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魔法ができてしまったこの世界で  作者: 銀色の侍
兄弟、巡り合い編
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第百七十四話 父親との対話2


 タクミが父親へと電話を終えてから約三十分の時間が経過した。その間、病室内では静寂な時間が流れ続けていた。その原因としてはタクミの雰囲気が僅かながら暗く、その様子からレンはタクミは父親との関係が余り良好な物ではない事を何となく察し、ミサキは以前にタクミから話を聞いていた為に声を掛けづらかったのだ。


 「(タクミ君……)」


 ミサキが心配しているにもかかわらず声を掛けられなかった理由は、コレが久藍家の家庭内問題であるからだ。他人…という程に自分とタクミの距離が離れているとは思えないが、かといってずけずけと首を突っ込むのもいかがなものかと考えてしまっているのだ。


 重苦しい空気が漂う静寂の中、病室の扉をノックする音が室内に居る三人に聴こえて来た。


 ノック音の後、ガラリと開かれる扉の向こう側、そこには――――


 「………」


 無言のまま、タクミの父がそこには立っていた。


 「……やっと来た」

 「……ああ、遅れて悪かったな」

 「明日は雪でも降るのかな…父さんが俺に謝罪なんて……」


 息子から送られる皮肉に反応することなく、病室へと足を踏み入れる父親。そのままタクミの傍まで近寄ると、傍に居たミサキとレンへと挨拶をする。


 「タクミの友達かな? 私は彼の父の久藍ヒトシだ……」


 タクミの父、ヒトシが名乗りながら頭を下げたので、頭を下げられた二人も慌てて会釈した。


 「初めまして、赤咲レンです…」

 「は、初めまして…黒川ミサキといいます…」


 レンは落ち着いているが、それとは対照的にミサキは緊張していた。

 何故なら、彼女は自分がタクミとお付き合いしているという事実を自分の家族には話しているのだが、目の前に居るヒトシには話していない。息子であるタクミも、この事実を話してはいなかった。


 報告すべきかとミサキが思い悩む中、それよりも早くタクミはヒトシへと早速対話を始めた。


 「父さん…電話越しでも内心で狼狽している様子は伝わって来た」

 「……」

 「俺に襲い掛かって来た〝弟〟を名乗るあの少年…何か知っているんだろう……」


 返事はない……だが、普段とは違う表情の僅かな変化は息子であるタクミにはお見通しであった。


 「話してくれ……」


 何を? 何が? という言葉は返っては来なかった。

 

 「そうだな…お前には知る権利がある……だが――――」

 「言っておくがこの二人も襲われているんだ。聞く権利はある…」


 言い終わるよりも早くタクミは同室している二人の少女にも話を聞く権利がある事を主張する。


 「分かった……」


 短く一言だけ、そう返事を返された。


 「タクミ…お前は――――」


 そして、父親はこれまで隠し続けて来た全てを告白した。







 ヒトシが病室へと入りタクミと話をしている最中、病室の外で待機している三名の人物も話をしていた。


 「あなたは…久藍とはどういった関係で……?」


 彼と同じ学園の生徒である神保シグレは、ここへやって来た自分の知らぬ存在であるレイヤーへとそんな質問をする。

 

 「あら、それを聞く理由は?」

 「…いえ、特にはありませんが……」


 特に理由はないと言っているシグレの表情には、少なからずの疑念の表情が隠れていた。根拠はない、しかし彼女の中の直感が隣に居る女性に対して微かな警戒心を抱かせていた。

 そして、シグレ以上に彼女の隣で座っているカケルの警戒色はさらに強かった。


 「………」


 一見ぼーっとしているかに見える黒猫はシグレ以上に感じ取っていた。

 この人は自分と同じくその手を血に染めた経験がある…と……。そしてそれはレイヤーもまた同じであった。


 「(…この猫坊や……幼い見た目とは裏腹に殺っているわね……まあ、どうでもいいけど……)」


 カケル、レイヤー共に互いが自らの手を血に染めている事を見抜くが、それを口にすることはしない。何故なら、自分たちは争う理由がないからである。たとえ相手が何者であろうと自分に敵意が向いていないのであれば放置しておけばいい。


 だが……敵対するというのであれば――――


 「「(………)」」


 顔を見合わせている訳ではないが、この時二人は同じことを考えていた。


 ――――敵意を向けて来るのであれば、その時は殺せばいい…と………。


 まさかそんな物騒な事を一緒に居るこの二人が考えているとは、シグレには到底思いもしない事であった。







 「さてタクミ…まずは一番大事な事を話しておかなければならない」

 「大事な事……」

 「そうだ…お前自身が知らないお前に関する重要な事実。コレを話しておかなければ話は進まない。お前の弟を名乗った少年の話も、この事実を知ることから始めなければならない」


 タクミは無意識の内に小さく唾をのんでいた。

 

 「一体何なんだ? 俺自身すら把握していない俺にとっての重要な事っていうのは……」

 「………タクミ…お前は~~~~~~~なんだ…」

 「……はあ?」


 父親が放った言葉に思わずタクミは首を傾げ、間抜けな声を出してしまう。傍で話を聞いていたミサキたちもキョトンとした表情をしている。

 それほどまでに、父の放った言葉は理解できないものであったのだ。


 「え~っと…いや……今ナンテ?」


 自分の耳を、もしくは目の前に居る父親の正気をおもわず疑いかねない発言に再度聞き直してしまう。

 失礼と分かっていながらも、ミサキとレンの二人も同じ思いであった。

 しかし、そんな周囲の反応など構うことなく、ヒトシは再び繰り返す。


 「馬鹿々々しいと思うだろうが事実だ。タクミ…お前は――――この世界とは異なる別世界で生まれ落ちた人間だ」

 「……いや……いやいやいや!」


 手をブンブンと振りながら勢いよく否定をするタクミ。

 

 「え? 父さんさ……こっちの方は大丈夫か?」


 自分の頭を指でコツコツと叩きながら、思わず笑ってしまいそうになるのを堪えながらそう聞くタクミ。

 失礼極まりない事は百も承知の上だが、それほどまでに父の放った言葉は滑稽無糖な物であった。いくら魔法がはびこるこの世界でも別世界が存在するとは普通の者は想像もしない。現にタクミも父親がどのような真実を告白しても受け止める気でいたにもかかわらず、〝別世界で産まれた〟などと言われるとは予想にもしなかったのだ。


 「何度でも言おう。タクミ…お前は……」

 「いやいやいや! 待て待て待て!!」


 手のひらをかざして話を遮るタクミ。

 

 「少し待てよ父さん……いくら何でもそれは嘘だろう………もしもその話が本当なら俺はこの世界とは別の世界からやって来たって事になるのか? それはいくら何でも……」

 「お前が信用できないのも無理はない……お前はまだ言葉も満足に話せない赤子だったんだからな……」


 真面目な顔をしながら話す父の顔には冗談で言っているようには見受けられない。だが、素直にこの事実を受け入れる事もタクミにはできなかった。


 「タクミ…これから話す事を信じるも信じないもお前の自由だ。だが、真実を知りたいのであれば最後まで聞くことだ」

 「……」


 自分が別世界からやって来た存在だと信用したわけではないが、自分の弟を名乗った襲撃者について何かが分かるのであれば。そう思いとりあえずおとなしく話を聞くことにするタクミ。傍にいるミサキとレンの二人も口を挟まず黙って話を聞くこととする。


 「……まず、お前が全てを知るには私と母さんの出会いについてから話そう……」


 ヒトシは全てを語った…息子のタクミすら知らない隠された久藍夫婦の出会い……そして夫婦が体験した悲劇について………。

 


 

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