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魔法ができてしまったこの世界で  作者: 銀色の侍
獣人世界からの刺客編
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第百五十八話 猫娘との日常


 E地区内にある巨大図書館、見渡す限り一面が本で囲まれたその空間では、大勢の人間が本を読んでおり、この空間内の静けさを利用して自主的に勉学に励む者もちらほらと居る。

 静寂なそんな場所では一人の少年が館内に設置されている長テーブルで黙々と読書をしており、そんな少年の隣では一人の少女がつまらなさそうな顔で本を読んでいた。


 「ご主人様~、どこか違う場所に行きましょうよ~」

 「うるさいぞ、ここでは静かにしろ」


 小声で隣に居る少年にそう訴えかける少女の猫香、そして、そんな彼女を鬱陶しそうな目で見ながら手元の本に再び視線を戻すヒビキ。

 

 「遊びたいならお前ひとりで何処にでも行けばいいだろうが」

 「ご主人様と一緒に居たいんですよ~。乙女心を察してくださいよ~」

 「(ウザい・・・)」


 本を閉じてヒビキの腕に抱き着く猫香。

 そんな彼女のことを邪魔に思いながら抱き着かれている腕を軽く揺らして振り払おうとするヒビキ。

 ヒビキは本当に邪魔だと感じているのだが、傍目から見れば仲の良いカップルに見える様で、周囲にいる男性達は嫉妬の含んだ視線を彼へと向けている。


 「(くそっ、見せびらかしやがってぇ・・・!)」

 「(デートなら他でやれやぁぁぁ・・・ッ!!)」

 「(羨ま・・・いや、けしからん!!)」


 そんな周囲の視線に猫香は気付いていないが、ヒビキは感づいており、読書に集中したい彼のイライラもどんどんと溜まって行く。

 

 「ちっ・・・」


 小さな声で軽く舌打ちをするヒビキ。

 こんな状況ではオチオチと読書も出来はしない。


 そう判断した彼は席を立つと、今読んでいる本を借りて家で読もうと考える。


 「あ、待ってください」


 そんな彼の姿を慌てて追いかけて行く猫香。

 

 受付で読みかけの本を借りると、図書館を出て行くヒビキと猫香。

 図書館を出ると、ヒビキの腕に自分の腕を組む猫香。そんな彼女にヒビキは苛立ちながら言った。

 

 「お前、そうやって気安く腕を組むなよ。鬱陶しい・・・」

 「そんなこと言わないでくださいよ~♪」

 「はあ・・・」


 やはりこいつは拾うべきではなかったかな、と感じるヒビキ。現在も居候している猫娘であるが、コイツには全く居場所がないといった訳ではない。こいつと同じ様な存在である連中が住んでいる屋敷がこのE地区にはあるのだから、そちらに住めばいいものを・・・・・。


 ちらりと腕にくっついている猫娘に視線を傾けるヒビキ。思えば随分と懐かれたものだ。


 「どうしたんですか?」


 自分に視線が向いている事に気付き、不思議そうな目で見つめて来る猫香。

 そんな彼女に対して何でもないと言ってため息を吐くヒビキ。


 「(早く帰って読書だ・・・)」


 ヒビキが図書館で読み切れなかった本を早く帰って読もうと考えていると、横から猫香の騒がしい声が聴こえて来た。


 「ご主人様! ちょっといいですか!」

 「引っ張るな!」


 突然腕を引かれるヒビキ。

 そんな彼のことなどお構いなしに、グイグイとヒビキの腕を引いて歩く猫香。


 「いたいたいた!」

 

 ずんずん歩いていた猫香は、街中に生えている一本の木の前で立ち止まる。

 その木の上では一匹の子猫が震え、小さな声で鳴いていた。そんな周囲には数人の人だかりができていた。


 「ご主人様、ちょっと待っててください」


 そう言うと猫香は人の波を掻き分けて、木の前に立ち、それを登って行く。

 魔法を扱えるものならばこの程度の木を登ることなど造作も無い。周囲の人間はするすると木を登って行く猫香に感嘆の声を上げている。


 「・・・・・」


 しかしヒビキは顔を手で覆い、盛大にため息を吐いた。

 彼の吐いたそのため息には呆れの色が大きく含まれていた。というのも、猫香は現在スカートを履いているのだ。そんな格好で木に登れば当然――――――


 「おお~っ・・・」

 「白・・・ごくっ・・・」


 下からはスカートの中身が丸見えな訳で、その場に居る男性陣から感激の声が漏れていた。野次馬の中に入る女性陣からはそんな男性達に軽蔑の籠った視線を向けている。

 

 「?・・・きゃあ!?」


 今更ながら自分の下着が丸見えである事に気付き、顔を赤らめる猫香。

 すぐに子猫を抱えると凄い速さで木から降り、そのまま一番近くにいた女性に子猫を預け、人波を掻きわけてヒビキの元まで走って行く。そのままヒビキの腕を掴むと急いでその場から退散を始めるのであった。







 「はあ~~っ、恥ずかしかった・・・」


 先程の場所から随分と離れた場所で顔を抑えて恥ずかしがる猫香。

 その近くではヒビキが自販機でジュースとお茶の二本を購入し、その内の一本のジュースを彼女の赤く染まった頬にぴとっとくっつけた。


 「つめたッ!?」

 「いつまでウジウジしている気だ」


 呆れの籠った眼で猫香のことを見ながら、飲み物の蓋を開けるヒビキ。それに続いて猫香も缶の蓋を開けてちびちびと飲み始める。

 

 「お前も他の人間に任せておけばいい物を・・・」

 「そんなこと言っても、助けてって言っているのに無視できないですよ」


 猫香は動物の声を聴きとる能力があり、先程の子猫が木から降りれず助けを求めていた声を聴きとったのだ。

 そんな彼女の正体は今のところ分かっていない。何しろ彼女自身記憶が欠損しており、いや、意図的に消されており自分に関する情報がほとんど無いのだから。

 

 「お前、自分のことで何か思い出したのか?」


 ふと気になり、猫香にそう問いかけるヒビキ。

 そんな彼の質問に対して彼女は少し落ち込んだ様子で首を小さく横へと振った。


 「何も・・・」

 「そうか・・・」


 ヒビキは短くそう返すと、缶の中のお茶を一気に飲み干した。


 「お前に関する情報はあの屋敷での一件以来何も掴めていないからな・・・」

 「そうですよね~・・・」

 

 猫香は缶の中に残ったジュースを眺めながら、気の抜けたような声で返事をする。


 「でも、記憶が戻らないままでもいいかなぁ~なんて・・・」

 「はあ? なんでだよ?」


 ヒビキが不思議そうな目で猫香のことを見ると、彼女は頬を染めてモジモジし始める。

 

 「だって記憶が戻らなければいつまでもご主人様といれますもん♪」

 「はあ・・・」

 「そ、そんなため息を吐かなくてもぉ・・・」


 ヒビキの反応に少したじろいでしまう猫香に、そんな彼女のことを呆れた目で見ているヒビキ。

 空になった空き缶を自販機の横に備え付けられているゴミ箱へと投げ捨てるヒビキ。彼の手から投げ捨てられた空き缶は放物線を描きながらゴミ箱へと落ちて行く。

 空き缶はカコンッという音と共に他のゴミ箱内に収まっている空き缶と重なった。


 「えいっ!」


 それに続いて猫香も空き缶を投げる、が、ごみ箱の淵で弾かれてヒビキの足元に缶が転がって来る。それを無言で拾い上げてヒビキがゴミ箱へと投げ捨てる。すると、今度は綺麗に収まった。


 「えへへ・・・」


 かっこ悪い所を見せてしまい、恥ずかしそうに頭を掻く猫香。

 ヒビキはそんな彼女に対して、今日何度目か分からないため息を吐いた。


 「行くぞ・・・」

 「あっ、はい!」


 声を掛けると共に、歩き始めようとするヒビキに、慌てて返事を返して立ち上がる猫香。

 そのまま自分たちのマンションへと戻ろうとするが――――――


 「まさか、こんな場所でそのむかつく顔を見るとはね・・・」


 二人の背後から投げかけられた一言の言葉。


 それは心底、嫌なモノを見た人間が放っているような声。


 「お前か・・・」


 ヒビキが振り返ると、そこには自分の予想通りの人物がこちらを睨み付けて立っていた。


 「何か用か? 多代セン・・・」

 

 そこには自分と同じ学園生徒である、顔見知りの一年Dクラス在籍の女生徒が立っていた。




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