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魔法ができてしまったこの世界で  作者: 銀色の侍
獣人世界からの刺客編
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第百六十六話 氷の少年の苛立ち


 ツナギの口から語られた猫香に関する話、それを聞いた猫香本人は戸惑いながらもその現実を受け入れていた。自分が別世界からやって来た住人である事、そして人と魔獣の間に産まれた半獣である事、しかし、ここで彼女は一つ気になる事が残っていた。


 彼女がまだ引っかかっている事、それは――――


 「でも・・・私がこの世界に跳ばされた理由は何なんでしょうね・・・?」


 そう、今の話を振り返ると猫香がこの別世界へとやって来た明確な理由が解らないままだ。しかし、その点に関してはツナギにも解らない以上、彼女に追及しても無意味である事は猫香だって分かっているのでその事に関してはあまり深くツナギに聞く事も出来なかった。


 ツナギも猫香がやって来た理由に関しては頭を小さく左右に振って分からない事をアピールする。


 「残念だけど・・・あなたが此処にやって来た理由は私にも・・・あなたが此処に飛ばされた時の記憶が残っていれば良かったんだけど・・・」


 明確に言えば彼女がこの世界にやって来た時には、跳ばされた理由だけが別世界にやって来たショックかどうかは不明であるが、頭から抜け落ちていた。それ以外のことならばススムによって記憶を消されるまでは憶えていたのだ。


 「でも・・・今の私は自分の世界についても憶えていないんですよね・・・あのツナギさん、もしよかったら私の世界の事、もっと教えてくれませんか? もしかしたらこの世界に跳ばされた理由も分かるかもしれないので」

 「それはもちろん構わないわ。私も色々と話してあげようと思っていたし・・・」

 

 とりあえず今は自分の元居た世界についての話を聞こうとする猫香。

 これまで黙っていた綾猫も別世界の話には興味があるのか、自分にも教えてほしいと頼み込んできた。


 だがそんな中、一人だけその輪の中へと入ろうとしない人物が居た。


 「・・・・・・」


 猫香の付き添いでやって来た少年、桜田ヒビキである。

 彼は壁にかけていた腰を離すと、部屋の扉の方へと移動する。


 「え? どこへ行くんですかご主人様?」

 

 猫香がヒビキへとそう尋ねると、彼は振り返る事も無くただ一言だけ呟いて部屋を出た。


 「・・・帰るんだよ」

 「へ?・・・え、どうし――――」

 

 猫香の言葉を最後まで聞き終わる事もせず、言葉の途中で扉を閉め、投げかけられた言葉を強制的にシャットアウトした。


 「ちっ・・・糞が・・・」


 扉を閉め終わると彼は小さく吐き捨てた。

 だが、彼の口から発せられたこの言葉は部屋の中に居た三人に向けられたものではない。


 「せっかくの再会に水差そうとするなよ・・・」


 そう言いながらヒビキは屋敷の外へと移動を開始する。


 今更であるが、この少年の魔力の感知力はずば抜けている。故に、この屋敷に居る人物達が誰も気づいていない、新たに迫って来ている魔力の存在にも気付いていた。


 そう、ばれぬ様うまく隠している魔力と、そこに込められている明確な殺意、この屋敷の外から彼は確かに感知できていた。


 「はあ・・・」


 そっとため息を吐きながら魔力を殺し、目的の人物の元まで歩いて行くヒビキ。

 その顔には、隠しきれない苛立ちの表情が表れていた・・・・・・。







 綾猫達が住んでいる屋敷より少し離れた木陰では、一人の人物が屋敷の周囲を観察していた。

 自分の存在が気付かれぬ様、魔力を極力抑え、現在この屋敷の中に居る一人の少女の存在を狙っていた。

 

 「・・・・・・中々出てこないな」


 見た感じでは三十代半ばといった風体の男、彼は屋敷の中に居る〝ある人物〟が出て来るのを待っていた。


 その人物を殺す為に・・・・・・。


 「かつて住み着いていたこの屋敷に戻って来ると思っていたが・・・本当に戻って来るとはな・・・化け猫が」


 男は屋敷の中に居るであろう一人の少女に向かい、毒を吐いた。


 「はやく出てこい・・・一発で仕留めてやる」


 そう言うと、男は手元に換装の魔法を使い、狙撃用に特化した小銃の狙撃銃のスナイパーライフルを手元に出現させる。

 

 「はやく出てこい・・・・・・」


 息をひそめる様に小さな声で一人呟く男。


 そう、彼は誰に話しかけるでもなく独り言として小さくこの一言を吐き出したつもりであった。




 「誰を待ってるんだよ? お前・・・?」




 男の背後から自分に向けられて返事を返された。

 その瞬間、男の背筋は凍り付く。


 「ッ!?」


 振り向くこともせず声の聴こえて来た背後から瞬時に距離を取る男。

 顔を向けると、そこには栗色の髪をした少年が一人立っていた。その人物は先程まで自分が観察していた屋敷内に居た筈の少年であった。

 そして、自分が狙っている少女と共に屋敷の中に入って行くところも確認していた。


 「お前・・・いつからいたんだ?」


 男は冷や汗を流しながら、目の前の少年を警戒する。

 そんな男の様子を見て、少年は呆れた様にため息を吐いた。


 「随分お粗末な侵入者がいたもんだな、オイ。こうもヤスヤスと背後を取られるなんてな」

 「ぐっ!」


 男は声を返す代わりに手に持っている小銃を目の前の少年へと向ける。


 だが、引き金を引こうとした直前に男の脚に鋭利な氷柱が突き刺さっていた。


 「ぐっ、があぁぁぁぁぁッ!?」


 余りの激痛に男は手に持っていた小銃を地面に落とし、氷の突き刺さった足を抑え込んで地面へと倒れ込んだ。突き刺さっている氷柱を握り、何とかそれを引き抜こうと脂汗を大量に掻く男。そんな地面に這いつくばる惨めな姿の男を冷めた目で眺める少年。

 彼は無言で右腕に魔力を集中し、そこから自らの個性魔法で作りだした氷の竜を出現させる。


 「なっ! 何だそれは・・・!?」


 少年の作りだした冷気を纏った竜に怯えを見せる男。

 竜は小さな唸り声を上げながら、眼前の獲物を睨み付ける。


 「明確な殺意を持ってここまで来ていたんだ。誰の使いか話せ」

 「誰・・・がぁッ!」


 男は換装を使い両手に拳銃を呼び出し、素早く引き金を引いた。

 しかし、銃弾は少年の肉体に直撃する直前、彼の体を守るかのように氷の壁が出現して銃弾を防ぐ。


 「バカが・・・」


 少年はため息を吐きながら呆れた様に氷の壁を消し、目の前で震えている情けの無い男の姿を蔑んだ目で眺める。

 

 「お前の命なんて簡単に奪えるんだよ。それをしないという事はお前の目的が知りたいって事だろ。お前もそれが分かっているはずなんだから見苦しく抵抗せずに全てを話せ」


 そう言って震えている男のもう片足に氷柱を素早く突き刺した。

 再び大声で絶叫する男、それを黙らせるかのように男の顔を蹴り飛ばす。


 「洗いざらいすべて話せ・・・まさかこれ以上手を煩わせたりしないだろうな?」


 そう言って少年、桜田ヒビキは凶悪な笑みを向けながら脅しをかける。しかも、彼の全身からは膨大な量の魔力と冷気が放出されている。

 余りにも大きな力の差、魔法使いとしての格の違い、そしてここまで与えられた苦痛を前にして男はもはや抗う気力など芽生えはせず、観念して自分の正体、そして目的を話そうと口を開いた・・・・・・。



 

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