番の魔法の使い手だと、同じクラスの生徒全員が認めていた。

 自分達とは次元が違う。彼と同じクラスに所属している生徒が皆、そう感じていた。


 クラスの者達にそう認識されたのは学園に新入生、つまり今の一年生が入学してすぐに起こった決闘がきっかけだった。




 一年Cクラス教室前、そこに一人の生徒が教室の前に立っていた。紫色の綺麗な髪をした少女だ。

 

 「ん~ここだね」

 

 入学式を終えて次の日、アタラシス学園に入学した生徒達は自分の割り振られた教室へと足を運んでいた。この少女、東堂ムラクモという生徒も掲示板に張り付けられていた自分のクラスへと足を運び、教室の前まで来ていた。


 「誰か気の合う人、いたらいいなぁ~」


 間延びした声でそう言いながら、彼女は教室の中へと入って行った。


 中に入るとそこそこ教室内は賑わっていた。どうやらすでにいくつか気の合ったモノ同士、グループを作っている者達もいるようだ。

 机にはそれぞれ名札のシールが隅に張って在り、自分の席がどこなのか分かるように施されている。

 

 「(僕も誰かと仲良くおしゃべりしようかなぁ~)」


 まだ時間もあるため、すぐには席に着かずクラス内を見渡すムラクモ。

 すると、再び教室の扉が開き新たな生徒がクラス内へと入って来た。



 その瞬間、クラス内の生徒は全員凍り付いた様に動きを止めた。



 全員、その理由は分からなかった。教室に入って来た生徒は栗色の髪をした美少年。整った顔をしており、女性受けのよさそうな少年で特に変なところ、恐ろしいところがあるわけでもない。にもかかわらず皆がそのような反応をしてしまったのはその少年の纏っている雰囲気にあった。

 それは、凍えるような冷たさを感じるものだった。

 少年は周囲の反応などお構いなしに、自分の指定されている席、〝桜田ヒビキ〟と名札のシールが貼ってある席へと着いた。




 その頃、別クラスの一年Aクラスではミサキが教室前へとやって来た。

 

 「うぅ・・・・緊張するな」


 これから一年間、自分が過ごす事となるクラス。うまく馴染めるか心配思うミサキ。しかし、すぐに意識を変える。


 「(しっかりミサキ!そんな弱気でどうするの!!)」


 自分を心の中で奮起するミサキ。すると、後ろから軽く肩を叩かれるミサキ。


 「え・・・・?」


 後ろを振り返るミサキ。すると赤い髪が視界に入った。

 肩を叩いてきた人物はミサキのよく知る者だった。


 「レン!」

 「やっミサキ!」


 手を軽く上げ挨拶をするレン。

 自分の知り合いが来た事でミサキの不安が一気に薄れていった。

 

 「ミサキもAみたいだね。いや~よかったよ」


 ふうっと息を吐くレン。


 「自分の知り合いが一人居るだけでも結構違うからね」

 「うん、私もほっとしたよ。これからよろしくね、レン」

 「こっちこそ!」


 そう言って互いに手を取りあう二人。お互い喜びを分かち合った後、二人は一緒に教室へと入って行った。




 Cクラスの方では、皆が再びそれぞれ談笑し、騒がしくなっていた。

 先程の凍った時間は再び時を刻み始め、そして時間を止めた張本人は机でおとなしく読書をしていた。

 周りの皆は全員、彼から少し距離を取っていた。彼から放たれている威圧感のようなものに怖れを感じ、近づけないのだ。 否、全員というのは語弊があるだろう。一人、彼に近づき話しかける生徒が居たのだ。


 「ねーねー、キミ名前は?僕は東堂ムラクモっていうんだ」


 その生徒ととはムラクモだった。彼女は他の者達とは違い、彼に対して怖れという感情は抱いていなかった。

 他の生徒達は関わらない方がいいのに、といった顔をしている。

 しかし、彼女は周りのそんな視線など気にする事なく笑顔で話し続ける。


 「本が好きなの?今読んでるのは何~?」


 ムラクモの存在が煩わしくなったのか、彼はため息を吐いた後ムラクモへと言った。


 「黙れ、俺が何をしようがお前には関係ない」

 

 そう言って手元の本に視線を戻すヒビキ。

 周りの生徒は感じの悪い奴と内心思ったが、当の本人は相変わらずニコニコと笑みを浮かべていた。

 こうして担当教師が来るまで、ムラクモは彼に一方的に話しかけていた。




 その後、それぞれのクラスでは担当教師となる者達が来て、軽い自己紹介を行い、その後は授業を開始した。しかし、授業初日という事もあり、それぞれ初めての授業では生徒達との親睦を深める為、教師の皆は授業を軽いものにし、後は世間話などをし盛り上がっていた。

 Cクラスでは一人、ヒビキがくだらなさそうな顔をしていたが。

 そして授業は進んでいき、時間は昼休みとなった。




 「ねえねえ食堂に行ってみない?」


 相変わらずムラクモはヒビキに声を掛ける。周りの生徒は何故そこまで彼に拘るのか分からなかった。

 ヒビキも相も変わらずムラクモに冷淡な態度を貫き続けた。

 そこへ、ムラクモに声を掛けて来る生徒達がいた。


 「なあ東堂さん、よかったら俺たちとメシ行かね?」

 「そうそう、俺らも食堂に行こうと思っていたし」

 「そうそう、いこいこ!!」


 ムラクモに話しかけてきたのは三人の男子生徒達だった。

 この時、この三人には少し邪な考えが頭にあった。

 ムラクモは整った容姿をしており、俗に言う美少女と呼ばれる子だった。そんな可愛い子と出来ればお近づきに・・・・そんな考えを持っていたのだ。


 「ん~ごめんねぇ~、ボクは彼と行こうと・・・・」

 「そんな奴ほうっておきなよ」

 「そうそう、東堂さんの事を邪魔者扱いするし」


 東堂を説得しようとする三人組。すると、ヒビキはムラクモに言った。

 

 「一緒に行ってやったらどうだ。そいつらお前の気を引こうと必死だからな。ふっ、顔位立ててやれよ」

 

 ヒビキの言い方にカチンとくる三人。

 

 「おい、どういう意味だ?」

 「女の気を必死に引こうとしていた哀れな雄、と、言ったんだ」

 「「「なっ!?」」」

 

 その言われ様に怒りが沸き上がる三人。その内の一人が食って掛かる。

 

 「テメェッ!もう一遍言ってみろ」

 「・・・・・・・・」

 「おい、聞こえ・・!!」


 威勢よく叫んでいた少年は突然黙り込んだ。

 それはヒビキが再び凍える様な威圧感を出したからだ。

 彼は低い声で三人へと告げる。


 「俺に文句があるというなら丁度いい。お前達、この学園の決闘制度は聞いたよな?」

 「あ、ああ。そ、それがどうした?」

 

 叫び声を上げていた少年が僅かに怯えながら答える。

 すると、ヒビキは薄い笑みを浮かべながら宣言した。


 「お前達三人、この俺、桜田ヒビキが決闘を申し込もう」


 ヒビキのまさかの決闘宣言にCクラス内はざわめきに包まれた。




 「ミサキ、聞いた?今グラウンドで決闘が行われるってさ」

 「うん、Cクラスの生徒らしいけど」

 「私たちも見にいこーよ!興味があるし」


 これから行われる決闘を一緒に見学しに行こうとミサキを誘うレン。ミサキは少し考えた後、自分も見学に行く事にした。

 そうして二人は学園グラウンドに設置されている武舞台に足を運んだ。




 試合場に到着したミサキとレン。武舞台に目を向けると、そこに立っている人数に疑問を抱いた。

 

 「え、もしかして三対一!?」


 武舞台に立っている生徒達は全部で四人。しかしその内分けは一人と三人にわかれていた。ミサキ以外の観客達もその人数差に無謀ではないかと考えていた。


 「おい、本気かよお前。この人数差で勝てると思うのか」


 数の差がある事で教室内では怖れに呑まれていた三人はすっかり余裕を取り戻していた。

 そんな三人を見てヒビキは冷めた顔で言った。


 「さっさと始めるぞ。昼休みも限られているからな」

 「そうかよ、ならすぐ終わらせてやる!!」


 三人同時にヒビキに襲い掛かる生徒達。しかし、三人が向かって動き出したとほぼ同時――――目の前にいたヒビキの姿が一瞬で消えた。


 「えっ、どこ・・・・・・」


 言葉を言い終える前に一人が倒れた。

 倒れた生徒の背後にはヒビキが立っていた。


 「なっ!?」

 「いつの間に!?」


 一瞬で一人が倒され二人となったCクラス生徒達。しかも、その二人はヒビキの姿を捉える事が出来なかった。それは周りの観客達も同様だった。


 「ねえミサキ・・・・今の見えた」

 「ううん、全然・・・・」


 焦る二人のCクラス生徒。

 すると、今度はゆっくりとヒビキは歩いて近づいて来た。


 「ぐ、このぉ!!」


 まるで散歩の様にのんびりと歩いて来るヒビキに一人が拳を振るい攻撃を仕掛ける。しかし、ヒビキはそれを軽く避け、逆に強烈な一撃を顔面に容赦なく叩きこんだ。


 ――ガキィィィィッッ!!――


 顔面を強打された生徒は、鼻から真っ赤な液体を噴出しながら地面へと沈んだ。


 「ぐ、わあああああああッ!!!!」


 残りは自分一人だけとなったCクラス生徒は、半ばやけになり魔力を手の平に集中し、ヒビキへと魔力弾をがむしゃらに放ち続ける。

 だが――――


 ――ドガァァァァァァァンッッッ!!!!――


 一瞬の内に懐へと入ったヒビキ。

 彼は流れる様な仕草で相手の顔面に協力な蹴りを叩きこんだ。

 武舞台の外までふっ飛ばされるCクラス生徒。彼は大量の鼻血をだしながらぴくぴくと白目を剥き痙攣していた。

 ヒビキはまるでゴミでも見るかの様な目で倒れた三人を見て一言呟く。


 「勝負ありだ」




 試合終了後、倒れた三人組は保健室へと運ばれていった。

 その後、Cクラス内の生徒達は誰もヒビキに話しかける事はおろか、近づく者すらいなかった。

 自分たちが桜田ヒビキという男から感じた威圧感は張りぼてではなく、そしてその力も実証され、彼に対する恐怖心が強くなったのだ。

 そして、それこそがヒビキの今回決闘を行った理由だった。

 ヒビキにとって他人の存在など眼中にはないどうでもいいものだった。それを自身の周りから排除し、尚且つ纏わり付かれないよう自分の力を見せつける事にしたのだ。

 しかし唯一人、ヒビキの狙い通り動かなかった生徒が居た。


 「さっきの決闘凄かったねぇ~、キミ強いんだ」


 東堂ムラクモである。何故コイツは自分に付きまとうのかまるでヒビキには理解不能であった。

 彼女は相も変わらずニコニコとしている。


 この日を境に一年Cクラス最強は桜田ヒビキであると、同じCクラス内では皆が口に出さずとも皆が理解したのだった。



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