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魔法ができてしまったこの世界で  作者: 銀色の侍
一学期 銀色の少年編
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第十二話 休日

 日曜日の昼下がり、一人の少女、黒川ミサキは〝マジック〟というショッピングモールで待ち合わせをしていた。

 時間は前日の夜に遡る。昨夜、レンからミサキにメールが送られてきたのだ。


 『ミサキ~~、明日ヒマなら一緒にショッピングでもしない?』


 ミサキとしても明日は特にやる事もなく、暇を持て余していたためその誘いに乗った。

 だが、ミサキがこの誘いに乗った理由は実はもう一つあった。それは次のレンが送って来たメールにある。


 『あ、タクミ君も誘う?交流を深める意味でさ』


 金沢との一件以降、ミサキはタクミの事が気になり始めた。そのため、いつも以上に身だしなみに気をつかってここへやって来た。


 「変なところないよね・・・・」


 自分の姿を改めて見直すミサキ。

 ミサキ自身は不安に思っているかもしれないが、異性の者達が見れば十人中十人が可愛い、綺麗と褒めるだろう。

 実際、彼女のそばを通り過ぎる男達はちらちらと彼女に視線を向けていた。


 「お待たせぇ~~ミサキ!!」

 「待たせて悪かったな」


 そこへレンとタクミの二人もやって来た。


 「待たせた?」

 「ううん、私も今来たところだよ」


 などと、ありきたりなやり取りをしている二人にタクミが言った。


 「でも俺まで来てよかったのか?女同士の方がよかったんじゃ」

 「そんな事ないって、ね、ミサキ」

 「うん、そうだよタクミ君」


 二人のその言葉にタクミは笑いながら言った。


 「そうか・・じゃあ俺も今日は買い物を楽しもうかな」


 こうしてマジックの中へ3人は入って行った。




 「あ、これ可愛いじゃん!」

 「この服、綺麗だなぁ~」

 「これ・・・・買っていこうかな?」


 店内を色々と見て回って行く三人。

 特に女性であるミサキとレンは楽しそうだった。やはり女性は買い物などに対する興味が男性より強いらしい。


 「おっ、ミサキ~~」

 「え?」

 「えいっ!!」


 突然レンに何かを頭に着けられたミサキ。

 それは黒猫の猫耳カチューシャだった。


 「お~可愛いじゃん!!」

 「ちょ、もうレン!」


 突然猫耳を着けられた事に不満を言うミサキ。そんなミサキをいつものようにからかい始めるレン。


 「も~興奮しない。それとも、発情期かにゃ~」

 「だ、誰が発情ッ!?」


 さすがに怒りを表すミサキ。そんな彼女を宥めるタクミ。


 「まあ落ち着けってミサキ。それに・・・・似合ってるぞ」

 「え・・そ、そう」


 意識し始めている相手に褒められ恥ずかしい反面、嬉しさがこみ上げて来るミサキ。


 「(う、本当に可愛いな。猫耳がすげー似合っている)」


 照れるミサキの反応にタクミも思わずドキっとする。


 「(あれ、なんかいつもとパターンが?)」


 どこかいつもとミサキの反応の違いに違和感を感じるレン。

 金沢の一件を彼女は知らない為、ミサキがタクミを意識し始めた事も知らなかった。


 「(ん・・・・げっ!、あれは)」


 その時、レンは顔見知りの人物を見つけた。




 レンの居る場所から少し離れた洋服コーナーでは二人の男女が洋服の吟味をしていた。ただ、少女ではなく少年の方が服を選んでいるようだ。少年の選んでいる服は、なんというか男物ではなかった。

 現在少年が着用している服も白猫を連想させる様な服装だった。


 「ん、これ可愛い」

 「また猫の洋服か・・・・今も着ているだろう」

 「ん、これは黒猫イメージ、今着ているの白猫イメージ」


 少年の方は知らない人物であったが、少女の方には見覚えがあった。


 「(風紀委員のアイツじゃん。私苦手なんだよね~、よしっ)」

 「二人共、今度はあっち見て回ろう!ほらほら!!」

 「うわっ!」

 「レンっ、ちょっと!?」


 突然強引に腕を引かれる二人。そのままずるずると引っ張っていかれた。




 「も~どうしたのレン?」

 「え、いや別に~」


 突然のレンの行動に疑問を掛けるミサキ。それを笑って誤魔化すレン。そこにタクミもミサキに続けて言う。


 「なんか無理やり連れていかれたからな」

 「も~二人共気にしすぎ。あ、あそこのアイスクリーム屋入ろうよ!」


 前方に見えるアイスクリーム店に速足で移動するレン。二人は方を竦め後を追う。


 「と~ちゃくっ、て、あれ?」


 店の中に入ったレン。しかしまたもやそこで見知った顔と遭遇した。


 「あ・・・・」

 「お、赤咲じゃねぇか」


 それは同じクラスのマサト、そしてメイだった。

 そこに、遅れてタクミとミサキも合流した。


 「津田・・」

 「久藍か・・」


 こうして、日曜日にAクラスの生徒が5人も同じ場所で顔を合わせたのだった。


 

 

 「いや~こんな事もあるんだね。休日にばったり、なんてベタな展開」

 「ああ、ほんとだな」


 レンの言葉にマサトが頷きながら同意する。


 「ところで津田、それから八神の二人も買い物で来たんだよな?」


 タクミがそう言うとレンがため息を吐く。

 レンのその反応にタクミが首を傾げた。


 「なんだよレン?そのため息は」

 「あのねー、そんなの聞くまでもないじゃん。男の子と女の子が二人っきりで一緒に休みを過ごす。それすなわち――――デートだよッ!!」


 ビシィッと効果音が付きそうな勢いでマサトとメイを指さすレン。

 それを聞きメイの顔が茹でダコの様になる。心なしか顔から湯気まで出てる様に見える。


 「で、デデデデデデートっ!!??」


 顔を真っ赤にし、視界がぐるぐると回るメイ。しかし、そんなメイとは対照的に落ち着きながらマサトがレンの誤解を訂正した。


 「違げーよ、買い物に来たら偶然コイツとばったり会っただけだ。今のお前達と同じでな」

 「え、じゃあ二人もここで偶然会ったの?」


 この二人も途中から邂逅していたという事に驚くレン。


 「(てゆーか今日、このショッピングセンターに何人アタラシス学園の生徒が居るのよ)」


 アタラシス学園生徒との遭遇率の高さに内心驚くレン。

 すると、ミサキが未だにテンパっているメイに心配そうに声を掛ける。


 「や、八神さん大丈夫?」

 「へ・・・・あ、は、はい」


 ようやく落ち着きを取り戻した八神。そんな八神の様子を見てレンが悪い顔をしながらタクミとミサキに言った。

 

 「な~んか八神さんの邪魔になりそうだし、私たちは行こうかタクミ君、ミサキ。ね、八神さん」

 

 ウインクをしてメイにそう言うレン。メイは意味を理解し再び顔が赤くなる。そして、僅かに熱っぽい視線をマサトへと向けた。


 「(これって、八神の奴・・・・)」

 「(うん・・・・八神さん多分)」

 

 タクミとミサキもメイの反応を見て、彼女がマサトに対して抱いている想いを理解した。


 「じゃ、私ら3人はいくね~」

 「え、おい、ここのアイス食いに来たんじゃないのか?」

 「あーいいの、もうお腹一杯だから♪」


 レンの言葉の意味が理解できずにいるマサト。一方メイは恥ずかしさの余り俯いていた。




 レン達3人が店から出ていった後、マサトは再びメイと二人になった。


 「なんだったんだ?」

 「な、なんだろうね」


 どもりながら答えるメイ。彼女はちゃんと意味が解っているのでほんのりと赤面している。

 

 「ね、ねえマサト君。その、よ、よかったらこの後私たちもお買い物しない?」

 「え、ん~まあこの後予定もないし、別にいいぜ」


 マサトの言葉にメイは思わず嬉しそうな顔をする。すると、マサトが何かを考える様な仕草を取る。


 「そういえば、お前と二人だけで買い物って小学生いらいじゃねえか?中学は学校ばらばらだったし」

 「う、うん、そうだね。(だから久しぶりに二人でいれて凄い嬉しい)」

 「・・・・なあ、メイ。お前、今はもう大丈夫なのか」

 「へ、何が?」


 突然自分を心配するマサトの理由が解らず何が大丈夫かを聞き返すメイ。


 「ほら、お前中学では・・・・」

 「!・・・・大丈夫だよ、今はもう・・・・」

 「・・そうか」


 メイのその言葉にマサトはそれ以上何も言わなかった。




 「いや~、まさかあの二人ができていたなんてねぇ~」

 「もうレンったら、余りからかうものじゃないよ」


 しかし口ではそう言っているミサキだが、その内心では――――


 「(八神さん、ちょっと羨ましいな・・)」


 想い人と二人っきり、今のミサキにはそのシュチュエーションは少し憧れるものがあった。

 その思いと共にミサキはそっとタクミへと視線を移した。




 「いや~楽しかった♪」


 その後、3人はマジック内を見て回り、時刻は夕方になっていた。

 レンは楽しんだようで満足げな顔をしていた。ミサキとタクミも楽しんだようでその顔は明るかった。


 「さて、じゃあ解散しますか!」

 「うん、そうだね」


 時刻も夕刻となり、解散してそれぞれの家へと帰ろうとするミサキとレン。しかし、タクミがミサキにこっそりと声を掛ける。


 「ミサキ、この後少しいいか?」

 「え、う、うん」


 タクミに耳元でそう告げられ少し驚くミサキ。

 そして3人は解散し、レンの姿が見えなくなった後、こっそとタクミとミサキが再び合流した。


 「悪いな呼び止めて」

 「ううん、それで・・・・何かな?」


 胸の鼓動が速まるミサキ。一体何を言う為に自分と二人っきりになったのか・・・・もしや、告は――――


 「お前・・・・あの金沢の一件以降、何か変わった事があったか?」

 「え・・・・ううん、あの後は特に何も変わった事はなかったよ」


 内心少しがっかりした気持ちになりながら答えるミサキ。しかし、自分の身を案じてくれていると思うと嬉しかった。


 「そうか・・何かあったらすぐに知らせろよ。まだお前は狙われているかもしれないんだから」

 「うん、ありがとう。タクミ君って本当に優しいね」

 「ん、まあ友達の為だからな」

 「(友達か・・あと一つ上の存在になりたいと思うこの気持ち・・これは我儘かな?)」


 タクミの事がどんどん気になっていくミサキ。その想いは次第に大きく、そして強くなっていく。


 「せっかくだ、送っていくよ」

 「・・・・・・」


 歩き出そうとするタクミ。すると――――


 ――ぎゅっ――


 ミサキの手がタクミの手を優しく握った。


 「え、ミサキ・・・・」

 「エスコートよろしくね、タクミ君♪」

 「っ、あ、ああ」


 嬉しそうな顔で手を繋ぐミサキ。そんな彼女に行動に顔を赤く染めながらタクミもそっと彼女の手を握った。

 夕暮れの二つの影が仲良さそうに手を繋ぎ一つの影になっていた。


 

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