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魔法ができてしまったこの世界で  作者: 銀色の侍
獣人世界からの刺客編
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第百六十話 羽車ツナギ


 E地区には、猫香の様に獣の耳と尻尾を生やしている女性達が住んでいる屋敷が存在する。

 その屋敷は、探朽ススムという一人の研究者によって建てられた。そして、その屋敷で獣の耳と尻尾を生やした女性達はメイドとして、ススムに尽くしていた。


 しかし、その屋敷の地下では探朽ススムはメイド達を使い、秘かに実験を行っていた。

 そして、彼の実験により多くのメイドが命を落とした。彼にとって彼女達は唯の実験動物に過ぎなかったのだ。


 だが、メイドの一人は真実に気付き、屋敷を抜けて助けを求めた。


 そして、そのメイドは一人の氷の魔法使いに助けられた。


 その少年は、桜田ヒビキ――――――







 多大センとの遭遇の後、それ以上はさすがに誰とも遭遇する事は無いだろうと思いながら帰路へと着くヒビキと猫香。二人はその後は特に何のイベントが発生することなく、マンションへと歩き続ける。道中では猫香が話し掛けて来てうるさかったのだが、知り合いに自分と猫香の二人が歩いている場面を目撃されるよりは遥かにマシと言えるだろう。

 そしてついにマンション付近まで辿り着いた二人であったが、そこでヒビキの足が止まった。


 「・・・どうかしたんですか?」


 それまで順調に歩いていたヒビキが突然歩みを止めた事で、猫香もヒビキの隣で止まると、どうしたのかを尋ねた。


 「誰かいるな・・・」


 ヒビキはそれだけ言うと、再び歩き始めた。

 猫香は小首を傾げながらも、慌ててヒビキの後を追い始めた・・・・・。




 目的のマンションに辿り着き、自分たちの部屋の前までやって来たヒビキ。そして、部屋の前では一人の女性が座り込んで居た。


 「何で此処にいるんだ?」


 ヒビキがやって来た事に相手も気付き、座り込んで居る姿勢から立ち上がり声を掛けて来た。


 「こんにちはヒビキ、それから猫香も」

 「あっ、綾猫さん!」


 猫香が目の前の女性の名前を呼ぶ。

 やって来たのは、ヒビキによって救われた女性、綾猫であった。

 






 ヒビキは現在、自分の住んでいるマンションの自分の部屋――――――ではなく、綾猫が住んでいる屋敷目指して歩いていた。

 正直、自分の部屋の前までやって来て部屋に入る事も無く、別の人間が生活している屋敷に赴くことになるとは思ってもいなかった。


 「はあ~・・・っ」


 今日は外でこれ以上は吐く事は無いと思っていた、しかし再びヒビキの口からは盛大なため息が吐き出されるのであった。

 そんな彼のことなどお構いなしに、自分の前を歩いている猫香と綾猫は他愛のない話をしながら歩いている。


 「おい・・・」


 微かに苛立ちが籠っている声でヒビキは猫香に声を掛ける。

 

 「何ですか、ご主人様?」

 「何で俺まで綾猫達の屋敷に行かなきゃならないんだ? 用があるのはお前なんだろう・・・」


 ヒビキが文句を胸の内に留めず、堂々と口にする理由はこれだ。

 綾猫が自分の部屋の前で自分たちを待っていたのは、猫香に用事があったかららしいのだ。それについては別段ヒビキは何も思う事はなかった。彼女が自分のマンションへ訪れる事は今回が初めてではないし、そして用事があるのは猫香であるのだから。ならば自分には関係がないだろうと思っていた。


 綾猫はどうやら、猫香を自分たちの住んでいる屋敷へと呼びたいようなのだが、ここで猫香がヒビキにも一緒に行こうなどと言い出したのだ。

 初めはヒビキも拒否していたのだが、結局猫香に圧されて同行する事となってしまった。

 

 「だって、私一人じゃ寂しいですし♪」


 無邪気百パーセントといった笑顔でそう答える猫香。

 太陽の様な明るく、そして可愛らしい笑顔は見れば異性をときめかせるだろうが、この氷の少年はどうやら例外の様で、彼の持つ個性魔法と同様、その瞳はとても氷の様に冷たい物であった。


 「二人共、相変わらずね」


 そんな二人の様子に綾猫は小さく笑った。だが、すぐに彼女は真剣な表情をしてヒビキのことを見る。


 「でもヒビキ、私としてもあなたには動向をしてほしかったから丁度良かったわ」

 「・・・どういう意味だ」


 猫香と違い、綾猫の表情は真剣な物であったため彼の表情の色も僅かに変わる。

 

 「実は今、屋敷にある女性が訪ねて来てね・・・その人、猫香に会いたいらしいのよ」

 「私に・・・会いたい人?」


 猫香は自分に会いたいという人物に疑問を抱くが、対するヒビキは彼女と違いその人物が何者なのかの予測が立っていた。


 「羽車・・ツナギ・・・」

 「!!」


 ヒビキの口にした名前に猫香は大きく反応した。

 そして、綾猫は彼の出した名前にゆっくりと頷いたのであった・・・・・。







 綾猫達が暮らしている屋敷、そこの客室では一人の女性がこちらへと向かってきている一人の少女のことを待ち続けていた。


 「・・・・・」


 女性の顔は落ち着いたように見えるが、その心の中は僅かながら緊張していた。

 

 「・・・・・」


 ちらりと壁にかけてある時計を見ると、この屋敷に来てからもう三十分近くの時間が過ぎていた。

 今、この屋敷で生活している一人の綾猫という人物が自分の目的の少女をここへと連れてきている。


 「猫香・・・」


 微かだが、女性の口から一人の少女の名前が零れ落ちる。


 彼女、羽車ツナギは部屋の窓から映る外の景色を眺めながら、こちらへと向かっている少女を再び待ち続けるのであった・・・・・。







 一方でお目当ての人物である猫香本人は、綾猫から自分を待っている人物の名前を聞き驚いていた。

 

 「羽車ツナギさん・・・その人って確か・・・」

 「ええ、あの探朽ススムが私たちや、あなたたち二人に話していた研究者。そして、あなたと過去に繋がりがあるであろう人物・・・」


 綾猫の言葉に猫香は無意識に唇に指をあてて、今までのおちゃらけていた雰囲気が明らかに一変した。それは無理も無い事だろう。探朽ススムに記憶を都合のいいように消され、自分がいったい何者なのかすら自分自身でも解っていないのだ。

 しかし、探朽ススムの話では、その羽車ツナギと言う人物は記憶を消される前までの自分とよく話をしている現場を目撃されていたらしい。

 

 自分の消された記憶の謎、そして何者なのかが解るかもしれない・・・・・。


 しかし、綾猫から話を聞いたヒビキはどこか信用をしていないような表情であった。


 「そいつ、信用していいのか? 探朽ススムの件もある。もしかすればコイツを利用しようとしている輩だったらどうする」


 探朽ススムの様に、綾猫達を騙していた様な輩が人間とは異なる猫香を利用しようとしている可能性も考えられる。

 

 「そうなのよね。もしかすればヒビキの言うパターンも考えられるのよね。何しろ私も元は騙されていた身だから・・・そこで、あなたにも来てもらおうかとも考えていたのよ」


 ヒビキの戦力は綾猫はよく分かっている。もしも今屋敷に来ている女性が良からぬ輩ならば、直接猫香が今住んでいる場所に案内するのは不味いと思い、屋敷で待ってもらう事にしたのだ。そして、ここにいるヒビキの力も出来る事ならば借りたいと考えていたのだ。 


 「まったく、今日は厄日だ・・・」


 だが、もしかすれば猫香に関する秘密が何か分かるかもしれない。

 文句と共にそんな期待をヒビキは、そして期待と共に微かな不安を抱きながら猫香の二人は羽車ツナギの待つ屋敷を目指して歩き続けるのであった・・・・・。




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