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魔法ができてしまったこの世界で  作者: 銀色の侍
獣人世界からの刺客編
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第百六十一話 ついに対面


 目的地へと近づくにつれ、猫香の中の心臓の鼓動がどんどん大きくなっていく。

 

 ――――――嗚呼、うるさい・・・・・。


 無意識の内に、ごくりと唾をのんでいた。


 胸の前できゅっと両手を握り、緊張か不安か自分でも判からない、上手く言葉に出来ない感情を抱きながら彼女は歩き続ける。その右隣では綾猫が僅かながら心配そうな表情を見せている。しかし、こんな時にはいったいどういう言葉を掛けてあげればいいのかがよく判らず、彼女の口からは気の利いた言葉が何も発せられない。


 「何だその顔は・・・」


 そんな綾猫とは違い、左隣にいるヒビキは呆れた表情で自分の隣に居る少女に声を掛けた。

 

 「だ、だって・・・」


 猫香は言葉をとぎらせ、俯いてしまう。


 そんな少女の頭をヒビキは無言でパシンと軽く叩いた。


 「あいて! 何をするんですか!?」


 突然無言で頭を叩かれ、さすがに抗議する猫香。

 しかしそんな彼女に対して悪びれる様子も無く、ヒビキは堂々とした態度を貫いたままもう一度彼女の頭を軽くはたく。

 ペシンと小さな音と共に、猫香の頭に衝撃が加えられ視界が揺れる。


 「あうう~・・・もうっ、怒りますよ!」

 

 さすがにいつも笑顔の猫香も、うがーっといった顔でヒビキに抗議する。

 そんな彼女より数歩前に出て歩き、彼は顔を向ける事無く彼女へと呟く。


 「お前に関する手掛かりが見つかるかしれないんだ。もっと喜んでいつも通りのニヤけた顔をしていればいいんだよ・・・」


 そう言いながらヒビキは目的の屋敷へとスタスタと歩いて行く。そんな後ろ姿を眺めている猫香はぷくっーと頬を風船の様に膨らませて見つめる。

 

 しかし、数歩歩くと彼の脚は再び止まった。


 「お前にはその顔は似合わないんだよ・・・」


 とても小さい声でヒビキはそっと呟いた。それだけ言うと、彼はスタスタと再び歩き始めるのであったが、心なしか彼の歩く速度はわずかばかり速まっているように見える。

 一瞬ポカンとする猫香であったが、彼のそのセリフには微かに・・・本当に微かにではあるが自分を心配してくれている様に猫香は感じた。それは彼女だけでなく綾猫も同じようで、口元に笑みを浮かべながら綾猫は猫香に肩をすくめた。


 「素直じゃないわよね・・・」


 綾猫の笑みを浮かべながら、呆れた声で発せられた言葉。それに対して少年は脚こそは止まらなかったが、一瞬だがぴくんと肩が跳ねた。その光景を猫香は見逃さず、自分の目でたしかに確認すると――――――


 「はぁ・・・・・」


 小さく漏れた声と共に嬉しそうな笑顔を浮かべる。

 彼女は今までの暗い表情から一転して、ヒビキに小走りで駆け寄り隣を並行して歩く。


 「ツンデレですね、ご主人様♪」

 「ちっ・・・」


 猫香の言葉に対してヒビキは一度舌打ちをした。しかし、今の彼の舌打ちは苛立ちではなく恥ずかしさから出た物であることは猫香でもよく判った様で、彼女はヒビキの腕に自分の腕を絡めた。


 「あの子はあの子で単純すぎるかしら?」


 まるで子供の様に些細な事で表情が豊かに変わる猫香を見ながら、綾猫は呆れの視線を向けながら小さくため息を吐くのであった。





 

 

 ヒビキが向けてくれた僅かな気遣いの心に喜び、上機嫌になった猫香であったがそれは屋敷へと辿り着くまでであった。目的の場所、綾猫達の住まいである屋敷に辿り着き、入り口の前まで辿り着いた三人。屋敷のそのでかい扉を開こうとすると、猫香が上ずった声で綾猫の手を掴んだ。


 「あ、あの、ちょっと・・・」

 「どうしたの?」

 「あ~、いやぁ~・・・」


 猫香は具体的な理由は何も述べずに自分の腕を掴んでいるが、表情を見れば緊張から扉を開ける事を恐れている事は明白であり、ここまで来て往生際の悪い猫香の頭をヒビキは再び軽く叩いた。


 「あう・・・」

 「行くぞ」


 そう言って綾猫の代わりにヒビキは屋敷の扉の取っ手を掴み、屋敷の中へと入って行った。


 「さあ、行くわよ」

 「うう・・・」


 ヒビキに続き綾猫も屋敷の中へと入って行き、一人取り残される猫香。しかし、いつまでもここに留まっている訳にもいかない。何より自分は消された記憶を取り戻したいのだ。


 そして、一度深呼吸した後、猫香は屋敷の扉を開いて中へと入って行った・・・・・。




 「こんにちはヒビキさん、それに猫香ちゃん」


 屋敷に入ると、入り口には犬を連想させる耳と尻尾を生やしたメイドがヒビキと猫香の二人を出迎えた。

 自分たちを出迎えたメイド姿の女性を見て、ヒビキは素直に疑問に思った事を口にした。


 「使える主人も居ないのにまだメイド服を着ているんだな」

 「あはは・・・なんだか馴染んじゃって・・・」


 苦笑しながらそう答えるメイド服をきた少女。だが、ヒビキが一番注目している部分はそこではなかった。目の前の少女は、今はこの屋敷に客が来ているにもかかわらず人間にはあるはずの無い獣の耳と尻尾を曝け出している。

 猫香もいつの間にか外では隠していた猫の耳と尻尾をここでは曝け出している。


 「客が居るのに〝それ〟を出していいのか?」

 

 ヒビキが言う〝それ〟が何かは言うまでもない。

 動物を連想させる耳や尻尾など人間には生えてはいないのだから、そんな物を生やしている人物が猫香達の様な者達以外にもいるのならば、コスプレの類でしかないだろう。


 「今は客が居るんだろう?」

 「それが・・・」


 犬耳の少女が言葉を濁す。

 そこへ綾猫の方からヒビキに説明が入った。


 「今ここに来ているお客さん、私たちのことも色々知ってるみたいなのよね」

 「先に言えよ・・・だが、そう言う事ならつまり・・・」

 「ええ、私たちの容姿に疑問を持たず、猫香のことを詳しく知っている・・・」


 やはり今来ている羽車ツナギ・・・猫香について色々と、いや、もしかすれば猫香の正体すらも彼女は知っているのかもしれない。

 

 すると、猫香が綾猫の前に出て来て案内を求めた。


 「どこに・・・居るんですか? 羽車ツナギさんは・・・」


 ここまで来た以上、もう戸惑う事、逃げる事は許されない。人とはかけ離れている自分はいったい何者なのか? その答えを、この屋敷で自分を待っている女性ならば知っているのかもしれない。

 

 「こっちよ・・・」


 綾猫は猫香にそう言って、羽車ツナギの待つ客室へと彼女を案内する。


 「行くぞ・・・」

 「はい・・・」


 綾猫の後にヒビキと猫香の二人がついて行く。

 広い屋敷とはいえ、ここから客室まで一分程度で辿り着く。


 「(長い・・・)」


 しかし、たかだか一分で着くはずの客室までの道のりが猫香にはとても長く感じた。一歩一歩の足を踏み出す時間が長く感じる。本来ならば一秒にも満たない動作、実際は一秒もかかってはいない。だが、猫香にはそれがとても長く長く感じる。

 だが、それでもいずれは辿り着くことが出来る。目的の人物が待っている客室へと・・・・・。


 そして、遂に猫香は今も自分を待っている客室前へと辿り着く。

 その部屋の扉をノックして、中に居る人物に綾猫が声を掛ける。すると、中からは女性の入室を許可する返事が返って来た。部屋に入る事への確認作業が終わると、綾猫はドアノブ掴み、そして回した・・・・・。


 


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