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魔法ができてしまったこの世界で  作者: 銀色の侍
獣人世界からの刺客編
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第百六十七話 新たな別世界の住人


 目の前で圧倒的な威圧感を放つヒビキに対し、恐怖心を抑えきれずに微かだが体を震わす謎の襲撃者。しかし、最早彼には抵抗の意思はなく、自分の標的や、その目的について白状し始めた。


 「俺は・・・この屋敷に居る一人の獣人の始末が目的でやって来た・・・」

 「まあ、あれだけ殺気を乗せた魔力を放ってたから・・・殺し目的だって事は予測がついていた」


 ヒビキのその言葉に、男は内心で驚愕していた。

 この屋敷に居る者達には気付かれぬ様、男は限界まで魔力を抑え込んでいた筈であった。にも拘らず、目の前の少年はその魔力を探知し、そればかりか自分の殺意まで気付いていたのだ。


 「(この餓鬼・・・どれほどの感知力なんだ・・・!)」

 

 内心で驚きの声を上げている男。

 ヒビキの感知力に驚き、声を止めてしまう男に苛立ち、彼は男の氷柱が刺さっている足に蹴りを入れる。


 「がうっ!?」

 「黙り込んでないで早く話せ」 

 「わ、分かった・・・」


 苦痛に顔を歪ませながらも、話を再開する男。

 

 「俺の標的は、お前と一緒にこの屋敷へと入っていった女だ・・・」

 

 男の標的人物が誰なのかを聞き終わると、ヒビキは眉をひそめながらその目的を追求する。


 「なんでアイツを狙う? いや、それに今のお前の会話で一つ気になる部分がある。どうしてお前は〝獣人〟なんてワードを知っている?」


 ヒビキが気になった部分、それは男の口にした獣人という単語であった。


 この単語の意味を理解しているのは現在この屋敷内に居る別世界からやってきた研究者のツナギだけの筈だ。だが、この男は別世界からやって来た自分の標的である猫香を獣人と言った。


 この獣人という言葉を知っている、それはつまり――――


 「お前・・・別世界からやって来たのか?」

 「それは・・・・・・」


 男は目を逸らしながら口を一瞬紡ぐが、ここで黙り込めば殺されかねないという恐怖感から白状して答えようとする。


 「そうだ・・・俺は――――」


 男の言葉は此処で途切れた。

 しかし、それは男が再び黙り込んだからではない。


 「ぶばっ!?」

 「!?」


 次の瞬間、男の腹部内部から凄まじい爆発が起こる。

 内側から破裂した男の腹部からは辺り一面に鮮血をまき散らした。それをヒビキは自分の前面に薄い氷の膜を張る事で自分に返り血が付着することを防ぐ。


 「あ・・・ぎ・・・ぐ・・・」


 男は口からもゴハッと血の塊を吐き出すと、そのまま地面に倒れ込む。

 

 「チッ・・・」


 舌打ちを一つするヒビキ。

 どう見ても手当すれば一命は止められる、などという次元の負傷ではない。何より、男の眼からは完全に光が消えていた。


 「・・・・・・」


 今の男の死に方、明らかに自らの意思で引き起こした自殺という感じではなかった。少なくとも目の前の男は自分の正体や猫香を襲った動機などについて話そうとしていた。もしも自殺して全てを闇に葬るつもりならば何もしゃべらず即座に死を選んでいた筈だ。


 ――――何より、自分の背後から感じる魔力があの男の自殺ではない事を証明している。


 「次から次へとよ・・・・・・」


 背後を振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。

 

 「はぁ~い、初めまして美少年君♪」


 そこに立っていたのは紫の髪をした一人の女性であった。

 見た目で言えば絶世の美女であるが、ヒビキの眼にはその美貌など入りはしなかった。そんなものが霞んでしまうほどに女から感じる魔力はどす黒く、ヘドロの様に粘っこいもので思わずヒビキは顔をしかめる。


 「お前は・・・誰だ・・・?」


 ヒビキは魔力を全身から放出し、油断なく目の前の女を警戒する。

 ここまで接近されるまで、自分は目の前の女の魔力を感知することが出来なかった。もしも目の前の女が魔力を自分に気付かれることも無い程に巧みにコントロールできるならば、それだけで中々の実力者である事は分かる。


 「そう警戒しないでよ。別にあなたに手を出すつもりはないわ」


 自分は敵ではないとアピールをしてくる女。そこには満面の笑みが浮かんでいた。

 だが、ヒビキは目の前の女の言葉など当然一欠けらたりとも信じてはいなかった。いくら穏やかな口調で話して来ようと、コイツから感じられる魔力は思わずむせそうになるほどどす黒いのだから。特に、感知力に優れているヒビキは他の者よりその邪悪さを感じ取っていた。


 「誰なのかを聞いているんだよ・・・」


 イライラとしながら再度、目の前でむかつくほどに満面の笑顔を浮かべている女に尋ねるヒビキ。

 

 「イライラしないの。カルシウム足りてないんじゃない?」


 女は馬鹿にするかのようにそうヒビキに語り掛ける。

 その次の瞬間、女目掛けて氷の竜が大口を開けて眼前へと迫っていた。

 

 「グオオオオオオッ!!」


 氷の竜は雄叫びと共に大口を開けて女へと突進する。そして、そのまま竜は女へと激突し、周囲には土埃が激しく巻き起こる。

 

 「・・・・・・」


 ヒビキは警戒を緩めず、土埃で姿の見えなくなった女の居場所を観察し続けていた。今の攻撃であの女を仕留めれたとはヒビキは欠片も思ってはいなかった。なぜなら土埃の中からは未だにどす黒い魔力をはっきりと感じることが出来るのだから。

 

 「まったく・・・見た目とは違って乱暴なのねぇ」

 

 女の声が聴こえてくると同時に、激しい爆発が起こる。

 周囲に蔓延していた土埃は散り、女の姿が再び露わとなる。その足元にはヒビキの作りだした氷の竜が粉々に砕かれていた。


 「爆発・・・さっきの男もその力で殺したって事か」

 「んふふ~、ど~かしらねぇ~」


 どこまでもふざけた態度を取り続ける女。さすがにヒビキも苛立ちが限界へと近づきつつあり、今まで以上に強大な魔力を噴出させながら殺気を飛ばしてやる。


 「いつまでもくだらないおしゃべりに付き合う気はない・・・洗いざらい全てを吐け」

 「・・・・・・」


 ヒビキの態度を見てさすがにこれ以上はからかうのはまずいと感じたのか、女は肩をすくめて小さくため息を吐いた。


 「はいはい、分かりましたよ」


 髪を搔き上げながら薄く笑うと、彼女は自分の正体について語り始める。


 「私の名前は――――」


 女が自分の名を言おうとしたと同時、ヒビキの背後から複数の女性の声が聴こえてきた。その声の主たちを知っているヒビキは小さく舌打ちをする。


 この状況、出来る事ならこの場にやってきた彼女たちには足を運んでは欲しくなかったというのが彼の本音であった。


 「ご主人様! 何があったんですか!?」

 「凄い爆発音が聞こえて来たわよ!」


 その場にやって来た三人は先程まで話していた猫香、綾猫、そしてツナギであった。

 

 「なっ!? どういうことなの!?」


 この場にやって来た三人の内、ツナギが大きな声を出しと驚きを表すような声を上げる。

 一緒にやって来た猫香と綾猫はツナギの反応に思わず戸惑う。しかし、ツナギは隣に居る二人の反応よりも目の前にいる女の存在に同じく戸惑っていたのだ。


 何故なら、彼女がこの場に居る事は在り得ない事なのだから・・・・・・。


 「どうして・・・あなたが〝この世界〟に居るのかしら・・・?」

 

 ツナギのその反応にヒビキは一瞬で察した。


 「(やはりな・・・さっきの男が獣人と言う言葉を使っていた。そして、この女はあの死んだ男の関係者・・・それはつまり・・・)」


 ヒビキが目の前の女を睨み付けると、彼女はクスクスと笑いながらこの場に居る者達へと挨拶をした。


 「初の顔合わせの人は初めまして、そしてそこにいるツナギさんはお久しぶり。私の名前は刹倫(さつりん)ドクカ。そこに居るツナギさんと同じく――――別世界からやって来た者よ」




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