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魔法ができてしまったこの世界で  作者: 銀色の侍
兄弟、巡り合い編
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第百七十五話 ヒトシとドリーの出会い


 父から告げられた衝撃の事実に未だ混乱を僅かに残しながらも、今から語られる話を真剣に聞こうとするタクミ。今まで、仕事ばかりの父親の口から母に関する話を聞いたためしはタクミにはなかったからだ。それ故、仕事ばかりに没頭していた人間から語られる母と父の出会いはどんなものであったか興味が尽きなかった。逆に母からは父に関して色々な話を聞いてはいるが、今に思えば二人がどのように出会ったかに関してははぐらかされている様に思える。

 

 「タクミ…俺が母さんと出会ったのはこの世界ではない……此処とは異なる数多くの別世界、その一つの異世界で俺は母さんと出会った」

 「!?」


 思わず息を吞んでしまう……それしかできなかった。

 先程までは正気を疑っていたタクミであったが、父の瞳には冗談やごまかしなど一切隠れてはいなかった。だからこそ、タクミは反論することが出来なかった。


 「母さんは心臓病を抱え込んでいた事はお前も知っているだろう。母さんは元居た世界では裕福で恵まれた生活を送っていた。だが重い心臓病を持つが故、箱入り娘の状態で過ごしていた」

 「……母さんが別世界の住人なら、どうやって父さんと出会ったんだよ……?」

 「慌てるな…これからちゃんと話してやる」


 無意識の内に話を急かしている事に気付くタクミ。

 だが、それは無理も無いかもしれない。自分が別世界の住人だと言われ、更には母親までこの世界とは別の世界の住人であったと聞かされ、黙って冷静に話を聞き続ける方が難しいかもしれない。むしろ感情的になって大声を上げない分、まだマシな反応と言えるかもしれない。


 「母さんには魔法使いとして中々…いや、かなりの才能が有った。しかし病を治す手立てがなかったが故に屋敷の中でいつも安静にすることを余儀なくされていた。寂しかったんだろうな…だから母さんは屋敷の中に居ても〝誰か〟と接することが出来る魔法を習得した」

 「誰かと接することが出来る魔法……?」


 首を捻りながら聞き返すタクミ。


 「母さんは〝召喚魔法〟を作り出し、屋敷の外に居る害の無さそうな小動物を部屋へと呼び寄せては寂しさを紛らわしていたらしい」

 「召喚魔法……」

 「ああ、自分の理想とする条件を定めた後にそれに近い生物を自分の出現させた魔法陣へと転移させる魔法だ」


 そこまでヒトシが話すと、これまで静かに話を聞いていたミサキは何かに気付いた様で思わず小さな声で「あっ」と声を漏らした。

 それに遅れ、タクミとレンの二人も気付く。


 「父さんが母さんと出会った経緯って……まさかその……」

 

 タクミの言葉に小さく頷くヒトシ。

 

 「そうだ…俺は召喚魔法によって母さん…ドリーと出会ったんだ……」


 ヒトシは目をつぶり、初めてドリーと出会った時の事を思い返した。





 


 『ここは……?』

 

 突如として街中を歩いていたと思うと、見知らぬオシャレな部屋へといつの間にか移動をしていたヒトシ。

 突然の事態に思わず周囲をキョロキョロと見渡していると、そこに声を掛けられる。


 『ごめんなさい…やっぱり戸惑っているわよね……』


 声の方を振り向くと、そこには綺麗な一人の少女が部屋に備わっている椅子に座りながらこちらを見ていた。

 

 『………』


 自分に話し掛けて来た少女に思わずヒトシは見とれてしまっていた。

 自分よりも背丈の低く、雪の様な白く柔らかそうな肌、そして宝石のようなきれいな瞳。それらの少女の容姿の全てに目が釘付けになってしまっていた。


 『あの…いいかな?』


 反応が返ってこない事に首を傾げる少女に、慌てて返事を返そうとするヒトシだが……。

 

 『ああ…えっと……』


 しかし、未だ状況を理解できないがためどう返事を返せばいいか分からず戸惑ってしまうヒトシ。

 そこへ、少女の方から声を掛けて来た。


 『ごめんなさい…迷惑を掛けている事は分かっているの……でも、寂しくてつい……』


 頭を下げながら謝罪の言葉を述べる少女。

 

 『ああ…いや……ハイ…それで君は……?』


 少女は顔を上げながらここに来て自己紹介をした。


 『私の名前はドリー。あなたをここへ呼んだ張本人なの』







 「ドリーは部屋に籠りっきりで寂しさの余り、迷惑を掛けると分かっていながらも動物ではなく人間の話し相手を求めた……そして、自らの元へ俺を呼び寄せたんだ」

 「それが…父さんと母さんの出会い……」

 「ああ……」


 どこか遠い目をしながら頷くヒトシ。

 そして、話は続いて行く。


 その出会いをきっかけに、ドリーはヒトシを自分の元へと何度も呼び寄せるようになったのだ。初めてヒトシを自分の元へと呼び出したのは、優しい人間という条件からランダムに選ばれた偶然であるが、それ以降、ヒトシは暇な時は話を聞いてあげるとドリーに約束をし、屋敷の人気が少ない毎晩にはヒトシを召喚魔法で呼び出し彼女の話し相手になってあげていた。

 そして二人は会話をするにつれ互いの認識が少しずれていることに気付く。それはつまり、自分たちの住んでいる世界に対する認識の違いとでもいうおうか。そして、二人は互いが別世界の人間である事にしばらくしてから気付いた。


 だが、そんな事はドリーにとっては些細な出来事であった。

 

 何時も屋敷に閉じこもっていた彼女にとっては自分の話し相手になってくれるヒトシの存在はありがたかった。そして元は自分がいきなりこの世界へと呼び寄せたにもかかわらず、自分に優しく接してくれるヒトシにいつの間にかドリーは恋心を抱くようになっていく。


 そして十を超える密会の後、ドリーとヒトシは恋仲の関係となった。







 「ドリーと恋仲の関係になった俺だが彼女の両親はそれを許しはしなかった」


 ヒトシは重い声を出しながらタクミ達へとその後を話す。


 ヒトシはドリーと共に彼女の両親の前に姿を現し彼女と恋仲になった事を報告した。だが、彼女の両親はどこの馬の骨とも分からぬ男との恋愛など許せないとヒトシとドリーの関係を許しはしなかった。それどころか、今後娘の前には二度度現れるなとヒトシを元の世界へと突き返したのだ。

 その後、ドリーの部屋には見張りまで付けられ彼女もヒトシを呼び出すことは出来なかった。


 そして、ヒトシがドリーと引き裂かれてから約一か月後の出来事である


 『はあ……』


 覇気の無き声でため息を吐くヒトシ。

 ドリーの両親から恋愛を拒否された日から今日までの約一か月の間、彼女からの呼び出しは一切なくなった。


 『ドリー……』


 彼女に会いに行きたい…だが、自分から彼女の元へと向かう手段がないのだ。今までは決められた時間に彼女が自分のことを呼び出すように手筈が整っていたが、恐らく彼女の両親が見張りでもつけているのだろう。

 

 ――――だが、次の瞬間ヒトシの体が今居る場所から消えた。







 一瞬で周囲の景色が変わったヒトシであったが、何が起きたのかはすぐに察した。

 今までも何度もこうして自分は彼女に呼び出されていたのだから。そして、目の前には自分の想像していた通りの人物が微笑んでいた。


 『まあ…逢えたね……』

 

 そう言って彼女は見惚れる程の笑みと共に抱き着いてきた。


 『ドリー…此処は何処なんだ?』


 ヒトシが周囲をよく確認すると、そこはいつも呼び出される彼女の部屋ではなく、なにやら木材が並んでいる殺風景な小屋の様な場所であった。


 『偶然見つけた隠れ家…かな? 今はもう誰も使っていないみたい。屋敷からは相当離れているし、この付近まで外を歩いたことも無いから詳しい場所までは……』


 その言葉にヒトシは驚いた顔をする。

 

 『ドリー…お前まさか……』

 『うん…家出しちゃった……えへ…』


 困り顔をしながら笑っているドリーであったが、そこには微塵の迷いも後悔も見られなかった。


 


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