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第百五十四話 妹

 

 「変態? 随分な言いようだな」

 「それ以外にかける言葉が見当たらないと思うけど?」


 腰に片手を当てながら、レイヤーは侮蔑の籠った視線を向ける。

 目の前に居る男が語った歪な愛の物語、その内容はとてもおぞましく反吐が出そうな内容であった。


 それほどまでに目の前の男の目的が、そして過去に起こした出来事が醜いものなのだ。


 「お前は恋を抱いたことがないからそう思うだけじゃないのか? 愛情を抱いた人間ならそこまで異質な物とは思えないんだが」


 そう言っている創始の表情は、自分に対して心の底から不思議そうに思う顔。

 この男は、自分の話した事が、そして彼の中にある愛という形が歪であることを理解できていないのだろう。そうでなければこんな顔はしない。

 そんな創始にレイヤーはシャッターの向こう側に居る男のことを考えながら言った。


 「なら、アイツに聞いてみたら?」

 「アイツ?」

 「シャッターの向こう側に居る銀髪よ。あいつには恋人が居るからさ、アンタの話を聞いてどうなるか反応を見て見たら?」


 レイヤーはそう言って向かい側の閉ざされたシャッターを指を指した。そんな彼女の向けられた指先の行方を創始は目で追う。

 

 「ほお、あの男にも恋人がいたのか」

 「恋人がいた、という言い方は語弊があるんじゃない。アンタの場合は恋人ではなく、一方的な歪んだ愛情でしょう」

 

 レイヤーはそう言って否定するが、目の前の男にはこの言葉が届くとは到底思えなかった。それほどまでにこの男は手遅れなのだ。


 この男が自分に語った愛の形。それは何処までも歪み、歪み歪み歪み捻じれていた。


 「だが、あの男がこちら側に来ることは出来ないだろう。このシャッターは並の攻撃では崩せない、それはお前の爆撃で証明済みだ。それに・・・今頃あの男は実玖に、俺の最愛の女性にやられている可能性だってあるだろう?」

 「〝最愛の女性〟・・・ね・・・」


 この男が自分に聞かせた話を、久藍タクミが聞けば何と言っていただろうか。いや、彼が聞いていたのならば、あの男は口で話すよりも先に拳で応えていただろう。黒川ミサキに強い愛を抱いているあの男ならば、この男の話した愛がどれだけ間違っているか分かるはずだ。


 その時、創始の後ろに見えるシャッターが破壊され、そこから一人の人影が吹き飛んできた――――――


 「な、なに!?」


 自分の足元までシャッターを乗り越えやって来た人物を見て創始は驚いた。彼の足元にはタクミと戦っていた実玖が、傷だらけになりながら横たわっているのだから。


 「実玖がやられただと。それに、あのシャッターを破壊したというのか・・・!」


 破壊されたシャッターへと目を向ける創始。

 そこから実玖に遅れてもう一人の人影がこちらへとゆっくりと歩いてきた。その人物はいう間でもなく久藍タクミであるが、創始は彼の姿を見て思わず後ずさった。


 そこには金色の輝く、長く美しい髪をした少年が立っていた。


 「お前・・・その姿は・・・」


 創始の声は無意識の内に微かに震えていた。

 見た目の変化以上に、今のタクミから感じる魔力は容姿が変化する前とは比べ物にならない程に強大なものであったのだ。


 「ははっ、やっぱアイツを呼んで正解だったわね」


 レイヤーは創始に気の毒そうな目を向けながら、クスクスと小さく笑い声を漏らした。今の久藍タクミの変化は自分も見た事の無い変化であるが、以前自分が対峙した時とは比べるまでも無い程に強大な力であることは一目瞭然だ。

 その証明として彼はあの強固なシャッターを見事に破壊してのけた。


 そしてそれを行った当の本人はシャッターを超え、創始の足元に倒れている実玖に視線を傾けている。


 「驚いたよ。ソイツ、どうやら魔力で形成された分身を作り出せる力があるようだな」


 実玖との戦いでタクミが苦戦を強いられた実玖の見えない攻撃、その正体はタクミの予想していた通りの透明分身であった。しかし唯の分身とは違い、完全な魔力で構成され、しかも目では捉える事が出来ずタクミも中々に苦戦を強いられた。しかも、特殊な分身ゆえか気配も感じる事は出来なかったのだ。


 では、どうやってタクミは実玖の個性魔法を打ち破ったのか?


 「どんな魔法にも欠点はあるものだな。こいつの分身は魔力で構成されている、だったら魔力の探知に集中すれば位置を掴む事が出来る」


 実玖の生み出す分身はタクミの言う通り、完全なる魔力の人型の塊。しかし、実玖は対策として周囲に魔力をまき散らす事で分身の位置を探らせまいとした。しかも、魔力を放出すると同時に手を向ける事で相手にその行為に意味があるかと思わせ意識を本命から逸らそうとまでした。その実玖の策にまんまと引っかかり、タクミも彼女の魔法の本質を見抜くことに手間取ってしまったのだ。


 だが、種が解れば対策も立てられる。タクミは周囲に散布された魔力を自らの最大限の力で全て吹き飛ばしたのだ。タクミの魔力で逆に空間が覆われたことで、実玖と同じ魔力をした人型の塊を捕らえることに成功し、その分身と本体を同時にシャッターごと吹き飛ばしたのだ。

 だが、タクミは実玖の実行したこの作戦にいささか驚きを感じていた。


 「しかし、まさか人形がこんな作戦を実行するとはな。表情の変化はないが、随分と人間に近い考えを持っているな」


 まるで人間の様な思考にタクミは相手がとても人形とは思えなかった。

 だが――――――


 「・・・・・」


 実玖は言葉を発せず起き上がる。

 その顔は相も変わらず怒りも、苦痛も、何もない表情であった。


 「この無表情は人形と思ってしまうがな・・・だがそれ以外はほとんど人間だな」


 実玖は何も答えず、再びタクミへと向き合う。


 「ああ実玖、こんなに傷だらけになって」


 そんな実玖の事を創始は気遣う様に優しく頬を撫でる。

 自分たちの前で人形相手に気遣うその様子を見てタクミは少し不気味そうな顔をしながら一歩後ずさる。

 レイヤーはうげっと小さく舌を出している。


 「キモイわねぇ、この変態は」

 「ふん、何とでも言え。愛する妹を気遣う事の何がおかしい」

 「妹・・・だと・・・?」


 創始が実玖の頬を撫でながらそう言うと、タクミは不可思議な顔をする。自分の作った人形を妹として扱う彼の行為にほのかな異常性が漂ってくる。しかし、創始が実玖と呼ばれる人形を妹として扱っている理由は自分が制作した人形だからという理由ではない。


 彼女は正真正銘の創始ケイの妹なのだから・・・・・。


 「おい、どういう事だよ? この人形がコイツの妹?」


 話がよく見えてこず、タクミがレイヤーへと疑問を投げかけると、彼女は創始に対して侮蔑の籠った視線をぶつけながら先程自分が聞いた話をタクミにも話し始めた。


 「コイツが〝不死鳥の炎〟を求めている理由はアンタも聞いていたけどそこの人形に命を宿す事。でも、そうする理由は何だと思う?」

 「そうする理由・・・?」


 レイヤーは床にぺっと唾を吐き捨て、先程に自分が教えられたその理由を話し始めるのであった。


 「コイツは作りたかったのよ」

 「何を・・・?」


 タクミの言葉の後、三人、いや四人の居る空間に静寂が訪れ、そしてレイヤーが一度呼吸すると言葉の続きを話し始めた。


 「――――――自分の理想の〝女〟を傍に置いておきたかったのよ」

 

 レイヤーの視線の先では、実玖のことを相変わらず創始が愛で続けていた。

 タクミは小さく唾をのみ込みながら、レイヤーの話を聞き続けるのであった・・・・・。

 



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