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第百五十五話 狂気に満ちた愛


 レイヤーは自分とタクミの間を挟んで立っている創始に指を指しながら、先程自分が聞かされた話をタクミへと語り始める。

 それは、歪んだ愛の話し。そして、目の前の男に人生を、命を奪われた少女の話し。


 「その実玖と呼ばれている人形は元は人間だったのよ。でも、その男が人形へと作り変えてしまったらしくてね・・・」

 「に、人形に作り替えた・・・!?」

 

 タクミが驚きを露わにしながらレイヤーに聞き返すと、彼女は小さく頷いた。


 「仕方がなかったんだよ、こうするしか俺たちが結ばれる方法はなかった」


 レイヤーとタクミの両者に創始が割り込んできた。

 

 「俺の妹のミクは本当によくできた良い子でな、誰にでも優しく、分け隔てなく温もりを与えてくれるような存在だった」


 今とは違い、かつてはまるで天使を連想させる様な優しい微笑みを浮かべていた頃の妹の姿を思い浮かべる創始。


 「そんな美しい心を持つ妹に俺は兄でありながら・・・・・恋を抱いてしまった。それが兄としては間違っているとは最初は分かっていたんだがな・・・・・やはりこの想いは抑える事が出来なかった」


 創始は実玖の髪の毛に手を掛けて、優しく撫でる。

 彼の指の間に実玖の髪が流れて行く。


 「俺の中の想いは日に日に強くなっていく一方だ。そこで、ついに俺は我慢できなくなってな・・・」


 創始は実玖の頬に唇をそっと付けた。

 そんな彼の行動にレイヤーがペッと再び唾を吐き捨てる。

 

 「実玖に俺の想いを告げたんだ。そしたら――――――」







 『お兄ちゃん、私たちは兄弟なんだよ。その気持ちは・・・受け止めてあげられないよ』


 自らの胸の内の想いをミクへと告げる創始。突然の実の兄の告白に思わず固まってしまう妹のミク。しかし、目を見れば兄が本気で言っている事はよく分かった。

 そんな兄の精一杯の言葉に対して、ミクは申し訳なさそうな表情で、しかし誤魔化すことなく俯きながらも答えを告げた。


 『そうだな。ごめんな、変な事を言って・・・』


 創始はミクに頭を下げて謝った。

 頭を下げる兄に彼女は首を横に振って頭を上げるように言う。


 『お兄ちゃん、頭を上げて・・・そんなに謝らないで』


 血の繋がった兄弟からの告白など、普通は気持ち悪がられてもおかしくないのだが、彼女はそんな兄に対しても優しく微笑んでくれる。

 そんなミクの顔を見て、優しさを受けて、創始の中に再び強い感情が芽生える。


 ――――――やはり、ミクが欲しい・・・と・・・


 妹に対する醜い執着。それは拒否されることで更に強くなってしまった。


 そして彼は、とうとう一線を越えてしまう。


 『ところでミク、お前は俺の作った人形はよくできていると褒めてくれたよな?』

 『え、う、うん・・・』

 『そしてこうも言ったよな。自分に出来る事があれば手伝ってくれると』

 『お、お兄ちゃん? いったい何の話を・・・』


 突然の話の変わりように戸惑いを表すミク。


 『協力してほしいんだよ』

 『な、何を・・・?』


 どこか不気味さを感じる創始に微かな怖れを抱き始めるミク。


 『俺の・・・理想の〝創始ミク〟の人形の制作を・・・手伝ってくれよ』


 ――――ザクっ・・・


 『え・・・?』


 突然腹部に強い熱を感じたミク。それと同時に異物感も感じた。

 視線を腹部へと向けると、一本のナイフが腹部へと突き刺さっていた。刃物が刺さった個所から徐々に赤い染みがじわじわと広がって行く。そして、腹部に発生する熱とは逆にミクは自分の体温が低下していく事を実感して行った。


 『おに・・い・・・』


 痛みを感じながらも兄を止めよう気力を振り絞って何とか言葉を発っしようとするが、そんなミクに対して創始は無情にも彼女の腹部からナイフを引き抜くと、もう一度彼女の腹部へとナイフを深々と突き刺した。


 『ぶっ! ・・・・・』


 再び突き刺された刃物の勢いでミクの口から血が噴き出る。

 肉体に侵入してくる鋭い刃は、二度目の侵入でミクの生命の活動を完全に停止させてしまった。

 物言わぬ骸となったミクは腹部に刃を沈ませたまま、そのまま力なくだらりと創始へと寄りかかった。


 『ミク・・・』


 そんな変わり果てたミクのことを彼は抱きしめる。

 ミクの腹部から流れ出て来る血が床下へと流れ落ちて行き、血の池を作って行く。そんな血だまりの中で、死体となった妹を抱きしめる兄。

 常軌を逸した光景、恐らくミクに想いを受け入れてもらえなかったショックで彼の中の何かが壊れてしまったのだろう。

 

 『大丈夫だミク。お前はもう一度生まれ変われる』


 ミクの血で真っ赤に染まったその手で彼女の頭を優しく撫でる。べっとりとした血液は、ミクの髪を血で赤く、紅く、染めて行った――――――







 「――――――止められない愛は、俺に一つの結論へと辿り着かせた」


 創始は実玖の髪を撫でながら、どす黒く濁った瞳でタクミのことを見つめながら言った。


 「ミクを生まれ変わらせて結ばれようと」


 話し終わった彼の顔はどこか清々しさすら感じられた。壊れてしまった彼にはもう、自分の行った凶行を凶行として認識できていなかった。

 だから、レイヤーの侮蔑の籠った視線を向けられても何故そんな視線を向けられるか分からない。


 だから、タクミの怒りの籠った視線の理由も分からない。


 「そして俺はミクの体を作り替え、実玖として生まれ変わらせることに成功した。だが、問題があってな、今のコイツは魔力の補給が無ければ活動を続けられない。しかも、膨大な量の魔力が無ければ感情を芽生えさせる事も出来ない」


 ミクを殺し、新たに実玖として生まれ変わらせた創始であったが、今の彼女は魔力が切れれば動かなくなり、しかも、生前の様に感情を表すことが出来ない。いや、感情を植え付けるすべはあるのだが、それには膨大な量の魔力が必要となるのだ。しかし、今の創始には実玖に感情を与え、そして永遠に稼働し続けるだけの魔力を与えることなどできはしない。


 しかし、その問題を解決すべく彼は様々な情報を手に入れて行った中、ようやく〝不死鳥の炎〟の情報に辿り着いたのだ。永遠の魔力、それを手に入れることが出来れば実玖は再び人間として生き返ることが出来る。


 「もう少しなんだよ。あと一歩で俺の妹は生き返ることが出来る」

 「何があと一歩だ」

 「あぁ?」


 タクミの口からは小さな声が出ていた。

 それはとても小さいはずなのに、不思議と創始やレイヤーの耳にもはっきりと聴こえて来た。

 

 「お前の妹はもうどこにもいない」

 「・・・・・」


 顔を俯かせながら拳を振るわせ、唇を噛みながらタクミは言った。

 そんな彼の様子を見て、ああやはりね、といった表情をするレイヤー。


 「(創始ケイ。アンタは地雷を踏んだわね)」


 レイヤーは二人からそっと距離を取った。

 この後の展開はおおよそ予想が出来る。そこに自分も巻き込まれてはたまったものではない。

 しかし、レイヤーとは違い創始はタクミの言っている事はよく理解できないようだ。


 「何を言っているんだお前は? 妹なら、ミクならここにいるじゃないか」


 創始は自分の隣に居る実玖の手を握って、タクミにそう告げる。

 そんな彼を見てタクミは悟った。この男は、自分の強すぎる狂愛で狂ってしまったのだと。だから、自分が犯した過ちにも気付かない。


 だから、妹を殺してもそれを罪とは思えない。


 「今から目を覚ましてやるよ」


 タクミは右拳を一度強く握ると、創始目掛けて跳躍する。

 一瞬で彼の前まで移動したタクミ。創始はタクミのことを目で追う事も出来ず、彼が消えたようにしか見えなかった。


 そんな彼の顔面に、タクミの拳が深く突き刺さった。


 


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