第十三話 最凶との邂逅
アタラシス学園の図書室、そこでタクミは何か興味の引きそうな本を借りようと図書室内を見て回っていた。
前回ミサキとレンにこの場所を案内された時、暇があれば何か本を借りようと思っていたので、足を運ぶ事にしたのだ。
「(それにしても、本当に広いなここ)」
以前来たときも思ったが、この学園の蔵書量は普通の学園以上だろう。そんな事を考えながら読みたい本を吟味していると・・・・
「(ん・・アイツは・・・・)
タクミの視界に見覚えのある生徒が入って来た。
栗色の綺麗な髪が目に付く生徒。以前も図書館で自分が見た生徒だ。
「(あいつ、本好きなのかな?)」
そんな事を思いながら観察するタクミ。
するとそこへ一人の女子生徒が新たに視界に入って来た。
「や~ヒビキ君、ま~た読書?好きだねぇ~」
「・・・・消えろ」
冷淡な態度を取るヒビキ。しかし少女は全く答えず、笑いながら返す。
「も~冷たいな~」
「聞こえないのか?消えろと言っているんだ東堂」
なおも冷たい態度を取り続けるヒビキ。しかし、ムラクモはまるで答えずにこにこと笑みを崩さず接し続ける。その後少しヒビキにちょっかいを出した後、ムラクモは図書室から退出した。
あとに残されたヒビキは気にする事なく読書を続けている。
「(仲が良い、という訳ではないのかな?少なくともあのヒビキって奴はそういう風に見えるし)」
ムラクモという少女に対する態度を見ていたためそう考えるタクミ。そこまで考えて一旦ヒビキから意識を外すタクミ。元々の自分の目的は読みたい本を探すという事なのだから。
「おっ、これおもしろそうじゃん」
その後すぐに自分の興味を引く本が見つかった。推理ものの小説だ。謎解きの類の本はタクミ家にもそこそこの数がある。物語と共に読者である自分も謎を考え、解き明かす事は少し快感に思えるのだ。
「(どこか空いている席は・・・・)」
まだ時間がある為、少しだけ読んでいこうかと空いている席を探す。そしてすぐ近くに空いている席があった。そこは先程見ていたヒビキの周囲の席だった。
「悪い・・ここいいか?」
ヒビキに同席していいかを求めるタクミ。しかしヒビキは何も答えず視線は手元の本に向いていた。
とりあえずダメという訳ではなさそうなので腰を掛けるタクミ。早速借りてきた本を読もうとするタクミ。だが――――
「・・・・おい」
そこに目の前のヒビキが声を掛けてきた。
「・・・・何だ?」
「お前・・・・俺を見て何を感じた?」
「どういう意味だ、それは」
タクミの言葉にヒビキの目が僅かに鋭さを増した。より一層冷たさも・・・・
「惚けるな・・・・お前は俺を見てこう思っていた・・・・」
「・・・・・・」
「こいつは・・・・自分と同じ〝バケモノ〟だと」
1年生のAクラスではミサキとレンが今はこの場に居ないタクミを話題に会話をしていた。
「ねえミサキ、何か最近タクミ君に対する態度が僅かに変わったんじゃないの?」
「えっ!い、いや別に・・・・」
「え~変わったって絶対。もしかしてさ~ミサキ」
すこし真面目な顔を作るレン。そのレンの顔を見てミサキの緊張が僅かに高まる。
そして、レンが口を開き思い切って質問する。
「タクミ君に・・・・本気で惚れた?」
レンにそう言われるとミサキの頬が赤く染まり、そのまま顔を俯かせた。
「あ・・・・やっぱり」
ミサキのこの反応を見れば一目瞭然だった。いつの間にか自分の知らないところで親友は友人の一人に恋をしていたようだ。最初はからかっていただけだが、まさかそれが現実になるとは。
「いや、でも以外でもないかな」
しかし、冷静に考えれば不自然な事ではないと思うレン。
ピンチに自分の命を救ってくれた少年に恋、すこしベタではあるがミサキがタクミに恋をする事に違和感は感じない。
ただ、金沢の一件がミサキに恋心を芽吹かせたのだが、そもそもその事件をレンは知らない為、ファーストコンタクトで恋をしたと思い込むレン。
「(言っちゃ悪いけどミサキも結構ちょろいのかな?)」
心の中で随分な事を言うレン。そして、ミサキにこれから先の予定を聞こうとする。
「で、告白は何時するの?」
「ええっ!こ、告白!!」
「だって彼の事が好きなんでしょ?」
レンの言葉にミサキは少し不安そうな顔をする。
そんなミサキの様子に戸惑うレン。
「ちょっ、どしたの?そんな顔して」
親友の浮かなさそうな顔に心配するレン。すると、ミサキが答えた。
「正直・・・・勇気が少し出ないの。今の関係が壊れそうで怖くなって・・・・・・」
「も~意気地なし」
「うう・・」
レンの言葉に項垂れるミサキ。そんな姿を見かねてレンはミサキの肩を強く叩いて言った。
「うじうじしない!今まではからかっていたけど、ミサキが本気なら私も応援するよ。だから勇気持ちなって」
「レン、ありがとう。うん、そうだよね・・時が来たら必ずこの想いを告げようと思う。何も言わずに後悔なんてしたくないから」
レンの言葉に勇気づけられたミサキ。
そんなミサキの姿を見て、自分の親友が少し遠い場所に行ったように感じ、一抹の寂しさを感じるレンだった。
学園図書室では緊迫した空気が二人の生徒の間に流れていた。
「学園教師、金沢コンゴウ・・・・奴は表向きには別の学園に異動したとなっているが・・・・本当は違うんだろう?」
「何を言っているか解らないな。第一、何故俺にそんな事を聞く?」
「以前お前の魔力とあの男の吐き気がする魔力のぶつかり合いを学園の屋上から感じた。そこで金沢の魔力が消えた事からお前に敗れたんだろうと思ってな」
ヒビキの言葉にタクミは内心で冷や汗をかいた。
金沢の一件がばれてしまった事よりも、学園から事件現場までの長距離、普通ならば魔力を感知する事が出来ない距離であるにもかかわらず、自分達の魔力を感じ取ったヒビキの感知力にあった。
ちなみにタクミは正確な距離は測った訳ではないので知らないだろうが、学園から事件現場の森までの距離は約三キロはある。通常では魔力を感知できる距離ではない。
「お前・・・・いったい?」
「お前と同類だよ。人ならざる化け物さ。安心しろ、別にこの事実を吹聴する気はない」
そう言うとヒビキは本を閉じ、席を立った。
その場に一人残されるタクミは、せっかく借りてきた本も開いて読むきにもなれなかった。
図書室を出て、そのまま自分のクラスに戻ろうとしたヒビキだったが、自分のクラスに辿り着く前、廊下で一人の女子生徒がヒビキの前に立ち塞がった。
その女子生徒はどこか怪しげな雰囲気を身にまとっている。
「あら、また図書室で寂しく読書でもしてたの?ボッチは寂しい休み時間を過ごすのね」
「お前か、失せろ」
少女の嫌味に特に反応する事もなく、目の前から消えるよう告げるヒビキ。
そんなヒビキの反応に一瞬顔が歪む少女。しかし、すぐに元に戻り、なおもヒビキに絡む。
「相変わらず口汚いわね。そんな風に突っ張っているとすぐに周りから弾かれるわよ」
これ以上話しても無駄と思ったヒビキは彼女の言葉を無視し、彼女の横を通り過ぎて行く。
「チッ!!」
苛立ちを込めた舌打ちをする少女。ヒビキがいなくなり、彼女もその場から立ち去って行った。
昼休みももうじき終わるため、自分のクラスへと戻って来たタクミ。
彼はクラスに入ると、ミサキの方に視線を向けた。
「(さっきの事、ミサキに言った方がいいか?いや、でも・・)」
図書室でのヒビキとのやり取りをミサキに報告しておこうと思うタクミ。だが、クラスメイト達の前でこの話をする訳にもいかない為、今は何も言わず黙っておく。
「(学園長にも言っておいた方がいいな)」
タクミがこの後の自分の取る行動をまとめていると、昼休み終了のチャイムが鳴り、皆は席について次の授業の用意をし始める。タクミも一旦今考えている思考を打ち切り授業の準備をした。
そうして時間は経過し、今日一日の学園生活も終了した。授業も全て終わり、タクミはミサキの傍により周囲に聞こえないよう小声で言った。
「ミサキ、少しいいか」
「?、何かなタクミ君」
「・・少し話しておきたい事がある」
教室の外に出て人目の無い場所に移動した二人。周囲に誰もいない事を確認するとタクミは先程の図書館での出来事を話した。
「・・・・という事があってな、どうやらそのヒビキって奴は金沢と俺達との一件について気づいているみたいだ」
「そうなんだ・・・・どうしたらいいかな?」
「・・・・俺は学園長にも報告はしておくが、あいつが周囲にこの話を広めるとは思えん。恐らく放置していてもいいと思うんだが・・・・」
彼が周囲にこの事実を流すとはタクミには思えなかった。なにより・・・・あの男は様子を見た限り、周りとの繋がり事態を求めていない様にすら見えたのだ。
それにしても・・・・
「学園からあの森までの長距離の魔力を感じ取るとは、あいついったいどんな感受性してるんだ」
「・・・・さすがだなぁ」
「ん、何がだ?」
ミサキのさすがという言葉がどういう事か聞くタクミ。
そのタクミの疑問にミサキが答えた。
「実は以前、一年生のCクラス内でいざこざがあったの。その時にその桜田ヒビキ君が同じクラスの人と決闘をしたの・・・・桜田君一人に対し相手は三人だった」
そしてミサキは語り始めた。タクミがまだ学園に来る前、その時に自分が目撃した一方的な決闘の事を・・・・・・