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魔法ができてしまったこの世界で  作者: 銀色の侍
一学期 銀色の少年編
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第九話 縮まる距離

 タクミの胸でひとしきり泣いたミサキは、今は落ち着き冷静さを取り戻しつつあった。落ち着きを取り戻し始めたミサキはタクミから離れるとお礼を言った。


 「ありがとう、タクミ君」

 「別にいいよ、気にするな。さて・・・・それより・・・・」


 金沢に視線を移してタクミが言う。


 「とにかくコイツを学院長の元へ連れていくか」

 「そうだね、私を狙った理由も知りたいし・・」


 ミサキの言葉に頷き、金沢を確保しようと近づくタクミ。しかし、突然金沢の肉体に異常が起こる。

 突如、金沢の体から黒い炎、黒炎が発火したのだ。


 「なっ!?」

 「きゃっ!?」


 予想外の事態に距離を取る二人。

 金沢の体は完全に炎に包まれ、人の肉が焼ける、独特な悪臭が周囲に漂い始める。


 「うっ・・・・うぇ・・」


 その臭いや光景に思わず吐き気を催し、手で口を覆うミサキ。無理もないだろう。同じ人間が焼ける光景など普通は見ないものだ。そして、それを気分良く眺められる神経をしている人間だって普通はいない。

 やがて・・・・炎は消えていき、そこには何も残っていなかった。


 「なんだよ・・・・一体・・?」

 



 「・・・・・・・・」


 そんな二人を離れた位置から見ている黒装束の女。彼女は金沢がこの世から消え去った事を見届けると黙ってその場を後にした。


 「・・・・・・ミサキ・・・・じゃあね」

 消える直前、女はミサキの方に顔を向けた。その顔にはどこか悲しみが宿っていた。




 その後、タクミとミサキは学院長室へと足を運んだ。一連の出来事を聞いたアナハイムは二人へと言った。


 「そうですか・・・・とりあえずお二人共、無事でよかったです」

 「タクミ君が居たおかげです。私一人では・・・・殺されていました」


 その言葉を聞き、アナハイムがタクミへと礼を述べる。


 「ありがとうございました久藍君。君のお蔭でこの学園の大切な生徒の命が救われました」

 「俺は当たり前の事をしただけです」


 タクミはそう言ってアナハイムの目を見る。その顔は何かを考えている様にみえる。


 「学院長・・・・金沢が死んだ原因はやはり・・・・第三者の仕業だと思いますか?」


 タクミの考えにアナハイムも同意を示す。


 「ええ、話を聞く限り金沢先生の意思ではないでしょうし・・・・しかし、結局黒川さんを狙っていた理由は分かりませんでしたね」


 その言葉にミサキが俯く。


 「(どうして・・・・私が何をしたの)」


 ミサキの心中は不安が再び募り始める。第三者の存在が在った以上、まだ全てが終わったわけではないのだ。

 そんなミサキの不安を察知し、タクミはミサキの肩を持つ。


 「大丈夫だ・・・・俺が守るから・・・・」

 「タクミ君・・・・」


 タクミのその言葉にミサキの不安感が薄れていく。

 とても優しく、自分を二度も守ってくれた少年。そんな彼はミサキにとってただの友達という或から少しづつはみ出していく。


 「・・・・ありがとう」

 「おお、気にすんなって」


 タクミにそう言ったミサキの頬は少し赤く染まっていた。




 学園の屋上、そこに栗色の髪をした一人の少年が立ってた。彼は特に何をするでもなく、屋上から雲を眺めていた。


 「やあ、何してるの~?」

 「・・・・・・」


 屋上に間延びした声が響いた。少年はその声に反応し、声の主を見る。


 「東堂ムラクモ・・・・」

 「やっほ~」


 手をプラプラと振りながら少年に、紫の綺麗な髪をした少女が近づく。


 「雲見てたの~?」

 「・・・・・・」


 少年は何も答えず、ムラクモから視線を外す。


 「も~、無視しないでよ~」


 そう言いながら、少女は少年の前へと回り込む。


 「・・・・何の用だ?」


 少年はうっとおしいといった感じで質問をする。


 「別に用はないよ~、でもせっかくだしおしゃべりしようよ~」


 少年はやってられないと思い、屋上から出ていこうとする。ムラクモはそんな彼のあとに続く。


 「待ってよ~、ヒビキく~ん」


 そんなムラクモの言葉を彼、桜田ヒビキは特に取りあわずスタスタと歩いて行った。

 



 学院長室では現在、アナハイムとチユリの二人が今回の一件について話し合っていた。


 「黒い炎・・・・久藍君の言う通り第三者だとしたら、その人物も黒川さんを狙って・・・・」

 「どうでしょう・・・・現状ではまだ・・それに、黒川さんが狙われている理由も分かりませんし」

 「しかし、久藍君は凄い子ですね、金沢先生を圧倒するほどの魔力を持っていたとは」


 チユリの言葉に頷くアナハイム。


 「黒川さんの事は、あながち彼に任せて正解だったかもしれませんね・・・・花木先生、もう一度この学園の教師や生徒の事を調べてみましょう。新たな発見があるかもしれません」

 「はい、了解です!」




 そして事件の当事者であるミサキはタクミに家までエスコートされていた。


 「タクミ君、もうここまででいいよ。そこまで気を使わなくても」

 「そうはいくか。家までは送るよ」


 道中、タクミはもしもの事を考え、家までミサキの傍に付いていく事にしたのだ。

 そうして無時、家まで辿り着いたミサキ。


 「ありがとうタクミ君、わざわざ家まで」

 「いいって、花木先生から貰った新しい指輪は常にはめておけよ」

 「うん、分かってる」


 あの後、ミサキはチユリからより精度の高い指輪を渡されていた。最初に渡した物よりも対策が施されている代物だ。


 「じゃあ・・・・行くよ。また明日な」

 「・・うん」


 そう言って自分の家へと帰るため、足を運ぶタクミ。そんな彼の背中を見つめるミサキ。


 「・・・・、タクミ君ッ!!」


 突然大声で呼び止められ、少し驚きながら振り返るタクミ。そんな彼に向かって大声でミサキは言った。


 「また、明日!!」


 手を振りながら伝えるミサキ。そんな彼女を見て、タクミは笑いながら大きな声で返す。


 「ああッ!また明日!!」


 そう言ってタクミは帰っていった。

 ミサキはタクミの姿が視界から見えなくなるまで彼を見続けた。


 「(王子様か・・・・レンの言った事、正しかったのかも)」


 ミサキのタクミへの見方は、この日を境に変化し始めるのだった。そしてその逆、近い未来タクミの方にも変化が訪れる事になる。




 アタラシス学園から少し離れた場所、大都会の中、黒装束の女は喫茶店の中で一息ついていた。

 彼女は今は黒装束ではなく、少し露出が際どい服装をしていた。周囲の男達は彼女の美しい容姿と際どい服装にちらちらと視線を向けている。しかし女は周りの目など気にせずコーヒーを優雅に飲みながら先程のタクミの戦いを思い返していた。


 「(彼のあの強さ、あれなら大丈夫かしら?)」


 何やら物思いにふけるその姿はどこか絵になっていて、周りの男達の目は釘付けになっていた。

 



 波乱の事件から翌日、学校へと向かうミサキ。いつもの様にレンと合流し、他愛ない話をしている。

 ちなみに、昨日の事は余計な心配をさせない為レンには黙っていた。


 「そういえばレン、昨日は用事があるって早く帰ったけど、結局なんだったの?」

 「うぇっ!?・・・・い、いや・・あははははは、別にたいしたことじゃないよ!」

 「・・・・・・」


 明らかに何かを隠しているレン。しかし、他人のプライバシーの詮索は野暮な行為だど思い、それ以上の追及はしなかった。自分だって昨日の事は隠しているのだから。

 レンの場合はぐいぐい来るだろうが・・・・


 「おはよう二人共」

 「あ・・・・」


 そこにタクミも合流する。タクミの姿を見てミサキは嬉しそうにあいさつをする。


 「おはよう、タクミ君♪」

 

 また今日も、平和な学園生活をミサキは過ごす事が出来る。

 大切な友人達と共に・・・・・・


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