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魔法ができてしまったこの世界で  作者: 銀色の侍
獣人世界からの刺客編
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第百六十四話 ツナギの正体


 「馬鹿々々しいな・・・・・」


 桜田ヒビキは思わずツナギの話を遮ってそう言った。

 話の最中に割り込み、しかもこのような発言はいささかいただけないだろう。だが、そう言われても仕方がないのかもしれない。

 

 「別世界なんて存在するのかよ・・・?」


 ヒビキのその言葉には一緒に話を聞いていた綾猫、そしてその別世界から来た猫香ですら信じられないような話であった。ましてや、記憶がない猫香はその別世界の住人だと言われても実感などまったくといっていいほど湧かなかった。


 「話の規模が想像以上にでかすぎる。与太話の類だと思われても仕方ないぞ」

 「ええ、そう思われても仕方ないわね・・・」


 ヒビキの言葉を否定できないツナギ。

 普通に考えてしまえば、別世界から来たなどと言っても普通は信じられはしないだろう。むしろ、ああそうなんだと何の疑問も持たずに受け入れる方こそどうかしている。


 「でも・・・魔法がある位だし、そこまで不思議じゃないのかしら?」


 最初はヒビキ同様に信じられないと思っていた綾猫であったが、魔法という力が存在する事を考えればそこまで逸脱した話ではないのかもしれないと思い始め、そっと呟く。

 確かに、今でこそ魔法という力は当たり前の力として世界では認識されているが、この力も存在する前までは世界でも在り得ないものとして考えられていた。

 だがそれでも、やはりヒビキには別世界などと言われても素直に受け入れることが出来なかった。


 「その話が本当だとして、どうやってこの世界に来たんだよ?」


 ヒビキがツナギにそう問いかけると、彼女は意図的に跳んできたわけではないと告げた。


 「猫香がこちらの世界にやって来た具体的理由は知らないけど、私は〝裂け目〟に呑まれてこちらにやって来たわ」

 「〝裂け目〟・・・?」


 ヒビキが怪訝な表情をする。

 

 「そもそも、世界という物は無限に存在するわ。私の元居た世界、そしてこの世界の二つだけではない」

 「随分詳しそうね・・・」


 綾猫がそう言うと、ツナギは当然と言った表情をしながら答える。


 「私は元居た世界では別世界に関する研究もしていたから」

 「どうして、そんな研究を・・・?」


 猫香がそう問いかけると、ツナギは少し躊躇いながらも訳を答える。


 「猫香・・・記憶の無いあなたは忘れているかもしれないけど、あなたは私たちが元居た世界では獣人と呼ばれる存在として生きていたわ」

 「獣人・・・」


 ここに来て、あっさりと猫香の正体に関する情報が出て来た。

 これには当然、当人である猫香から詳しい情報の提示を求める。


 「あの、獣人というのは・・・?」

 「獣人と呼ばれる存在・・・それは魔物の血を受け継いだ人と魔物の混血の人間よ」


 ツナギの話では、彼女の世界ではこちらの世界とは違い、人間とほとんど容姿に遜色のない人型の魔物が大勢存在するらしいのだ。そして、人間とそんな魔物が結ばれてその間に人と魔物、その二つの血が交わった獣人が誕生するのだ。

 

 「人間と大差ない魔物・・・確かにそういう存在はこっちでは余り見られないな・・・・・」

 

 ヒビキがそう言うと、ツナギはさらに話を続けて行く。


 「ただ、人間と、知識のあるその人型の魔物は軽い対立状態なのよ」

 「・・・戦争でもしているのか?」


 ヒビキがそう聞くと、ツナギは首を横に振る。

 対立といっても、大規模な戦闘が行われている訳ではない。だが、かと言ってこの二種族が友好的かと言えばそうでもないのだ。人間側ではいくら理性があるとはいえ、魔物は危険で野蛮な生き物であると世界で風潮され、逆に魔物も魔物で人間などは軟弱で欲にまみれた生き物であると見下しているのだ。

 しかし、そんな二つの種族の中には、人間の中には魔物を、そして魔物の中には人間を友好的に見ている存在もいる。そして、中にはその二つの種族の間に産まれて来る子供もいた。


 だが、ツナギたちの世界ではそんな人間や魔物、ましてやその二つの血を受け継いだ存在は煙たがられるのだ。


 人間が魔物と友好的に接すれば、同じ人間に白い目で見られ、魔物が人間と友好的に接すれば、同じ魔物に白い目で見られ――――――そして、その間に産まれて来た子は・・・・・・。


 「人間と魔物、二つの血を受け継いだ子は両種族から疎まれたわ」


 ツナギは悲痛そうな表情でそう言うと、ヒビキは彼女にそっと言った。


 「アンタも疎まれ続けて生きて来たということか?」

 「「え?」」


 ヒビキの言葉に猫香と綾猫の二人が振り返って彼の顔を見る。

 

 「この屋敷に居た元主人が言っていた通り、アンタからは特殊な魔力を感知できる。人間と魔物がまじりあうと、血だけじゃなくて魔力も特殊なんじゃないか?」


 人間と魔物の魔力は質が違う。それは恐らく彼女たちの世界でも同じ原理だろう。

 

 だとすれば、今ヒビキがツナギから感じ取った魔力の質に違和感を感じる理由は恐らく一つ。この女は猫香同様に・・・・・・。


 「凄いわね、あなた・・・」


 ツナギはヒビキの事を見ながら驚きの表情を表していた。

 確かに自分の魔力の質は普通の人間とは少し違う。しかし、その違いをこうもあっさり見抜く感知力。並の魔法使いとは一線を異なる事はすぐに解った。


 「そう、あなたの言う通り。私は人ではないわ・・・」


 そう言うと、ツナギは席から立ち上がった。

 そして、彼女の体から眩い光が放たれる。


 「きゃっ・・・!?」

 「くっ・・・!」


 ツナギから放たれたその眩さに思わず目をつぶる猫香と綾猫の二人。

 そんな二人とは違い、ヒビキはツナギから決して目を離さず注意深く彼女のことを観察する。


 眼が痛くなるほどの光と共に、ヒビキの眼にはツナギの背から巨大な翼、光とは裏腹に黒い二つの翼が生える瞬間を目撃した。




 光が収まると、そこには光によって照らされる前と同じくツナギが立っていた。だが、その姿は先程とは大きく異なる部分があった。


 ツナギの背中からは、巨大な黒い対となる翼が生えていた。


 「それが本来の姿か・・・」

 

 ツナギはその黒い背中に生えている翼を軽く震わせながら、黒い羽根を部屋へと舞わせる。


 「そう、これが私の本来の姿・・・私は人と魔物の間で生まれた子よ」


 人と魔物によって創られた存在。

 猫香や綾猫同様、人ならざる容姿をしているツナギ。未だに猫香は口を開けて驚いている。


 「とりあえず、話を続けてもらってもいいか? コイツとアンタのその先の話も聞きたいしな」

 「ええ、勿論よ」


 ツナギはそう言うと、翼を消して再び席へと座る。


 「おい、お前もいつまで間抜けな顔を晒しているつもりだ?」

 「はっ、すいません・・・驚きの余りつい・・・」


 ツナギの正体に思わず驚きの余り固まっていた猫香であったが、ヒビキの言葉ではっとし、開けていた口を閉ざしてツナギの方に向き直る。

 そんな彼女の姿を見て内心ではくすりと小さくツナギは笑った。


 「(記憶を失っても何も変わらないわね、あなたは・・・)」


 目の前にいる猫香は記憶を消されてしまったが、その本質は何も変わってなどいない。

 その事に少しほっとする。そして、彼女はそっとヒビキの方を見た。


 「(いい人に出会えた様ね、猫香)」


 そんな想いと共に、ツナギは中断した話を再開し始めるのであった。

 



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