第三話 学園案内
1年Aクラスでは、転校生がやって来たことで少し騒がしくなっていた。3時間目の授業が終わり、今は次の授業の間の休み時間。その間にタクミはクラスメイト達からいろいろ質問されたりしていた。
そんな光景を見ていたレンがミサキに言う。
「人気だね~彼。まぁ、顔もいいし、性格も悪くないみたいだし。ミサキもうかうかしてられないね」
「だから!誤解だよ!!」
レンの言葉に強く反応するミサキ。
それからしばらくし、休み時間も終わり担任のチユリがやって来た。クラスの皆も自分の席へと着く。
「どうですか久藍君。クラスには慣れましたか?」
チユリの言葉にタクミは答える。
「はい。クラスのみんなとも気が合うのでうまくやっていけそうです」
タクミのその言葉にチユリが嬉しそうに頷いた。
「そうですか。それはよかったです。ああ、そうだ」
言葉の途中で何かを思い出したチユリ。彼女はミサキの方をみてある頼みごとをした。
「黒川さん、今日はあなたが日直でしたね?」
「あ、はい」
今日の日直は自分なので返事をするミサキ。
チユリが続けて言う。
「もしよろしかったら、久藍君に学園の案内をしてくれませんか?彼にもこの学園のことを詳しく知ってもらいたいので」
「!・・はい、分かりました」
チユリの頼みを承諾するミサキ。彼女としても自分を助けてくれたタクミに何かしらお返しをしたいと思っていたところなので、丁度よかったといえる。
「(これは・・・・おもしろくなってきた~♪)」
そしてレンは、おもしろいおもちゃを見つけた子供のように内心はしゃいでいた。またミサキをからかう材料ができたからだ。
ついでにいえば、レンもタクミのことは気になっていたので、ミサキを通じていろいろと話を聞くことにした。
授業が終わり昼休み。生徒達は購買や学食、各自持ち込んだ弁当を食べ、昼食をとっていた。タクミも家から持参してきた弁当を開けようとする。そこへ・・・・
「久藍君、一緒に食べていいかな?」
「ん・・あ、お前・・」
タクミが振り向くと、そこにはミサキが立っており、手には可愛らしい風呂敷に包まれた弁当を持っていた。
「たしか・・さっき案内を任せられた・・・・」
「黒川ミサキだよ。よろしくね。」
笑顔を浮かべながら自己紹介をするミサキ。そんなミサキにタクミも自己紹介をして返す。
「久藍タクミだ、よろしく。・・・・そういえばお前、さっき森で会ったな」
「うん、あのときはありがとう。あなたのおかげで助かったよ。ごめんね、お礼が遅れて」
「べつにいいって、こっちこそありがとな。学園の案内引き受けてくれて」
「ううん、気にしないで」
二人がそんなやりとりをしていると、そこへ近づいてきた生徒が一人いた。
「お二人さん、私も混ぜてよ♪」
「ん?」
二人の会話に加わってきたのはミサキの親友であるレン。彼女もまたタクミに興味を抱いていた為、話に混ざるタイミングを探っていたのだ。
「お前も・・・・森でたしか・・」
「赤咲レン。よろしくね!」
元気よく挨拶をするレン。
その後3人は机をくっつけ、各自持参した弁当を食べながら談笑をする。そして話は学園案内の話になった。
「じゃあ、放課後に案内するね久藍君」
「ああ、頼むよ」
「あっ、じゃあ私も付き合うよ」
タクミの学園案内に自分も付き合うと言うレン。
こうして、昼休みの昼食時に3人は交流を深め、放課後に学園を見て回ることを約束した。
そして放課後。授業もすべて終わり部活へと行くもの、家へと帰宅するものなど、生徒達はそれぞれ動き始める。
現在、タクミはミサキとレンに学園を案内してもらっている最中だった。すでに学園の大半は見て回り、3人は次に学園の図書室へと向かっていた。
「ここが図書室だよ」
「へえ~、結構広いな~」
図書室に入室し、中の間取りを見てタクミが言った。
図書室は中々のスペースがあり、置かれている本の量も中々のものだ。
「いろいろなジャンルの本があるな・・・・ついでに何か借りていこうか・・・・」
置かれている本を見ながらそう呟くタクミ。だが、彼の言葉は不意に止まる。
「タクミ君?」
突然黙ったタクミに疑問を思い、タクミに声を掛けるミサキ。すると、タクミの視線は一人の生徒に向けられていた。
タクミの目の先には机に座り読書をしている生徒がいた。
「(あ、彼は・・・・)」
タクミが見ていた人物はミサキにも心当たりがある生徒だった。
「ん・・ああ悪い、次に行くか」
「あ、うん・・」
ミサキに声を掛けられ、意識を戻すタクミ。そして3人は次の場所の見学に移る為、図書室を後にする。
「・・・・・・」
図書室を出ようとするタクミ達・・・・その後ろ姿を一瞬、タクミが見ていた少年が目を向けていた。
その後タクミ達は学園を見て回り、学園の大まかな紹介は終わった。
現在3人は教室へと戻り帰り支度をし、学園の玄関へと移動していた。
「今日はありがとな、二人共」
礼を言うタクミにミサキが言葉を返そうとした時、ミサキに声を掛けて来る者がいた。
「やあ、黒川さん」
「っ・・小林先輩・・・・」
自分に声を掛けてきた人物を見て、ミサキは少し困った顔を浮かべた。隣にいたレンもうげっといった顔をしている。
「奇遇だね、今から帰るところかな?」
「は、はい」
「どうかな、この後よかったら近くの喫茶店でお茶でもしないかい。まだ遅い時間でもないしね」
「いえ、結構です・・・・」
突然現れた男はタクミやレンがいることなどお構いなしにグイグイとミサキに迫る。そんな様子を見てタクミがレンに小さな声で目の前の男が誰なのか尋ねた。
「おい、誰なんだ?」
「・・・・小林ケントっていう2年の先輩だよ。そんでもってミサキにしつこく付きまとっているんだこの人」
「(おいおい、それってストーカーじゃないのか?)」
内心そう思うタクミ。ミサキの反応を見る限り、両者共に友好的な関係という訳でもなさそうだ。この小林という男が一方的に接近している様にしか見えない。
「まあまあそう言わずにさ・・」
「そこまでだ」
ミサキの手に自分の手を伸ばそうとする小林。さすがに見過ごせず小林の手を掴み引き留めるタクミ。
突然横やりを入れられ不機嫌そうな顔でタクミを睨み付ける小林。
「おいこの手はなんだ、1年生」
「こっちのセリフだ。嫌がる女の子にしつこく付きまとって、ストーカーかよ」
「なっ、す、ストーカーだと!?」
自分がストーカー呼ばわりされたことに小林が怒り、タクミに食って掛かる。
「貴様、言葉を選べ!!俺はただ黒川さんに声を掛けているだけだろうがッ!それをストーカーだとッ!!!」
「じゃあ嫌がる子に何度も付きまとう奴は他に何っていうんだ」
「貴様ッ!!」
「く、久藍君やめて!」
どんどんヒートアップする状況に黙ってられず、ミサキがタクミを収めようとする。しかし、タクミはそんなミサキを見て逆に言う。
「黒川も、嫌なら嫌と強く言った方がいいぞ。そうしないからこういうのがいつまでもついて回るんだ」
タクミの言葉に小林がとうとう我慢の限界がきたようで、タクミに向かって大声でこう言った。
「決闘だッ!、決闘を貴様に申し込む!!」
その言葉にピクッと眉を少し上げるタクミ。
決闘制度――――これはこの学園に設けられた制度であり、互いに鍛え上げた魔法をぶつけあい、切磋琢磨する為のものである。戦いの中で自分の悪い点、伸ばすべき点を見極めることで、より優秀な魔法使いへと進歩することができるはずという学院長が発案した制度。その他にも、いざこざが発生した際白黒つけるためにも利用されることがある。まさに今回のように・・・・・・
タクミもミサキからこの制度は聞いていたため特に驚くことはなく、むしろ小林の決闘の申し込みをチャンスだと思った。
「いいぜ、受けて立つ」
「久藍君!?」
平然と決闘を受けたタクミに驚愕するミサキ。そんなミサキはおいておき、タクミは言葉を続けた。
「ただし、条件がある」
「条件だと?」
「べつに難しいことじゃない。この勝負で俺が勝ったら、もう黒川に付きまとわないでくれればいい」
「っ・・コイツ・・・・いいだろう。ただし、俺が勝ったらお前の方こそ黒川さんにはもう近づくな!!」
「(ど、どうしよう)」
「(あ~らら)」
唐突に決まってしまった決闘にミサキはオロオロし、レンはどうなるかを呑気に考えていた。
学園の図書室。
「・・・・・・」
そこでは一人の生徒が机に座り本を読んでいた。いや、本は開いてはいるが、ページは一向にめくられようとはしていなかった。本を開いていながら、彼は先程自分を見ていた銀髪の生徒のことを考えていた。
「(・・同じだったな)」
先程自分を見ていたあの男は自分と同じ気配を感じた。
「(あの男は自分と同じ)」
強大な力をその身に宿した、人の形をした・・・・
「化け物・・・・」
少年の口からは小さな呟きが漏れた。
学園案内が終わった後、2年の先輩、小林ケントとタクミの間に一悶着があり、結果二人の決闘が決まった。 決闘は明日の昼休みに行われる。
その後3人は別れてそれぞれの家へと帰宅した。
「ただいま・・・・」
玄関を開け、帰宅の挨拶をするミサキ。
するとすでに家に帰っていたミサキの妹、ユウコが二階から降りてきて挨拶を返す。
「おかえり~、お姉。・・・・どうしたの、なんか疲れた顔をしてるけど」
「ん・・ちょっとね」
そう言って二階の自分の部屋へと上がっていくミサキ。そんなミサキを不思議そうな顔をしてユウコは見ていた。
「学校でなんかあったのかな?」
部屋に着くとミサキは布団に顔をうずめ、盛大にため息をはく。
「はぁぁぁぁぁぁ~~・・・・どうしよう」
今回の決闘は自分が原因で起こったようなものだ。そう考えるとミサキの気も重くなる。自分のせいでタクミが怪我をするかもしれないと思うと、申し訳なくなってしまう。
・・・・一番の原因は正直小林ケントなのだが。
「まさかこんなことになるなんて・・・・」
これではなんだか彼に迷惑をかけしまったよう、いや、これはかけてしまっているだろう。
「不安だな・・明日は・・」
自分が決闘をするわけでもないにもかかわらず、ミサキの気は決闘を受けたタクミ以上に重たくなり、再びミサキの口からは大きな息が吐かれた。
アタラシス学園の学長室。そこではアナハイムが魔の森の1件の出来事について考えを巡らせていた。
「う~~~む」
唸り声を出すアナハイム。その顔は眉間にしわが寄り、渋い表情になっている。
「(魔物の出現・・・・そして遭遇した黒川さん。しかし、久藍君はともかくとし、他の生徒達は誰も遭遇しなかった。金剛先生の話では黒川さん、赤咲さんの他にも残っていた生徒達は彼が回収して回っていたらしいが・・・・)」
思考の海に沈んでいくアナハイム。次々と彼の中では様々な考えが浮かんでいく。
「(偶然黒川さんだけ遭遇した?そもそもどこからあの魔物達はやって来た?)」
あの事件の後、学園の教師たちを動かし、森の詮索を行ったが魔物の存在は確認できなかった。
魔の森までやって来た痕跡すらなかったのだ。・・・・まるで突然現れたかの様に。
「まさか・・・・」
アナハイムの中である可能性が浮かび上がる。
「いや、しかし何故?」
部屋に中にアナハイムの独白が小さく響いた。
窓の外から見える夕日はもう沈みかけ、学園は影に飲まれかけていた・・・・・・