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魔法ができてしまったこの世界で  作者: 銀色の侍
獣人世界からの刺客編
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第百五十九話 中学時代の因縁


 桜田ヒビキは自分の前に現れた女性に対して盛大にため息を吐いた。いったいこれで、自分は今日何度のため息を吐いているのだろう。すでに隣に居る猫娘の相手だけでも相当の疲れが溜まっているのに、その上、自分に対して良い感情を抱いていない相手との遭遇など本当に勘弁してほしい。

 

 「何か用か? 多大セン・・・」

 「人の顔を見てため息を吐くなんて・・・随分言い度胸ね」


 ヒビキに声を掛けて来た少女、センは苛立ちを顔に表しながらヒビキのことを睨み付ける。

 

 「私が望んでアンタに会いに来るわけないでしょう。私だって休日にアンタと顔なんて合わせたくなかったわよ」


 腕組をしながら、片足で軽く何度も地面をパタパタと踏みつけるセン。

 その様子を見るだけで、彼女の機嫌が最大限に悪い事は一目瞭然であり、自分とここで出会った事も意図して起きた事ではなく、本当に偶然の出来事だったのだろう。

 しかし、この出会いが意図して起きた事か、それとも偶然かなどの過程はヒビキにとってはどうでもいい事だ。


 「それより・・・誰、その子?」


 センはヒビキの隣に居る猫香に視線を移しながら、彼女のことをさりげなく聞いてきた。

 

 「(ちっ・・・)」


 センの質問にヒビキは内心で軽く舌打ちをした。

 

 この質問は彼にとっても予想通りの物であった。

 もっと言えば、猫香と二人で外出して顔見知りに出会った場合この質問が投げかけられる事は予測が立っていた。

 それ故にヒビキは猫香と二人で外出などは避けておきたかったのだが――――――


 ――――『ご主人様と一緒が良いです・・・』


 ヒビキに涙目でそう訴える猫香。

 彼女のそんな反応に思わず「う・・・」とたじろいでしまい、最終的には押し負けてしまったのだ。


 どう言い訳しようと考えていると、猫香が一歩前に出てセンに頭をぺこりと下げる。


 「はじめまして! 私、ごしゅ・・・んんッ、ヒビキ君の親戚の桜田猫香といいます!」

 「(はあ? 親戚だぁ!?)」


 猫香の勝手な設定に思わず驚きの声が漏れそうになってしまうヒビキ。しかし、そんな彼のことなどお構いなしに、猫香は勝手な話をどんどん作って話していく。


 「今はわけあってその・・・ヒビキ君の住んでいる部屋のマンションでお世話になっているんです」

 「(それ以上喋るな・・・)」


 猫香と自分が同じマンション、それも同じ部屋で生活をしているという事実は出来る事ならば周囲には知られたくない事実だった。変な誤解を抱かれる恐れもあったから・・・・・。

 それも、自分のことを目の仇の様に思っている女が相手ならば、尚更知られたくはなかった。


 「親戚ねぇ・・・」


 猫香の話を聞き、とりあえずはセンも信じた様子ではあったが、それはそれで面倒な事になりそうであった。


 「アンタがこんな女の子と同じ部屋で生活していたなんてね」

 「・・・・・親戚を預かっているにすぎん」 


 センは何やら、いやらしい笑みを微かに浮かべながらヒビキのことを見ている。そんな彼女の視線をヒビキは微かに苛立ちながら受け止めている。


 「・・・・・」


 二人の放つ険悪な空気に当てられ、居心地の悪そうな表情をする猫香。モジモジと指を合わせているその仕草は少し可愛らしいのだが、同時にどうすればいいか分からず戸惑っている様子がよく分かる。

 

 「まぁ、仲良くね・・・猫香、てっ言ったわね。襲われないように気を付けなさいよ」


 センが猫香に放ったその発言に、ヒビキが反応した。


 「殺すぞ・・・」


 殺意の籠った視線でセンのことを睨み付けるヒビキ。


 「ふん・・・」


 そんな視線に臆する様子も見せず、彼女は薄ら笑いを浮かべながらこの場を立ち去って行った。そんな彼女に小さく舌打ちをすると、ヒビキも自分のマンションを目指して歩き始めた。それに慌てて猫香も後に続いて行く。


 「ご、ご主人様、ごめんなさい。勝手な事を言って・・・」

 「ああ、まったくだ」

 

 歩きながらそう返すヒビキ。

 彼の背中について行っている猫香には、ヒビキの表情は分からない。


 「あ、あの・・・」


 勝手な事を言ってしまった事に対して改めて謝罪した方が良いと思ったが、余りしつこくすると余計に怒りを買ってしまうのではないかと不安になり、中々言葉が思い浮かんでこない。

 

 しかし、そんな彼女の不安を察してかは分からないが、ヒビキの方から猫香に話し掛け始めた。


 「あの女とは・・・過去に色々とあった。別にお前の下手な嘘に腹立っている訳ではない」


 ヒビキがそう言うと、猫香はとりあえず自分が原因ではない事にホットした顔をするが、しかし今度はあの多代センとヒビキの関係について気になり始めた。どう考えてもこの二人、仲睦まじいとは言い難い関係であったことは、場の雰囲気からすぐに解った。


 「あの・・・ちなみにあの人とはどういった・・・・・」

 「・・・・・」


 猫香が少し遠慮しがちに彼女との関係について追及をする。

 ヒビキは質問をされ、少し間を空けた後に仕方なく猫香へと話を始めた。


 「中学時代、奴と俺は同じ学園に在籍していた」

 「へえ~、じゃあ中学時代からのお知り合いという事ですね」

 「・・・その緊張感の無い言い方はやめろ」

 「あ、すいません・・・」


 ヒビキが軽く注意すると、軽く頭を下げる猫香。

 自分だって好きであの女と関わり合いを持っている訳ではない。そもそも、自分と多代センとの険悪な関係が出来上がった理由だってあの女の方にあるのだ。

 別段思い出したくない記憶ではあるが、興味津々といった眼で自分を見ている猫娘にその理由を説明し始めるヒビキ。


 「中学時代の過去、アイツは自分の所属しているクラスの生徒を一年、二年の間、取り仕切っていた存在だった・・・」


 過去の中学時代、多大センはその時からすでに個性魔法に目覚め、魔法使いとしての才能に恵まれていた少女であった。そして、頭の回転もよく、成績も優秀な優等生として知られていた。

 そんな彼女は人一倍のプライドを持っており、自分よりも明確に上の存在だと分かる生徒を面白く思っていなかった。勿論、だからと言って陰湿な行為を陰で行う事はなかったのだが、彼女が三年生となり、新たなクラスとなった時、事件が起きた。


 中学三年生、多大センはここにいる桜田ヒビキと同じクラスに所属したのだ。しかし、今でさえどこか冷たさを感じるヒビキではあるが、以前の彼は氷のように冷たい人間性であったため、当然プライドの高いセンとは合わずに揉める事となった。


 「それで結果、魔法を用いての戦闘で白黒つける事になってな・・・まあ俺が圧勝したわけだが・・・」


 それ以降、センはヒビキに対して強い敵対心が植え付けられた。


 「一度の敗北であそこまで根に持つとは・・・プライドの高い奴ほど器が小さいもんだ」

 「あ~、それは分かるかもです」


 ヒビキの言葉にうんうんと首を振って頷く猫香。

 そんな彼女に対して彼は言ってやる。


 「プライドなんてなさそうなお前に理解できるのか?」

 「もうっ! いちいち棘のある言い方をしなーい!!」


 そう言うと猫香はヒビキの背中に思いっきり飛びついた。


 「てめっ! 危ないだろう!!」


 勢いよく飛び着かれ、思わず転びそうになるヒビキ。

 

 やはりこの猫娘、あの時に引き取らずに無視して置けばよかったと思う氷の魔法使いであった。

 


 

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